「デジタルな時代だからこそカタチにこだわった」ダイキサウンドとクリプトン・フューチャー・メディアが仕掛ける「DOWNLOAD CARD SUMMIT」とは?

インタビュー スペシャルインタビュー

左:クリプトン・フューチャー・メディア 笹原崇寛氏、右:ダイキサウンド 栗原幸祐氏

1月12日から19日までの期間、タワーレコード渋谷店にて「DOWNLOAD CARD SUMMIT 2019」が開催されている。ダウンロードカードの認知拡大を目的に、ダイキサウンド株式会社とクリプトン・フューチャー・メディア株式会社がタッグを組んだイベントだ。

期間中は、アーティストのダウンロードカード作品のリリースが行われる他、スペシャルライブやトークショーなどが予定されている。今回、同イベントの発起人でもあり、ダウンロードカードを制作・提供する事業者でもあるダイキサウンド・栗原氏とクリプトン・フューチャー・メディア・笹原氏に、今再び注目を集めているダウンロードカードと、開催を目前に控えた(※取材当時)「DOWNLOAD CARD SUMMIT」にかける思いを伺った。(取材・文:濱安 紹子)

 

モノとしての魅力がコレクター欲を刺激

カードに記載されたQRコードやURLからアクセスすることで、スマホやPCに音源をダウンロードできるダウンロードカード。その手軽さとともに、カードというフィジカルな存在がユーザーのコレクション欲を刺激する比較的新しい形態の音楽メディアである。とはいうものの、ダウンロードカードの存在自体は割と以前からあった。発売から10数年の時を経て再び注目を集め始めた、というのが正しい見解のようだ。
 

ミュージックカード「M∞CARD(エムカード)」

 

スマホ用音楽カード「SONOCA」

ーー そもそも、両社がダウンロードカードに注力したきっかけは?

栗原:弊社のM∞CARDは元々、創業社長が作り14年前に商標登録をしているものなんです。ガラケーに着メロや着うたをダウンロードするためのツールだったんですが、思ったように業績が伸びず、ちょうど僕が入社したタイミングでサービスが終了。奇しくも、そのクロージング関連の業務が僕の入社はじめての仕事でしたね(笑)。その後、2014年に再びスタートさせることになったのは、音楽のデジタル化が進み、インフラが整い始めたことが理由。商標がまだ残っていたのも幸いでした。

笹原:僕らは2015年にサービススタートしているので、ダイキ(サウンド)さんは大先輩にあたりますね。ダウンロードカードを提供する業者が増えてきていますが、CDを持たない世代がどんどん増え、オーディオプレーヤーやPCに搭載されていたCDドライブがなくなってきたというのが、ダウンロードカードが再び注目され出した大きな要因だと思います。

栗原:ダウンロードやサブスクのサービスが増えていく中で、デジタルとフィジカルの間を埋めるものが、ダウンロードカードの存在。データとして音源を享受しながら、カードというモノとしても楽しめるというのが大きな特徴です。

ーー CD世代だけでなく、トレーディングカードやテレホンカードなどを集めていた世代にも、フィットしそうですね。

栗原:カードにオリジナルの絵柄を付けることで希少性を高めたり、複数のパターンを用意して目隠し販売したりすることもできるので、カード集めを楽しんでいた世代にも楽しんでもらえると思います。僕自身も、野球チップスとかビックリマンシールとか集めていた、バリバリのカード世代です(笑)。

 

自由度の高さで音楽シーン以外での幅広い用途も

 

クリプトン・フューチャー・メディア 笹原崇寛氏、ダイキサウンド 栗原幸祐氏

ーー 両社のダウンロードカードの特徴をそれぞれ教えてください。

笹原:弊社のSONOCAは、スマホ用音楽カードというコンセプトを設けていて、買ってその場ですぐにダウンロードでき、スマホ(iPhone・Android端末に対応)で音楽が聴けるという部分を大切にしています。もちろんPCで聴くこともできますが、「SONOCA Player」というアプリを入れてスマホで再生して頂くと、プチリリ(歌詞表示サービス)と連動しているので歌詞を見ることもできます。ハイレゾ音源や動画ファイルにも対応していますし、オンラインで24時間カード制作の注文でき、ロット100枚でオーダー可能というのも特徴。

あと、弊社は初音ミクなどのキャラクターライセンスを持っており、同人作品の範囲であればキャラクターの名称やイラストを無償利用できる形にしています。ボカロPなどには需要の高い、弊社ならではの特典ですね。

栗原:M∞CARDの大きな特徴は、幅広い種類のファイルに対応しているところ。音源はWAVでもAIFFでも大丈夫ですし、映像・画像・電子書籍・VRコンテンツも収録OK。容量も1GBあるので、自由度はすごく高いですね。あとは、当たりのカードと当たり用の特別コンテンツを設定できる機能や、くじ引きのような形でランダムに複数のコンテンツを表示させる機能、コンテンツを後から追加できる機能など、オプションも様々。

音楽業界だけでなく、アミューズメント会場の来場者特典やアパレルブランドの購入者特典、映画の予約チケットの特典、雑誌のおまけなど、幅広い用途で活用して頂いています。芸人さんのコントを収録した「コントカード」というのを作らせて頂いたこともあります。

笹原:同人のコミケで売られるブックレットの付録、書籍の付属CD・DVDの代わりとしてご利用頂いたり、ラジオ番組のイベント特典としてトークを収録したりといった事例も増えてきていますね。アイディア次第で色々な活用の仕方ができると思います。

 

フィジカルにこだわるのは国民性!?

ーー 現在、ダウンロードカードを取り巻く状況はどんな感じでしょうか?

栗原:リスタートして今年で5年目ですが、認知度としてはまだまだですね。ここ1〜2年で売上は伸びてきているし、アーティストや業界関係者には知って頂けるようになりましたが、エンドユーザーには十分なリーチができていない印象。なんとかこの状況を打破したいという思いから、今回のイベントを立ち上げました。

笹原:やっぱりエンドユーザーに知っていただかないと、中の人たちも「本当に、作品をダウンロードカードでリリースしていいのか」と迷ってしまいますよね。一度使って頂ければ、その良さはわかると思うんですけど。

ーー ちなみに、海外にはダウンロードカードみたいなものはあるんでしょうか?

笹原:あります。ただ、アナログ盤におまけとして付属している流通しているケースが多くて、単体としてはそこまで利用されていません。日本よりもダウンロードやデジタル化が進んでいる国が多く、ユーザーもそれに慣れていて、フィジカルへのこだわりは少ない気がします。モノとして手元に残したい感覚って、日本人特有のものなのかもしれませんね。あと、ドイツ人もそれと近しい印象です。

 

 

目指したのは「レコード・ストア・デイ」

ここまで来て気になるのが、本来競合である両社がどのようにタッグを組むことになったのかということ。ここからは、「DOWNLOAD CARD SUMMIT」を立ち上げたきっかけに触れていきたい。
 

クリプトン・フューチャー・メディア 笹原崇寛氏、右:ダイキサウンド 栗原幸祐氏

ーー 「DOWNLOAD CARD SUMMIT」を立ち上げるまでのお話を伺いたいのですが、2社がコラボレーションすることになったきっかけは?

栗原:2017年の春に、「M3」という音楽系の同人イベントがあって、そこでSONOCAさんと隣同士の出展ブースになったんです。思いっきり競合だし、最初は少々気まずかったんですが、せっかくの機会なのでとご挨拶させて頂いたのがきっかけですね。

笹原:その場で名刺と資料を交換し、どんなことを行っている会社なのかを紹介しあいました。他社のサービス内容を直接伺う機会って中々ないので、興味深かったですね。

栗原:ユニフォーム交換みたいな感じでしたね(笑)。その後、笹原さんが東京にいらした時に、お食事でもしながら情報交換でもしましょうとお誘いし、お互いの課題とか現状とか、飲みながら色々な話をするうちに意気投合しました。

笹原:その中で、「レコード・ストア・デイ」みたいなイベントができたら面白いって話で盛り上がり、それが今回の「DOWNLOAD CARD SUMMIT」という形で実現することになったんです。

ーー 飲みの席での話が実現したと(笑)。

栗原:そうです(笑)。で、その飲み会の後に、クリプトン(フューチャー・メディア)さんの社長の元に、弊社の代表と私で伺いまして我々のビジョンをお伝えしました。

ダウンロードカードをもっと世に広めたいという気持ちは同じでしたし、我々はディストリビューターとしてアーティストを抱えている会社で、クリプトンさんはクリエイターに対してサービスやソフトを提供する会社。元々近しいことを行っていたので、音楽市場に対する危機感など、考えていることも共有しやすかったですね。

笹原:ダイキさんの伊東社長と弊社代表の伊藤も含めて、ダウンロードカードの認知度を高めるためには手を取り合あわなければという意見が一致したので、話が進むのが早かったです。両社の代表が漢字は違えど同じ苗字ということもあり、不思議なご縁も感じました(笑)。

 

音楽業界に貢献する新たなツールになれば……

ーー アーティストにとって、ダウンロードカードを利用するメリットとはどんなところでしょうか?

笹原:カードの価格設定は売り手が決められますし、何のコンテンツを収録するかによって様々な価値を生み出すことが可能。CDやDVDに比べると、かなり自由度も高く、表現力のあるものだと思います。

あと、サブスクがメインになりつつある市場の中、ダウンロードやストリーミングの販売チャネルに加えて、店頭・物販といった販路を拡大できるというところも重要なポイントだと思います。

デジタルの売り上げは無視できない存在ですが、アーティストサイドに立って考えると、それだけでコストを回収するというのは難しい話。オフラインの場できちんとマネタイズできるかどうか、というのはアーティストにとって重要な課題だと思います。そういった部分をサポートしていけたら、というのが僕らの願いですね。

栗原:ちょうど先日、あるアーティストの方とお話する機会があったんですが、現実的に売れているのはTシャツなどのグッズで、最も愛情と時間を費やして作ったCDはほとんど売れていない、というのが現状だそう。かなり大御所の方の話だったので驚きました。

CDが売れないという事実を時代の流れとして受け止めながら、アーティストの方々に還元できるような新たなツールを広めていく、それが我々に取っての音楽業界に対する貢献というか、使命のように感じました。

笹原:販売する際も、カードであればさほど場所を取りませんし、CDの付録や特典としても手軽に利用することができます。また、ライブで披露した音源や映像を後日配信するという使い方もできます。デジタル・CD・アナログ、そしてダウンロードカードといった具合に、リリースする新たなフォーマットのひとつとして、選択肢に入れていただけたら嬉しいです。

そのためにも、まずはより多くのアーティスト、事務所やレーベル、そしてエンドユーザーに知っていただくこと。ダウンロードカードのプレゼンスを上げていく、というのが目下の目標です。

 

 

モノとしての存在感や所有感にこだわった新装パッケージ

 

「DOWNLOAD CARD SUMMIT」

ーー 「DOWNLOAD CARD SUMMIT」を行うにあたって、力を入れたのはどんなところでしょうか?

笹原:これまでCDを買ってきた世代の中には、ダウンロードカードというフォーマットに抵抗を覚える人もいるのかなと。やはりモノとしての存在感や所有感というのは大切にしたい部分なので、今回はパッケージや展示の仕方にもこだわりました。全作品ではありませんが、CDジャケットを模したヴィジュアルでリリースしているんです。

栗原:帯と飾り台も付けています。いかに“モノ感”を醸成し、フィジカルとしての価値を出すか、そこはすごく意識しました。音源だけでなく、アートワークにも力を入れているアーティストは多いので、それをCDと同じように手に取った状態で堪能してもらえたら嬉しいですね。ジャケットをディスプレイしてコレクションできるというのも、今回の仕様ならでは。デジタルな時代だからこそカタチにこだわりたかったんです。CD世代にも手に取ってもらいやすいものになったんじゃないでしょうか。
 

「DOWNLOAD CARD SUMMIT」でリリースされたM∞CARDの作品

 

「DOWNLOAD CARD SUMMIT」でリリースされたSONOCAの作品

 

「DOWNLOAD CARD SUMMIT」 タワレコ写真展

—こうしてみるとCDにしか見えないですね。CD世代はもちろんですが、デジタル世代にもフィジカルの良さを感じでもらえる仕様だと思います。

栗原:今回のイベントをきっかけにして、ダウンロードカードの良さと可能性を感じて頂ければ幸いです。今回は我々二社での開催ですが、今後継続するにあたって、その他の競合他社さんにも参加して頂けたら、すごく意味のあることだと思います。そのためにも今回のイベントを皮切りに、ダウンロードカードを盛り上げる施策を続けていき、実績を作っていきたいですね。

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