ライブ・ネイションが有料ライブ配信に本格参入、スタートアップVeepsの買収はライブ収益化を加速させるか?

コラム All Digital Music

ライブビジネス大手のライブ・ネイションは、有料チケット制ライブ配信サービスの「Veeps」(ビープス)の買収を発表しました。今回の発表は、コロナ危機で苦しむライブ・ネイションが、新型コロナ以降初めて行った企業買収でした。

新型コロナウィルス感染拡大の収束が見えない中、ライブプロモーション世界最大手のライブ・ネイションは以前、2021年にはライブが復活すると予測してきました。しかしながら、本格的に再開するのは、2022年に先送りになるという見通しが、世界の音楽業界では高まっています。

こうした中で、チケット制のライブ配信の領域は、今後も需要が高まることが確実視されています。特に、経済的損失を回復させる上で、ライブ配信やチケット販売は、リアルなライブと並行して売上が期待できる有力なビジネスとして、ライブ業界やマネジメント会社は力を入れています。

Veepsは、2020年に入り、新型コロナの影響を受けてライブ配信事業と有料チケット販売事業を強化。メジャーアーティストからインディーアーティストまで広く支持されて、ブランディ・カーライル、ピート・ヨーン、パティ・スミス、リアム・ペイン、ルーファス・ウェインライトなど、多数のアーティストによって活用され、ライブやツアーで売上を失った危機的一年において貴重な収入源を提供してきました。

Veepsによれば、同社のプラットフォームで2020年に配信された有料ライブは1000以上で、チケット売上高は1000万ドル以上(約10億円)に達したことを明らかにしています。Veepsはまた、チケット販売から手数料を取らないことでも知られ、初期設定などの費用もかからないため、アーティストや運営会社には利用ハードルの低い設定となっています。

via Veeps

ルイス・トムリンソンが2020年12月にVeepsで行ったライブ配信では、チケット購入者は16万人以上に上りましたが、同配信での売上の300万ドル(約3億1,000万円)は、ライブの中止や延期で収入を失ったクルーやその家族、新型コロナで生活が困窮する人を支援するチャリティに寄付されました。

またイギリスのバンド、ArchitectsはVeepsのライブ配信中のグッズ販売が全売上の1/4にのぼるほど、ファンの交流が活性化されました。

Rufus Wainwrightは2020年でVeepsから実に33回もライブ配信コンサートを開催。リアム・ペインは、2020年10月だけで5回のライブ配信を行い、チケット販売から収入やチャリティへの寄付を達成することができました。

Veepsによれば、新人アーティストが同プラットフォームでライブ配信を開催した場合、1公演で10000ドル以上(約100万円)の売上を達成することも実現不可能ではないと言います。

また、実績あるアーティストの場合は、その額は30000-50000ドル(約300万円-520万円)。巨大なファンベースを持つ、著名アーティストであれば、1公演で数十万ドル規模(1,000万円以上)の売上も実現する可能性があると言います。

アーティスト・フレンドリーな配信サービス

Veepsがアーティストに人気の理由の一つには、アメリカのインディーロックバンド、Good Charlotteのメンバーで起業家のジョエル・マッデンとベンジー・マッデンが開発したことが背景にあります。

2017年からサービスを開始しているVeepsは、ライブでファンに対してVIP体験を販売するサービスをいち早く取り入れ、チケット販売やライブに付加価値をもたらすサービスとして拡がってきました。

しかし2020年には、世界的にライブやツアー、フェスが中止または延期となり、チケット売上やグッズ売上、VIP体験売上が消えた中で、3月にVeepsはチケット制ライブ配信へ本格展開し始めました。

Veepsを使うことで、アーティストやマネジメントは、有料チケットの販売、参加したファンのチャットでの交流、グッズの独占販売機能が利用できるなど、オンラインライブを収益化する仕組みと、配信システムが一つのプラットフォーム上で運用できるようになります。収益性の確保や、効率性の良さはまさに、アーティスト・フレンドリーなプラットフォームとしてVeepsが注目される理由となっています。

リアルなライブ再開後も配信は続く

ライブ・ネイションの買収後も、Veepsは事業を維持し続け、共同創業者のマッデン兄弟や、シェリー・サイーディ(Sherry Saeedi)、カイル・ヘラー(Kyle Heller)など経営チームも事業に携わります。

2021年に仮にライブが復活すれば、Veepsはライブ・ネイションと連携しながら、オリジナル・コンテンツの配信や、チケット完売のライブ、世界中のイベントに対し、ファンのアクセスを実現する体験を提供していくこととなります。

ライブ・ネイションは、Veepsのサービスによって、バーチャル・ファンミーティングや、動画を通じたファンとアーティストのエンゲージメントといった、付加価値の高いコンテンツをライブ配信のチケットに付与できることとなります。

この買収をジョエル・マッデンは次のように説明しています。
「今回の提携は、プレミアムな有料チケット制ライブ配信が、全ての垂直統合型のアーティスト・ビジネスにおいて必要不可欠な存在になったことを証明しています」

ライブ配信に出遅れたライブ・ネイション

ライブ・ネイションは、2020年3月以降も、ライブ配信への進出に遅れを取ってきました。開催不可能となったライブやツアーに代わるオンラインライブや配信イベントも開催できていません。

その間に多くのアーティストたちは、BANDSINTOWNやMaestro、StageIt、Mandolin、Moment Houseといった、チケット制ライブ配信プラットフォームや、配信システムに移行。チケット販売やグッズ販売など、独自に収入を得る仕組みを構築して、ライブ配信を行ってきました。

ライブ・ネイションのCEO、マイケル・ラピーノは以前、リアルなライブの配信視聴用チケットを今後は販売することを示唆してきました。

7月-9月のライブ・ネイションの業績は、売上高1億8400万ドル(約190億円)。コロナ禍でもこれだけの売上を達成できるのも素晴らしいですが、前年比で見ると、売上高は95%減少と、引き続き大打撃を受けています。

今回のVeeps買収は、ライブ業界にとって、有料チケット販売型のライブ配信の競争が今後さらに加熱することを意味しています。

ポスト・コロナにおけるツアーやライブ再開の目処は立っておらず、ワクチン接種や、政府や地方行政の感染対策が最優先とされてきます。

必然的に、チケット需要が高くなり、希少価値の高いイベントが増えると考えられます。転売による損失を防ぐため、また購入できなかったファンを不満にさせないためにも、有料ライブ配信は有効な手段の一つであり、リアルなライブに配信を連携させる動きは活性化していくはすです。

また、ライブ配信は新規スポンサー企業の獲得という収益にも繋がりやすくなるでしょう。大手プロモーターは、チケット販売に対して、スポンサー企業のユーザーを優先的に購入させたり、購入者に向けて独自コンテンツを配信することも、視野に入れているのではないでしょうか?

こうした新しいビジネス形態が今から数年間続くと想定すると、B2Bのライブ配信プラットフォームや、チケット販売スタートアップの技術力が確実に注目を集めていくと予想されます。

source

Live Nation Unites With Live Stream Platform Veeps To Connect Even More Artists And Fans Through Live Music Globally(Live Nation Entertainment)

Streampunks:How Veeps Is Generating Millions For Artists(Pollstar)

jaykogami 記事提供元All Digital Music
Jay Kogami(ジェイ・コウガミ)
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