日本の音楽を世界に発信できるようなMTV JAPANになりたい 〜新プロジェクト「MTV 81」と「MTV SATELLITE」

インタビュー スペシャルインタビュー

MTV Networks Japan株式会社 広告営業本部本部長 兼 デジタルメディア事業本部本部長 牧野晃典氏
MTV Networks Japan株式会社 広告営業本部本部長 兼 デジタルメディア事業本部本部長 牧野晃典氏

MTVが、音楽をはじめとしたジャパンカルチャーを世界中のオーディエンスに向けてマルチプラットフォームで発信していく新プロジェクト「MTV 81(エム・ティー・ヴィー・エイティーワン)」をスタートさせた。国際電話での日本の国番号「81」に由来した「MTV 81」は、“世界における日本”を象徴的に表現したもので、“世界に誇れる日本のアーティスト”をMTV独自の視点でセレクトし、世界のオーディエンスに向けてオリジナルコンテンツを全編英語で届けていくという。また、無料映像配信サイトGyaO!において、独自編成による新しいエンターテインメントサイト「MTV SATELLITE」も新設と、新しい動きを加速させるMTV。MTV Networks Japan株式会社 広告営業本部本部長 兼 デジタルメディア事業本部本部長 牧野晃典氏に話を伺った。

MTV 81 http://www.mtv81.com/
MTV SATELLITE http://www.mtvjapan.com/satellite
MTV JAPAN http://www.mtvjapan.com/home
[渋谷区・神宮前 MTV Networks Japanにて]

プロフィール


牧野 晃典(まきの・あきのり)
2000 年、当時MTVコンテンツを放送していたミュージック・チャンネルに入社
2001 年、MTV ジャパン設立時に広告営業部マネージャーに就任。翌2002 年にシニアマネージャーに就任
2003 年4 月広告営業本部 広告営業部 部長代理、7 月に広告営業部長に就任
2007 年、広告営業部バイスプレジデントに就任
2012 年より日本でのデジタルメディア事業部本部本部長を兼任
2012 年11月には、音楽をはじめとしたジャパンカルチャーを世界に発信する全編英語の新サイト「MTV 81」、日本最大級の無料映像配信サイトGyaO!において独自編成による新しいエンターテインメントサイト「MTV SATELLITE」を立て続けにローンチするなど、つねに日本におけるデジタルメディア・ビジネスの発展に尽力している。

——「MTV 81」はどのようなプロジェクトなのでしょうか?

牧野:「MTV 81」は昨年の11月にオープンしました。MTV JAPANは、80年代に洋楽の文化を日本に届ける一翼を担い、その過程でみなさんにMTVを知っていただいたと思うんですが、今度は逆にMTVが音楽やファッションも含めて、日本のカルチャーを世界の人たちに伝えていく役割を担えないかと思い、立ち上げたのが「MTV 81」です。

レコード業界、音楽業界と親密にお仕事をさせていただいている中で、皆さんに対して我々が貢献できることはなんだろう? と考えていたときに、最近、業界の皆さんから海外展開についてのお話を頻繁にうかがうようになり、世界中にネットワークを持っているMTVだったら日本の音楽を世界に伝えることができますし、我々が音楽業界に貢献できる新しい方法なのかなと思ったんですね。

——音楽業界サイドからの打診があったんですか?

牧野:具体的アプローチはなかったんですが、「海外を視野に」とか「どうやってアジアに進出させるか、戦略を考えている」「MTVさんと何かできたら」といった会話は折に触れあるわけです。世界中にMTVがあるのを皆さん知っていますから。そういった話が一度や二度じゃなく、何度も出てくるようになり、それをやることに意味があるんじゃないかと思ったのが、一年くらい前なんですね。その後、色々検討しまして、やることになったのが昨年の春くらいで、今度は私たちが音楽業界の方々に「こういうプロジェクトを考えているんですが、どう思いますか?」と聞いて回ったら、否定的な意見を言う人は当然一人もいないわけですよ。

——「ぜひやってくれ」というような反応だったわけですね(笑)。

牧野:そうです(笑)。みなさんが色々な方法で海外を目指している中で、そのサポートが求められているんだなというのは感じました。

——今まで「MTV 81」のような海外向けサイトはなかったんでしょうか?

牧野:私もそう思って調べたんですよ。そうしましたら、日本の音楽やカルチャーを海外向けに英語で紹介しているサイトって山ほどあるんです。ただ、そのほとんどが、個人の方やファンの方が集まって運営しているものなんですね。海外をターゲットに、アップされているコンテンツが全て権利処理されていて、それなりの規模のメディア会社がやっているサイトがなかったんですよ。もちろん「SYNC MUSIC JAPAN」など、業界が運営されているサイトはあるんですが、才能豊かな日本のアーティストやクリエイターの国境を越えた活動をサポートしていくという同じ趣旨でメディアがやっているサイトは私が知る限りないですね。

——海外からは、日本の音楽を紹介する英語サイトを作ってほしいという要望はずっとあったと思うんですが。

牧野:「Japan Expo(ジャパン・エキスポ)」があれだけ盛り上がったり、日本の企業も積極的に海外進出していたり、皆さんが内需の限界を考える中で、ビジネスを成長させようとすると、やっぱり日本から海外に出て行くことが市場規模の拡大につながるんじゃないかという流れがあります。また、K-POPの成功が情報としてどんどん入ってくるので、みなさん考えるようになってきたんじゃないかと思います。ですから、タイミングは良かったのかなと思いますね。実際、著名になり始めているアーティストもいますし、成功事例もできている気はするんですよ。

「MTV 81」スクリーンショット

「MTV 81」 URL:http://www.mtv81.com/

——「MTV 81」をスタートして反響はいかがですか?

牧野:手応えはありますね。facebookの「いいね!」も3ヶ月で50,000(2013年1月時点)に達していますし、今後アクセス状況を国別にデータベース化して、そのデータを例えばレコード会社の方に還元できるかなと思っています。

——例えば、ヴィジュアル系やアニメ系など海外で受けやすいジャンルを前面に押し出すようなことはしないんですか?

牧野:そればかりになるのは止めたかったんですよ。ある程度、日本の音楽シーンのメインストリームをしっかりと伝えたいという思いがありました。とかく日本の音楽は先ほどおっしゃったアニメ系とヴィジュアル系がフィーチャーされやすいですし、当然私たちも、そういったアーティストさんもフィーチャーをさせていただくんですが、それと同時に、例えばYouTubeの再生回数がとても多いインディーズのロックバンドとか、そういうアーティストさんも積極的に扱っています。我々としては海外を目指しているという志がアーティストさん側にあるのであれば、ジャンルの壁は特に設けず、ご紹介をさせていただこうと思っています。

——そうなりますと目利きの重要性も増しますよね。

牧野:そうですね。その目利きという部分では、海外を目指しているかどうか、そこに対しての戦略があるかどうか、そういうところは重要ですよね。日本ではものすごく有名なアーティストさんでも、海外を目指していなかったら、別に「MTV 81」で紹介する理由はないですから。私たちもそこへは踏み込まないです。

——アーティストを紹介する上で心掛けられていることは何ですか?

牧野:まずはアーティストの人となりや音楽性をエディトリアルな視点できっちり伝えるのが先決なんじゃないかと思っています。毎週1人のアーティストをフィーチャーして、ムービーでインタビューを撮るんですが、そのインタビューの内容も、日本のメディアが日本のファン向けにインタビューする質問とは異なり、海外に対してどういう思いがあるか、何を考えているか、そういう目線のインタビューとなっています。また、それとは別に「MTV 81」のライターが、例えば、イベントレポートであったり、日本のカルチャーシーンを紹介したものなど、色々な切り口で毎日1本くらいずつ記事を上げています。

——記事を書かれているのは外国人の方なんですか?

牧野:そうですね。私たちが絶対やりたくなかったのは、日本語で書かれた原稿を英語に訳して伝えるということなんです。それだと翻訳の文章になってしまいますし、目線が全然違ってしまいますから。

——今後の展開についてはどのように考えていますか?

牧野:各リージョンのMTVがサイトを持っているので、まずリンクから始まり、コンテンツのシンジケーションに到るまで、どういう風に連動していけるか話をしています。また、私たちは「MTV 81」に関して「ウェブサイト」という言い方は一切してなくて、「プロジェクトです」という言い方をしています。ですから、サイトからスタートしましたが、このコンテンツが例えば30分のテレビ番組になって、将来的にはMTVアジアで放送されたりとか、そういうところまで考えています。

——放送と通信の垣根はもう取り払われているということですね。

牧野:そうです。360度展開をしていくことで、海外にいる日本の音楽を好きな人たちに対して、何かコンテンツを届けられるような施策を今後広げていければと思っています。

「MTV SATELLITE」スクリーンショット

「MTV SATELLITE」 URL:http://www.mtvjapan.com/home

——そして、もう1つ「MTV SATELLITE」というサイトも新設されましたね。これは「MTV 81」の全く逆バージョンのサイトですよね?

牧野:そうですね。全く逆です。去年の「MTV VMAJ」という、弊社主催の音楽授賞式でGyaO!さんとご一緒する機会がありまして、その過程でGyaO!さんという、日本最大級の映像配信サイトの中に音楽カテゴリーとしてMTVがプロデュースするエリアを一緒にできないかという話をさせていただきまして、11月に起ち上げました。洋楽だけでなく当然日本の音楽も扱いますし、他に弊社が世界中で展開しているリアリティ番組やドラマ、ライブ番組など、海外のMTVが放送しているコンテンツも配信しています。

——車の改造のやつが面白かったです(笑)。

牧野:『MTV Pimp My Ride〜車改造大作戦〜』ですね(笑)。人気ですよね。私たちはメディア会社ではあるんですが、どちらかというとコンテンツ寄りのメディア会社ですから、テレビもスカパー! さんやケーブル局さんを通じて放送されているように、ネットも強いプラットフォームを持つ会社さんがいらっしゃるので、そこと組んで、より多くの人たちにコンテンツを届けるという考えなんです。

例えば、Yahoo! JAPANさんのような多くのユーザーを持つところに、私たちがコンテンツを提供して、プラットフォームとしての強みとコンテンツとしての強み、お互いの強みを両方持ち合わせれば、もっと多くの人に見てもらえるんじゃないかと。実際に先ほどおっしゃった『MTV Pimp My Ride〜車改造大作戦〜』への導線をYahoo! JAPANさんのトップページに掲載していただくことで、もの凄い映像再生数があったり、結果として表れています。

——最近の若者は洋楽をあまり聴かない、海外の文化そのものへの興味を失っているみたいなことを言われていますが、その点に関してMTVさんでも感じることはあるんですか?

牧野:どうでしょうね。当然色々なものがネットの影響でボーダレスになっていく中で、極端に飛び出る人たちというのが限られているだけなんじゃないかなという気がしています。それは洋楽にしても邦楽にしても。一極集中型と言いますか、特定のアーティストの情報が集中するような状況でも、良いアーティストっていっぱいいます。私たちは音楽を紹介するのが仕事なので、サイトなり、放送なりで、そういうアーティストたちをしっかりと紹介していきたいと思っています。

——洋楽と邦楽双方が良い循環をしていくような状況になったらいいですよね。

牧野:そうですね。それはサポートするメディアが色々な音楽をきちんと扱っていけばいいだけの話だと思いますし、私たち専門チャンネルと呼ばれる業種は、しっかり音楽業界をサポートしていくポリシーを持ち続けていくことが重要なのかなという気がしています。

やはりネットとテレビというそれぞれのプラットフォームに適したコンテンツ展開をしていくというのは、すごく重要なことじゃないですか。今までだったら、テレビの補完メディアとしてのウェブとか、そんな流れだったと思うんですよ。でも今はそうではなくて、当然テレビはものすごく大事ですし、テレビを観て頂いている視聴者の方もいっぱいいらっしゃるので、そこに適したコンテンツを届けるし、「MTV SATELLITE」のようなウェブサイトにはそこに適したコンテンツを届けていけばいいんじゃないでしょうか。同業の音楽専門チャンネルさんも様々な試みをされていますし、音楽でビジネスをしているメディアさんが、色々な導線でコンテンツを届けていくというのは、すごく良い流れのような気がします。

——とにかく若い人たちが音楽にもっとたくさん接してくれないと、音楽産業はどうにもならないわけですからね。

牧野:CDショップという、リアルパッケージのお店がこれだけどんどんなくなっている中で、音楽の接触機会がそれに準じて減っていくというのはやはり避けたいですよね。だったら色々な形で、音楽に接する機会をきちんと提供していくべきだと、私は思います。

——最後にMTVさん側から、音楽業界関係者へ向けてのメッセージをお願いします。

牧野:とてもそんなことを申し上げられるような立場ではないんですけれども(笑)、少しでもお役に立てられるように頑張ります。どちらのサービスもまずは業界の理解を高めることが大事なので、業界のみなさんに少しでも理解していただいて、一緒になっていけばコンテンツも充実していくと思います。

——アーティスト側からや、事務所側からのアプローチはウェルカムであると。

牧野:もう、常に。アーティストのリリーススケジュールに合わせて、ミュージックビデオができ、専門チャンネルでプロモーションして、というのが一般的なプロモーションの流れで、そこから先をセールスに繋げていくわけですが、邦楽の場合世界中でそのアーティストのCDが流通するかというと、現状しないわけなんですよね。ですから、リリースタイミングで「MTV 81と」とお話を頂くこともあるんですが、「MTV 81」に出ることは必然ではないんですよ。例えば、「ヨーロッパツアー、アジアツアーを考えているので」とか「これからフランスのiTunes Storeで配信を開始しようと思っているので」とか、そういったケース等、「MTV 81に出るときはこのタイミング」と決まっているわけではないんですね。ですからアーティストサイドも私たちも色々と考えながらやっている状態です。今後はより自由に、様々なタイミングでアーティストを紹介していければとは思っています。

——そういう動きのハブになったら素晴らしいですよね。

牧野:そうですね。私たちは紹介して終わりというのは、メディアの身勝手みたいですごく嫌なんですよね。そういうことじゃなくて、アーティストやレーベルの皆さんにとって、新たなステージへ躍進する架け橋になりたいですね。例えば、「MTV 81」がきっかけで、海外でライブができるようになったりとか、とにかく次のステージに繋がるハブになれれば最高ですね。

——ここで紹介されたアーティストは、アジアツアーくらい普通にできちゃうよねというくらいの状況が本当に生まれてくることを心から望んでいます。

牧野:そうなりたいです。実際にシンガポール、マレーシアなど、アジアへ行けばアジアのMTVがあるわけです。そういう各国のMTVとの連携も含めて、今度は日本の音楽を世界に出せるようなMTV JAPANになりたいと思いますね。

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