『Hello My Friends!! TOUR 2026』撮影=オイケカオリ
2026年2月15日(日)、神戸・クラブ月世界で『Hello My Friends!! TOUR 2026』が行われた。本公演は関西のコンサートプロモーター・GREENSが主催する対バンライブ。5度目の開催となる今回は、同じメンバーで京都と神戸を回る、初のツアー形式で実施された。出演者はえんぷてい、E.scene、エルスウェア紀行。前日の京都・磔磔(たくたく)公演を経て仲良くなったという3組の空気感が表れた、素敵な一夜となった。
『Hello My Friends!! TOUR 2026』 2026.2.15(SUN)@神戸・クラブ月世界
GREENSのHPの本公演詳細ページには、「旅するみたいにライブへ行こう!」という文言が踊っていた。音楽との出会いはもちろん、会場や、会場のある街の雰囲気も一緒に楽しんでほしいとの主催者の願いが込められているようだ。
クラブ月世界は、1969年にキャバレーとして誕生した。2005年には空間デザインをそのままに、ライブホールとして再オープン。三宮の繁華街から一歩足を踏み入れると、昭和ノスタルジーを感じる空間が広がっていた。きらびやかなシャンデリア、ベロア生地のソファ、レトロなスタンドライト、半月型のステージとネオン。まるで昭和にタイムスリップしたようで、オーディエンスは静かに開演の時を待ちつつも、高揚感を抑えきれないといった表情を浮かべていた。
そして迎えた開演時間。ライブは、磔磔とは出順を変えて行われた。
えんぷてい
トップバッターは5人組ロックバンド・えんぷてい。石嶋一貴(Key)が先にスタンバイし、ステージ上のグランドピアノをやわらかく撫でると、奥中康一郎(Vo.Gt)、比志島國和(Gt)、神谷幸宏(Dr)、赤塚舜(Ba)が登場。しっかりと雰囲気を高め、神谷のビートから「SWEATER」を届けていく。赤塚のベースラインに比志島の歌うようなギターリフが重なる。石嶋はグランドピアノの横に置かれたキーボードを奏でていく。風が吹き抜けるような爽やかさに、少しの懐かしさが入り混じるグッドメロディー。奥中の心地良い歌声と上質なアンサンブルに早速心を掴まれた。
続いて、ライブならではのジャジーなセッションとアレンジが美しい「ハイウェイ」、1音1音に繊細さが宿るファンクネスな「ステラ」を披露。ハイトーンから地声に近い低音までカバーする奥中による主旋律はもちろんだが、ベースやギターから紡がれるフレーズはまるで意思を持つようにメロディアスで、楽曲の構成や演奏力にも彼らのセンスの高さを感じ取れた。
神戸でのライブは約4年ぶりということで、奥中は「神戸に来れて嬉しい」と喜び、和やかにメンバー紹介を行う。後半はドリーミーでサイケなサウンドメイクが聴く者を陶酔させた「微睡」に続けて、今年1月にリリースされたばかりの最新曲「だから」を、ひときわ感情を込めて歌い上げた。さらに映画のワンシーンを思わせるロックバラード「夏よ」を丁寧かつ浮遊感たっぷりに演奏すると、最後はオレンジ色に染まるステージで「煙」を存分に響かせた。情景が浮かぶ詞世界で何度も音の波を生み出し、終盤は一段と音圧をアップ。最高のアンサンブルが月世界に溶け込み、彼らの魅力を輝かせた。
E.scene
2番手は新潟発オルタナティブR&Bバンド・E.scene。SEなしの板付でスタンバイすると、「About me」からライブをスタート。CHIPPI(Ba)とYoshinao(Dr)が鳴らすリズムに乗せて真琴(Vo)が歌い出すと、全ての感覚が一瞬にして彼女の歌声に惹きつけられた。クールでソウルフルで、スモーキーな歌声は唯一無二。「聴かせる」力のある声だ。
続いて「私たちと一緒に揺れていきましょう(真琴)」と一言挨拶し、シンセも同期に入れたメロウな「Dizzy」へ。ダンス経験者だという真琴はステージ前方に出て、身体をしなやかに動かしながら、透明感と浮遊感のある高音を響かせていく。彼女の仕草や眼差しからは、時々ハッとするような色気と芯の強さが垣間見える。リズム隊の2人の低音サウンドがボトムにあることでその美しさがより引き立ち、鮮烈な体験となって記憶に刻まれた。そこからシームレスに、グルーヴが濃厚な「traffic signal」、ネオソウルナンバー「Highlight」、メリハリのきいた構成と突き抜ける歌声が痺れる「いいじゃん」、昨年11月にデジタルリリースされた最新EP「Glitter」の先行シングル「ふわり」を披露。5曲をノンストップで演奏した。
MCで真琴は「今日来てくれた皆さん、人と違っていいと思います。もしそれがちょっと不安になったなら、今ここにいる私を見てください。ちゃんとみんなのこと見てますから、楽しんでいってください」と笑顔で述べて「意識」を歌唱。ラストはドラマチックな「DAWN」で畳みかける。細部に妙技が光るCHIPPIとYoshinaoのビート、鈴が鳴るような真琴の歌声。アンサンブルは次第に力を増し、見事なロングトーンやフェイクが貫き、完全に空間を支配した。耳と目を捉えて離さないステージで魅了した、充実の35分だった。
エルスウェア紀行
トリをつとめたのは、2月8日にメジャーデビューを果たしたエルスウェア紀行。この日はトリオ編成の「微光奏(acoustic set)」で、盟友・ノ上(Pf)と共にステージに上がった。安納想(Vo.Gt)が「こんばんは、エルスウェア紀行です」と挨拶し、彼らの代名詞、魔改造シティポップの始まりとも言える「少し泣く」を奏で始める。グランドピアノの旋律と安納の憂いを含む柔らかな歌声、トヨシ(Gt.Dr.Cho)のグルーヴィーなリズム、ギターが心地良く耳を潤す。初見で誰もが驚くのは、トヨシがドラムとアコースティックギターを同時に演奏するという、このセットにおけるプレイスタイルだ。カホンの上に座ってギターを抱えつつ、足元のペダルでキックとシンバルとスネアを使い分け、あまつさえコーラスもさらりとこなしてしまう。なんという器用さ。
一転してピアノとギターの軽快な掛け合いでスタートするオーガニックなポップナンバー「さよならに」を経て、MCでは安納が「かなり奇跡的な確立で集まった、おそらく人見知りの3組なんですけど、1日目よりも顕著に会話が生まれている」とツアー2日目を迎えた実感を口にする。京都の打ち上げではみんなで鍋をつついたそうで、「ほんとにタイトル通り。人見知りの自分たちでも、音楽を通してみんなと仲良くなれるのが嬉しいです」と微笑んだ。神戸でのライブは約4年ぶり2度目で、今回は街歩きをする時間もあったとのことで、神戸の古着屋で購入した黒のジャケットを着用してライブに臨んだと話してくれた。
安納もアコギを持ち、切なくもグッドメロディーで会場を満たした「素直」に続いては、「この曲をここでできるのも運命的」と言葉を添えてダンスナンバー「あなたを踊らせたい」を披露。グルーヴィーなサウンドが月世界の雰囲気にぴったりで、自然発生したクラップで客席の熱もアップ。トヨシはビートをキープしたままギターソロを弾き、ピアノとのキメも完璧に仕上げて最高の空気を醸成する。そして「向かう先が地獄でも、伸びやかにスキップしていこうじゃないかという気持ちで作った」というメジャー1stシングル「のびやかに地獄へ」を想いを込めて演奏し、諦観がありながらも微かな希望を感じさせる旋律とアンサンブル、安納のウィスパーヴォイスが印象的な「ひかりの国」で壮大にフィニッシュした。諦めと孤独と希望が交錯する世界観を、ミラーボールの光が優しく照らしていた。
すぐさま起こったアンコール。大きな拍手に迎えられてカムバックした3人は、アンコールでやるのは初めてという「冷凍ビジョン」をプレイ。安納はステージ前に出て、力強くも繊細に歌声を放つ。生きる上での雑音やトラウマと手を繋ぎ、ひとつになって先へ進む。そんなメッセージで寄り添う楽曲に呼応したオーディエンスも、自由に身体を揺らして最高の一体感を作り上げた。
こうして『Hello My Friends!! TOUR 2026』は大団円で終了した。最高の会場で極上の音楽を浴びる。そんな尊い時間と体験の価値の高さに酔いしれた一夜だった。
取材・文=久保田瑛理 撮影=オイケカオリ

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