米インターネット・ラジオ公平法にアーティストが一斉抗議

コラム 高橋裕二の洋楽天国

インターネット・ラジオ最大手のパンドラが後押しをする「インターネット・ラジオ公平法(Internet Radio Fairness Act)」という法律がアメリカの議会に提案されようとしている。パンドラがレコード業界に支払っている音楽の使用料が高すぎるというものだ。法律関係のサイトや業界誌ビルボードが伝えている。

下院司法委員会のジェイソン・チャヘッツ議員(共和党)とジャレド・ポリス議員(民主党)が上記の法案を提出する予定だ。上院でも福島原発で日本でも知られる上院エネルギー委員会のロン・ワイデン議員も同じような法案を提出する予定だという。

アメリカの地上ラジオ局は音楽を使って放送してもレコード会社に使用料を支払わない。当然の事ながらミュージシャンやアーティストにも支払わない。曲を書いた作詞作曲家や音楽出版社には著作権使用料が支払われている。これはレコード業界が初期の頃から、レコードを「タダ」でラジオで宣伝してもらうという背景がある。その後技術革新で衛星ラジオ局やケーブル・ラジオ局が登場する。著作権法も幾たびか改正され、新しいメディアであるインターネット・ラジオ局のパンドラがレコード会社と結んだ音楽使用料の契約。昨年(2011年)パンドラはレコード会社に売り上げの50%を使用料として払った(ビルボード誌より)。

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今回のパンドラの主張は、「使用料が高すぎる。赤字から抜け出せない。衛星放送やケーブル・ラジオと同等(公平)にして欲しい」といもの。だから法案の名前はFairness Actだ。シリウスといった衛星放送やケーブル・ラジオは売り上げの7%から16%を支払っている。だからパンドラにもそうしてくれと。

これに対して多くのアーティストが抗議の声を上げた。2ページの公開状が音楽業界誌ビルボードに掲載される。タイトルは「パンドラについてミュージシャンの考え方」だ。公開状の中身は「何故パンドラはまた議会におもむき、数多くのミュージシャンが支持した音楽使用料の破壊を頼むのだろう。これはフェアーではない。一緒にやってきたパートナーのやり方ではない」と。ビリー・ジョエル、ドン・ヘンリー、ブライアン・ウィルソン、リアーナやケイティ・ペリー他120名ものアーティストが公開状に署名した。

今回のパンドラによる音楽使用料の公平性(実質は大幅な使用料の縮小)を問う裏には色々ありそうだ。特にアップル。アップルもインターネット・ラジオ・サービスを始める予定。大手のレコード会社と音楽使用料の件で交渉している。アップルとしてはパンドラの様な気前の良い使用料を払う気は無い。大手レコード会社には、「パンドラから当社のiTunesに来て買ってもらうよりは、当社のインターネット・ラジオからiTunesに来てもらうほうが消費者にとってはとても便利でしょう。安い音楽使用料でお願いします」という事だろう。もしアマゾンがインターネット・ラジオを始めるとしても同じ事だ。だからインターネット・ラジオ・サービスをやりたい様々な会社は影ながらパンドラを応援する。

インターネット・ラジオiHeartRadioを持つ全米ラジオ業界最大手のクリアー・チャンネルも応援団だ。クリアー・チャンネルの800もの地上局、例えばロサンゼルスのKIISーFMやニューヨークのWHTZーFMはレコード会社に音楽使用料を払っていない。インターネット・ラジオのiHeartRadioでも払うのは仕方がないが出来るだけ安いほうがいい。現クリアー・チャンネルのボブ・ピットマン会長兼最高経営責任者は、「タダ」で音楽ビデオを使う老舗MTVの元会長だった。

ビルボード誌は、法案は年内に提出されず来年に持ち越されると伝えた。インターネット・ラジオと音楽出版社のゴタゴタについてはまたの機会に。

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