オーガスタキャンプ2021が無観客生配信で開催、逆境に負けないポジティブなエネルギーを音楽で発信

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Photo:岩佐篤樹

音楽事務所「オフィスオーガスタ」に所属するミュージシャンたちが一堂に会する年に一度の「オーガスタキャンプ」。イベントは1999年の開始以来すでに20年以上続いており、ファンにとってもミュージシャンにとっても毎年の恒例となっている。それがピンチを迎えたのが昨年のこと。新型コロナウイルスの流行により開催に黄信号が灯ったのだ。しかし彼らはそれをオンライン配信という新たなスタイルで乗り越えた。そして今年――感染収束はいまだ見通しがつかず、オーガスタキャンプは昨年同様、無観客生配信という形で開催することになった。

9月25日、14:00からの開演を待っていると突然画面に黒スーツ&サングラス姿の2人があらわれる。よく見るとそれは浜端ヨウヘイ&松室政哉。昨年冬に制作されたコラボレーションアルバム「Augusta HAND×HAND」から「Rewrite」をブルース・ブラザーズ風に熱唱すると、颯爽と去っていく。意外な前座(!?)の登場に、本編への期待感が高まっていく。

14時になると舞台に本日の出演者が登場した。先頭に立つのは今年デビュー15周年を迎えた長澤知之と秦 基博。「オーガスタキャンプ2021はじまりました。みんなで楽しみましょう!」という秦の掛け声で演奏されたのは福耳の「Swing Swing Sing」。そのまま人気曲「夏はこれからだ!」に雪崩れ込む。まずは挨拶代わりにファミリーで2曲披露し、今年のオーキャンの幕が上がる。

今回のオーキャンはハウスバンドであるAC Nice Band(Dr:あらきゆうこ・山木秀夫、B:種子田健、G:福田真一朗、Key:浦清英、Per:高橋結子)をバックに各アーティストが2~4曲ずつ歌っていくという方式で進行した。トップバッターは、さかいゆう。明るさ弾ける「まなざし☆デイドリーム」、そして今年5月発売の最新アルバム「愛の出番 + thanks to」からミディアムバラード2曲をソウルフルに歌い上げ、ステージ上を制圧する。

COILの岡本定義はアンニュイなこの時間にぴったりな「永遠の午後」でスタート。メロウな旋律で夏の名残りをクールダウンさせていく。それをさらに加速させたのが、あらきゆうこ(MI-GU)。あらきは岡本とのダブルヴォイスで2曲をパフォーマンスしたが、2人の声の重なりはいつまでも聴いていたい心地よさにあふれていた。前日に配信されたばかりの2人名義の新曲「Run Train Run」もさっそく披露された。浜端は山崎まさよしをギターに迎え、この日リリースの最新曲「祝辞」を歌唱。この曲はタイトル通り、友人の結婚式で祝辞を読み上げる男性が主人公の歌で、浜端の素朴であたたかな人柄が伝わってきた。

第1部のトリを飾った杏子は4月に発表した最新アルバム「VIOLET」の楽曲ばかりという攻めたセットリストを組んできた。しかも衣装は黒一色で統一し、重低音が効いたサウンドでヴィラン(悪役)のようにシャウトしたり、赤いリッケンバッカーをかき鳴らしたり。「怒りや閉塞感を解放してくれるのも音楽だから」。MCでそう語ったダークヒロインを彷彿とさせる新境地には鮮烈なインパクトがあった。

第2部はデビュー15周年の長澤と秦、2人が主役のパートである。2人は音楽性も性格も異なるが、互いをリスペクトする同期組。ステージに横並びで立つと、まず秦が長澤の「左巻きのゼンマイ」を歌い出す。歌は途中からユニゾンも交じり、その後、秦が「キミ、メグル、ボク」、長澤が「明日のラストナイト」と自曲を歌う際もそれぞれコーラスを入れ合うなど、細やかな歌い分けを展開する。興味深かったのは、互いに相手に歌ってほしい曲をリクエストしたというコーナーで、秦は長澤に「虹が消えた日」を、長澤は秦に8月に出たばかりの最新作「LIVING PRAISE」(8年ぶりのフルアルバム!)収録の「三月の風」をリクエスト。これらは2人だけで演奏され、2人の歌力、2本のアコギの重なり合いを堪能できる実に豊かな時間だった。

2人だけで演奏したのは国民的楽曲「ひまわりの約束」も同じ。そしてこの日のために共作した新曲「CHERISH」を初披露。タテノリで疾走感あるこの曲に「CHERISH=大事にする」というタイトルを付けたところにも2人の関係性は表れている。「最後はみなさんが歌いに来てくれるということで……みなさん出てきてください!」。秦がコールすると、ファミリーの面々が続々と登場。しかし出てくるやいなや「おまえ早く家に帰りたいんだろう!」(山崎)、「なんだその服の生地は!」(大橋卓弥)と先輩から次々とツッコミが入り、舞台はいつものアットホームな笑いに包まれていく。そして2人を祝福するように全員で「泣き笑いのエピソード」を合唱。それはまるでオーガスタキャンプ自体が涙と笑顔に彩られたファミリードラマのように感じられる、ほのぼのとした一幕だった。この後、秦は横浜アリーナと大阪城ホールでの15周年記念ライブ、長澤もアルバムツアーが共に11月に予定されている。

オーガスタキャンプは毎回音楽以外でも来場者を楽しませるさまざまな企画を用意していたが、配信になってもその精神は変わらない。web上で「オーガスタ食堂」のレシピ公開を行い、2部と3部の合間には昨年実施して好評だったグッズを紹介する「ホップ・ステップ・ショッピング」なるコーナーを用意。テレビショッピングさながらの内容で、山崎と杏子が賑やかなトークを繰り広げた。

第3部の頭に登場したのは竹原ピストル。竹原は出たばかりの新作「STILL GOING ON」にはまったく触れず、彼の真骨頂である3曲を披露。「Forever Young」「Amazing Grace」、そして中島みゆきのカバー「ファイト!」。命を削るような弾き語りには毎度のことながら息をのむ。松室はロマンチックなラブバラード「海月」ほか、「Augusta HAND×HAND」収録の「2人のコンプライアンス」をチョイス。「2人~」では山崎をステージに招き、オーキャン名物である“ここだけでしか見られないセッション”を敢行する。山崎は次の元ちとせのパートでも「名前のない鳥」に演奏参加するなど、随所に顔を出してステージを引き締めていた。元は奄美のシマ唄「豊年節」で三味線を鳴らし、野性味いっぱいの圧巻のグルーヴを奏でたのだった。

トリ前を務めるのはオーキャンの盛り上げ番長・スキマスイッチ。「やっと出番が来ましたよ」(大橋)、「やっとだね」(常田真太郎)と準備万端で演奏に臨む。番組テーマソングとして書き下ろした「吠えろ!」はサビに差し掛かると「おおーおおー」という書き込みがチャットにあふれ、リモートならではの一体感が出現する。フォークロア調の「雫」をはさんで、ここからはおなじみの流れ。激しいリズムの「Ah Yeah!!」から聞き覚えのあるイントロを常田が弾きはじめると、大橋が画面越しにコール&レスポンスを呼びかける。「いいね、いいね……きっとみんな叫んでくれてると思います」。そして「全力少年」に突入。躍動するカメラワークと相まって、ステージは解放感に包まれる。もはや「これを聴かなきゃオーキャンは終われない!」という黄金かつ盤石の流れである。

そしてトリは山崎まさよし。今年山崎はデビュー25周年イヤーを駆け抜け、本日9月25日はデビューシングルが発売された日。満26周年の記念日を迎えた彼はさすがの円熟で、代表曲「Fat Mama」「セロリ」のほか、3日前に発売になったばかりの最新アルバム「STEREO 3」から新曲「サイドストーリー」をライブ初披露する。印象的だったのはライブ中、山崎が終始上機嫌だったことで、凄腕ミュージシャンたちの名演に腕を突き出し、大橋を真似てカメラ目線でキメてみせる。オーラスは再びオーガスタのメンバーを呼び込んで、「上昇気流に乗りたいという想いを込めて……」という前置きから「Updraft」。ポジティブで力強い演奏は、こういう難しい時代だからこそ必要な“生きるチカラ”に満ちていた。

難しい時代といえば、今年のオーキャンは時代の波に大きく影響されたものでもあった。当初は横浜赤レンガパーク特設ステージでの有観客ライブ&配信の同時開催を予定していたが、緊急事態宣言の延長を受けて直前に無観客生配信に変更。アーティストもスタッフも突然の変更に悔しい気持ちはあっただろう。しかし杏子が「そのぶんスタッフの結束は強まりました」と言うように、彼らはそれを前向きに捉え、むしろ音楽を楽しもうとするエネルギーに変えていた。

アンコール1曲目は福耳「ブライト」。ファミリー一丸となっての合唱は、今年もまたこうして集まり、一緒に音楽を奏でられた歓びにあふれている。そしてここで15周年を迎えた長澤と秦に花束贈呈……となるはずが、「山崎まさよし26周年おめでとう!」「スキマスイッチ18周年おめでとう!」とボケあっているうちに、いつの間にかステージ上の雰囲気はグダグダに……毎度毎度のこの光景ももはやオーキャンのお約束と言って過言ではないだろう。

そしてお約束のお約束でフィナーレはもちろん「星のかけらを探しに行こうAgain」。カメラがキャスト1人1人をアップで映し、笑顔で手を振る構成は、まさにオンラインフェスのエンドロールだ。最後ディスタンスを保った状態で観客に感謝を伝える中、杏子にせっつかれて「来年は……手ェつなげたらええな」とボソッと言って照れた山崎。来年はオフィスオーガスタ設立30年。大きな節目の年を、今度こそリスナーと一緒にすごせれば……願うことはみんな同じだったはずだ。

TEXT:清水浩司

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