創立40周年を迎える音制連が描く新時代。商業用レコード二次使用料分配の精緻化 グローバル化への挑戦、そして任期に込める想い
日本音楽制作者連盟(音制連/FMPJ)理事長 野村達矢氏インタビュー
今年2026年10月、一般社団法人日本音楽制作者連盟(以下・音制連)が創立40周年を迎える。節目の年は、長年の懸案だった商業用レコード二次使用料の分配ルールが抜本的に改正し、ついに新たなフェーズに突入する年でもある。さらに、音楽業界の横断組織一般社団法人カルチャーアンドエンタテインメント産業振興会(以下・CEIPA)が発足し、その中核事業である「MUSIC AWARDS JAPAN」は第1回の京都開催(2025年5月)を経て、今年は東京のTOYOTA ARENA TOKYOでの拡大開催が決まっている。
音制連理事長として、そして株式会社ヒップランドミュージックコーポレーション代表取締役社長として、音楽業界の最前線に立ち続ける野村達矢氏。音制連40年の歩みから長年の懸案だった商業用レコード二次使用料分配問題の精緻化、日本音楽のグローバル化戦略まで、音制連のオフィスにてじっくりと語っていただいた。
(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也)
先人たちが積み上げた40年。著作隣接権という「守るべき遺産」
──音制連が今年創立40周年を迎えます。この節目にあたり、まず40年の歩みについてのお考えをお聞かせください。
野村:40年の中で、僕自身が実際に音制連の理事として関わってきたのは、20年弱の期間です。その中で強く感じるのは、先人の方々が著作隣接権の意識を高く持ち、アーティストやサポートミュージシャンといった実演家の権利を守るべく、その基盤をしっかりと構築してくださったことが、こうやって40年後の未来につながっているということです。最初の苦労が、40年後になって実演家の方々や、活動を支える事務所の人たちへの大きな恩恵につながっている。そこにあらためて深い感謝を覚えます。
一方で、時代が大きく変わってきたことも事実です。音楽の聴かれ方が、この40年でどれほど変化したか。そういった変化に対して、今後、権利者団体としてどういう取り組みをしていかなければいけないのかというのは、ものすごく直面している課題です。著作隣接権の実演家への分配に関しても変わっていった事実がありますし、今後は業界の再編も含めていろんな状況の変化にアジャストしていかなければならない、と強く感じています。
──音制連の創立は、貸レコード(CDレンタル)業から実演家に正当な対価還元を受けられる仕組みを作ろうという明確な目標から出発したものでしたね。40年経った今、ストリーミング配信など音楽の聴かれ方の環境が変化したことによって、その貸レコードという業態自体が大きく縮小してしまっています。
野村:レンタル業態の縮小など確かに創立当初から様々な環境が大きく変化した今、じゃあ音制連は今後どうやって存続し、維持していくのかという課題にも直面しています。当時、そういう動きをしていなければ、今とは全く違った世界が広がっていたでしょう。先人の方々の決断がいかに大きかったかということですし、明確な目標があってできた団体だったからこそ、ここまで来られたとも思う。
ただ、様々な変化に適応しながら、しっかりとやっていかないと、音制連の今後の存続にも大きく関わってくる。その意味で、今後の最大の課題がレコード演奏・伝達権(CDや配信音源を店舗のBGM等で流した際に、その使用料を請求できる権利)の法整備です。これについては後ほど詳しくお話しします。
「物差しの目盛りがメートルからミリに変わった」商業用レコード二次使用料の分配精緻化への進化
──この40周年という節目に、長年の懸案だった商業用レコード二次使用料の分配問題がようやくまとまりましたね。
野村:「片がついた」というよりも、やっと現在のあるべき姿に進化した、という受け止め方をしています。今までの物差しの一目盛りがメートルだったものが、ミリのレベルに変わっていったというような変化です。それくらい精緻になりました。
これまで、フィーチャード・アーティスト(FA)とノン・フィーチャード・アーティスト(NFA、いわゆるサポートミュージシャン)の分配は、FAとNFAで原資分けを行い、7:3や8:2といった大まかな比率で設定されてきました。今回の見直しでは、原資を放送での使用実績に応じて各楽曲に振り分け、楽曲単位でNFAの参加人数を基準に分配比率が変動する仕組みへと改められました。
また、これまで課題とされてきたNFAへの分配ルールの一部として設定された「みなし分配」についても、新制度の導入に伴い完全に廃止されました。さらに、放送使用された楽曲に実際に参加したFAおよびNFAに対して分配される仕組みとなったことで、双方にとってより納得感のある分配方法へと進化したと考えています。
ぜひご理解いただきたいのは、本件が権利者間の対立を前提としたものではないという点です。多様な立場の意見を踏まえながら、分配方式をより精緻化し、アーティストとサポートミュージシャン双方にとって公平で納得感のある仕組みを実現することを目的として進めてきました。今回、分配方法を決める公益社団法人日本芸能実演家団体協議会 実演家著作隣接権センター(以下・CPRA)の関連委員会において全会一致で合意されその実現に至ったことが最大の成果です。
──新方式の導入はいつからですか?
野村:2026年3月(各権利者団体からの分配は4月以降)の分配から新しい方式が導入されました。実現までにかなりの時間を要しましたが、その過程で、Musicmanさんをはじめ各メディアの方々にこのテーマを丁寧に取り上げていただいたことが、大きな後押しになりました。結果的に多くの方々に関心を持っていただけたことで、今回の制度見直しにつながったと感じています。
参考:CPRA 商業用レコード二次使用料等の分配方法が大きく変わります
CEIPAの発足とMUSIC AWARDS JAPAN第1回 ストリーミングが30%増加した衝撃
──音楽業界の横断組織CEIPAが発足し、その中核事業として「MUSIC AWARDS JAPAN」の第1回が2025年5月に京都で開催されました。まずその成果を振り返っていただけますか?
野村:第1回は、日本の文化の発信地という意味で、京都で開催しました。初回でしたが、多くの方々に関心を寄せていただいて、NHKでの放送はじめ評価も非常に良かったと考えています。例えば一つの数字として、関連アーティストのストリーミング楽曲再生回数がMUSIC AWARDS JAPANの前後で約30%増加したんです。
──30%というのはかなりの数字ですね。
野村:本当に大きな効果があったと思っています。YouTubeで中継も行いアーカイブも残しているので、海外の方々にも見ていただく機会が生まれ、アクセスが非常に広がるきっかけにもなりました。
開会宣言は細野晴臣さんにお話しいただきその後オープニングムービー「RYDEEN REBOOT」、そして素晴らしいアーティストの方々(YOASOBI、Creepy Nuts、ちゃんみな、宇多田ヒカル、藤井風、AI×Awich×NENE×MaRI、Mrs. GREEN APPLE)のパフォーマンスが続き、MAJ TIMELESS ECHOを授賞した矢沢永吉さんにもご出演いただきました。演出も非常に凝ったものができましたし、インパクトは大きかったと思います。
ただ、現場は非常に混乱もしていました(笑)。初めての開催で京都という慣れない地でしたから、運営面でも予算面でも大変な部分がたくさんあった。そういった反省を踏まえながら、第2回に臨むことになります。
第2回はTOYOTA ARENA TOKYOへ。規模拡大と77部門への挑戦
──第2回となる今年のMUSIC AWARDS JAPANについて、具体的な変更点を教えてください。
野村:基本的な方向性は縮小ではなく拡大です。Grand Ceremony会場はTOYOTA ARENA TOKYOで行います。ステージの設営次第で変わりますが約8,000人ほど収容できる会場ですね。また、同日にPremiere Ceremonyも開催するのですが、そちらはこの春に新しくできたSGCホール有明にて行います。こちらが約3,700人収容ということで、規模は本当に大きくなります。
メディア展開もNHK、YouTubeだけでなく、TOKYO MXやLemino、ABEMA、radiko等も参加して、より多くの方々に届けていく形になっています。表彰部門も第1回の62部門から77部門に増やしました。
──どのような部門が増えたのでしょうか?
野村:クリエイター部門を充実させました。ライブ制作・演出に関わっている方々、CDやストリーミング用のジャケットを制作した方々、ミュージックビデオを監督・制作した方々といった、バックヤードで働く方々にも光を当てています。また、ジャンル面ではアイドルを男性と女性で分けました。昨今のジェンダーの潮流とは逆行するように見えるかもしれませんが、日本の男性アイドルカルチャーと女性アイドルカルチャーは全くの別物です。そのカルチャーの違いを表彰の形に反映させたということです。
──すでに「日本最大の音楽賞」と言えるほどの規模ですね。
野村:名実ともに、日本最大の音楽賞になっていると思います。第1回開催に対して多くの反響があったこともあり、既存パートナーの方々もより関心を持ってくださるようになりました。TOYOTA GROUPさんのような日本を代表する企業がトップパートナーについてくださっているのも、大きなことです。K-POPが世界を席巻し始めた頃、Samsungのような大企業がバックについて、Samsung製品と一緒にK-POP音楽が広がっていったという図式がありましたよね。そういった意味では、TOYOTA GROUPさんのようなナショナルクライアントが日本の音楽文化をバックアップする構図ができてきた、と感じています。
官民一体でグローバルへ。CEIPAの設立と国の支援の追い風
──CEIPAの設立により、行政との連携も大きく変わってきたと聞いています。
野村:これまで個別に取り組まれてきた動きが、CEIPAの設立を契機に一つの方向にまとまり、より広く海外に目を向ける流れが生まれました。国内にとどまらず、日本の音楽をいかに海外へ発信していくかという視点が共有されたことは、大きな変化だったと思います。
その結果として、官民連携も活発になり、関係省庁による支援も広がってきました。日本のエンターテインメント、特に音楽産業をさらに発展させていこうという機運の中で、民間と行政が連携して取り組む体制が整ってきたと感じています。CEIPAの設立によって、業界としての窓口や方向性が明確になり、どのように支援していくべきかが共有された点も大きな意義があったと思います。
──行政との連携についてはいかがでしょうか?
野村:音楽エンターテインメントへの支援という点では、政府全体として前向きな姿勢が見られるようになってきました。公的な場においても、関係者の方々から直接お言葉をいただく機会があり、コンテンツ産業に対する支援の整備やレコード演奏・伝達権に関する制度面についても、一定の方向性が示されてきています。我々としては非常に心強く感じています。
参考:CEIPA HP
先進国でほぼ日本だけ「整備途上」 レコード演奏・伝達権法整備という最大の課題
──レコード演奏・伝達権の法整備に向けても、積極的に活動されていますよね。
野村:この件は日本の音楽業界にとって大きな課題だと思っています。日本の音楽が海外の街中で流れていても、そこから著作隣接権者(実演家、レコード製作者)は十分な対価を受けられていないのが現状です。ヨーロッパや韓国をはじめとする国々ではきちんと制度が整備されている中で、先進国の中でも特に日本は遅れている状況にあります。
ヨーロッパでは長らく法制度が確立していて、アーティストやサポートミュージシャンへもしっかりと対価還元されている実例があります。これは民間の努力だけでは解決できず、やはり法整備が必要になります。これまで難しさがあったのも事実ですが、さまざまな立場の意見を踏まえながら、現実的な形を探ってきました。
我々としては、まず海外で日本の音楽が使われた分について、きちんと対価が戻ってくる状態をつくりたい。そこが整わないと、いくら海外展開を進めても持続的な形にならないと思っています。段階的にはなりますが、まずは国際的な環境に対応できるところから進めていきたいと考えています。
──今国会会期中の成立も視野に入っているとお聞きしました。
野村:そうなることを期待しています。団体としても、時代に合わせて役割をアップデートしていく必要がありますし、その中でもこの法整備は非常に大きな意味を持ちます。今後を左右する重要なテーマとして、しっかり取り組んでいきたいと思っています。
「グローバル元年」の手応え 日本音楽の躍進と80年代の再評価
──日本の音楽業界全体を俯瞰して、野村さんの目には今、明るい未来が見えていますか?
野村:そう思いますね。まず取り組まなくてはいけないのがグローバルで、その対応はなかなか進んでいなかったと思います。でも去年がいわばグローバル元年だったかもしれません。YOASOBIさんや藤井風さん、Creepy Nutsさん、米津玄師さんといったアーティストが海外ツアーで大きなキャパシティの会場を回るのが、だんだんスタンダードになってきた。ストリーミングで日本の音楽が世界中に広がっていることで、聴かれる割合もどんどん上がっています。
昨年は韓国や台湾のフェスにも足を運びましたが、アジアのフェスで日本のアーティストが出演すると人が集まるという現象が起きてきている。日本のアーティスト、日本の音楽が確実に支持されているのを、肌で実感しています。
──シティポップを筆頭に、過去の作品の再評価も著しいですね。
野村:シティポップもそうですし、最近では高中正義さんのような現象もある。ロンドンで5,000人規模のライブが実現するほど、海外、特に欧米でSNSを通じてバズっているんです。過去のカタログにも、海外の人たちが注目して掘り起こしてくれているというのはすごく嬉しい。80年代の日本の音楽業界はとにかくお金をかけて音楽を作っていた。「過剰品質」と言ってもいいくらいのクオリティでしたが、そういうものが今ちゃんと評価されている。
インバウンドで日本に来た海外の方々が日本のカルチャーの素晴らしさに気づき、自分の国に戻っても触れ続けるという流れも確実にあります。日本の音楽コンテンツに自信を持って、これからも海外に向き合っていくことが大事だと感じています。
SNS時代のアーティスト保護 誹謗中傷対策とメンタルヘルス支援の取り組み
──権利問題以外で、音制連として取り組んでいる新しいテーマはありますか?
野村:SNSが発達し、アーティスト自身がパーソナルアカウントで発信するのが当たり前になった今、誹謗中傷という問題が深刻化しています。アーティストがそういった攻撃を受けた際に、事務所側が適切に対応するためのノウハウが必要です。そういった意味での対応をするために一般社団法人日本音楽事業者協会(音事協/JAME)と共同で「アーティスト・タレントのためのセーフティガイド」を作成しました。
またコロナ禍やSNSでの誹謗中傷などで、メンタル不調に陥る事例が増えたことを受け、アーティストとスタッフへのメンタルヘルスケアを、業界全体で充実させていくためのプロジェクト「B-side」を音制連会員社も利用できるよう連携しました。メンタル不調を未然に防ぐという観点での制度設計です。アーティストやスタッフが創作活動に集中できるよう、まずは会員社に向けた啓蒙活動に取り組み、さらに業界全体に周知させていきたいと考えています。
今の20代は意識が高く、転職や退職に対して前世代よりも気兼ねしない傾向がある。ハラスメントが離職の原因となり得るような環境をいかに未然に防ぐか。これも業界全体で真剣に取り組んでいく必要があります。これも時代の変化の中での取り組みです。
参考:B-side
理事長最終任期に込める思い 「次の世代が恩恵を受けられるように」
──野村さんの理事長としての任期はいつまでですか?
野村:2027年6月までです。音制連の理事長は2年の任期で最長4期8年という内規がありまして、今が4期目の最終任期になっています。
──残りの任期中に、これだけは成し遂げたいというものはありますか?
野村:やはりレコード演奏・伝達権の成立を、任期中に実現させたいと思っています。これが最大の課題です。
音制連は40年前、先人の方々が大きな志でつくった団体です。その先人たちの決断が40年後の今、アーティスト・サポートミュージシャンやその活動を支える事務所の方々への大きな恩恵になっているように、今の私たちが取り組んでいることが、40年後の未来にまたつながっていくんだと思っています。次の世代がその恩恵を受けられるように、今できることをきちんとやっていく。それが理事長としての最後の使命だと感じています。
(了)
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