「音楽シーンの現状をきちんと見て未来を考えていくために、今なにをすべきか」オープンカンファレンス「YOAKE」実行委員 座談会

インタビュー スペシャルインタビュー

左から:飯田仁一郎氏、渡邉ケン氏、永田純氏
左から:飯田仁一郎氏、渡邉ケン氏、永田純氏

音楽シーンの現在を感じ、音楽の現在と未来をディスカッションするイベント「YOAKE 〜Music Scene 2013〜」が11月17日、東京・恵比寿ガーデンルームで開催される。当日は、海外の最新音楽事情に精通するジェイ・コウガミ氏を始め、佐藤秀峰氏、高野修平氏、谷口元氏、ドミニク・チェン氏らが登壇する「パネルディスカッション」、tixeeやTUNECORE JAPANによる「ニューメディア・プレゼンテーション」、Predawn、田中茉裕、レ・ロマネスクらが出演するライブも実施される。
 同イベントの開催を前に、実行委員を務める飯田仁一郎氏(OTOTOY編集長)、渡邉ケン氏(TOKYO BOOT UP!代表)、永田純氏(一般社団法人ミュージック・クリエイターズ・エージェント 代表理事)の3名による座談会を実施。イベント開催の経緯や見所を語っていただいた。

[2012年10月29日 / OTOTOYにて]

 

プロフィール
飯田 仁一郎(いいだ・じんいちろう)
OTOTOY編集長


音楽フェスBOROFESTA主催、バンドLimited Express (has gone?)リーダー)
配信サイトOTOTOYの編集長、10年続く音楽フェスBOROFESTAの主催者、東京リアル脱出ゲームの仕掛人、レーベルJUNK Lab Recordsの主催等、活動は多岐にわたる。またPACKaaaN!!!、ぐるぐるまわる、メテオナイト等の関わる多くのイベントを成功に導く。

 

渡邉 ケン(わたなべ・けん)
TOKYO BOOT UP!代表


海外音楽家招聘業務、レコード会社、音楽出版社、マネージメント、SXSWなど多岐にわたる35年間の音楽業務経験を通じ、「アーティストの自立するための新しい環境作りと支援」を目指す有志グループTOKYO BOOT UP!を2010年設立。世界2位の業界規模でありながら「音楽見本市」が根付かない疑問と自立するアーティストにとっての音楽見本市の必要性の実証事業として毎年新宿の複数のライブハウスを回遊するライブショーケースやセミナーで構成するSXSWの日本版を目指す年次音楽見本市を毎年開催。今年新たに通年セミナー「新東京大楽」も開講。幅広い機会<演奏/学ぶ/問題共有/出会うなど>の提供を続けている。SXSWをはじめ若いアーティストへの海外活動支援プログラムにも注力している。
TOKYO BOOT UP!:http://tbu2012.jimdo.com/index.php

 

永田 純(ながた・じゅん)
一般社団法人ミュージック・クリエイターズ・エージェント 代表理事


音楽エージェント/ プロデューサー。70年代中頃よりコンサート制作にかかわり、79-80年、YMO のワールド・ツアーに同行。84年坂本龍一アシスタント・マネージャーを経て、85年以降、矢野顕子、たま、大貫妙子、マイア・バルー、金子飛鳥らをマネージメント、細野晴臣、友部正人、三宅純、テイ・トウワ、野宮真貴、マルセル・マルソーらを代理した。プロデューサーとしては 東京メトロ、六本木ヒルズ、東急文化村、J-WAVE、世田谷文化財団等の主催公演、NHK「みんなのうた」、「セサミストリート/日本版」等に関わり、また、オーディオ代理店、シュタイナー教育関連コーディネイト、音楽出版を手がける。著書に「次世代ミュージシャンのためのセルフマネージメント・バイブル」。有限会社スタマック代表。

 

——音楽シーンの未来を考えるカンファレンス「YOAKE」が11月17日に恵比寿 ザ・ガーデンルームにて開催されます。これはどのような経緯で開催されることになったのでしょうか。

永田:Musicman-NETでも取り上げていただきましたが、ミュージック・クリエイターズ・エージェントという一般社団法人を約1年前に立ち上げ、音楽を志すすべての人に対して「なんでも相談室」という窓口を開きました。そこに相談に来てくださるのは、バンド、シンガーソングライターだけでなく、クラシック、邦楽の方もいらっしゃったりと本当にさまざまで、最近、累計で100人を超えたところなのですが、みなさん本当に真摯に音楽に向かわれていて、感銘を受けることが多いのです。ところが、それをベースにしていろんな人と繋がっていけるとよいなと思いながら周りを見た時に、ちゃんとした意志を持って声を上げている人がさまざまなところにこれだけいるのに、そういう人達が実際には横に繋がりにくい現状があるなと。そのきっかけになるようなことがなにかできないだとうかと考えていたんです。

——音楽について真摯に考えている人達が横に繋がる環境を作っていこうということですね。

永田:はい。もうひとつの理由としては、ちょうど今「ベルウッドレコード40周年」なんていうキャンペーンをやってますけど、三浦光紀さんの時代あたりから考えるともうすぐ半世紀ぐらいになるわけです。その中で育まれてきた様々なことを、会社組織の中で継承されていくような類いのものとは別に、音楽に関わる人間同志が自然に出会って受け継いでいくようなきっかけ、つまり縦にも繋がるきっかけを作れないかと。そうやって、音楽を好きなもの同士が自然にシーンを作ってやっていくようなことがもっとあっていいだろうし、結果的に、それが束になってひとつの声として見えるようなことがあってもいいかな、と。で、特に今年の春以降、ようやく、次はこういう時代になるんじゃないかということが見えかけてきたような気がするのですが、それなら、来年のことも考えられるような2012年も深まった時期に、なにかきっかけになるようなイベントがあってもいいんじゃないかと思ったわけです。

——そこで、OTOTOYの飯田さんと、TOKYO BOOT UP!の渡邉さんに最初に声をかけた、と。

永田:はい。業界でもなく、かと言ってリスナーでもない、でも確実に音楽が大切な僕らのようなところから声を上げてみるのもいいのかな、と。OTOTOYに関しては、もうご存知のように、音楽そのものに深く根ざした独自路線を歩んでいる配信サイトです。飯田さん自身も肩書きは編集長ですが、「BOROFESTA」とか、「ぐるぐる回る」とか、多くのフェスにも関わっていらっしゃって、ボク自身、今年その現場に足を運んで非常に感銘を受けたというか、勇気を頂いたというか。

飯田:ありがとうございます(笑)。

永田:渡邉さんとは初めてお会いしてからかれこれ20年以上経ちます。ここしばらくはサウス・バイ・サウスウエストのアジア事務局に関わっていらっしゃったんですが、3年前からTOKYO BOOT UP! を始められています。今年の頭に、ひさしぶりにFacebookでメッセージをいただき、その直後の3月に沖縄で行われたカンファレンスで全体をまとめていらしたこともあって、僕も自腹でそこに参加したんです。打ち上げの後、夜中にまた偶然にステーキ屋でお会いして(笑)、話し込んで。その後、TOKYO BOOT UP!が春先から始めたセミナー「新東京大楽」にミュージック・クリエイターズ・エージェントからの講座提供という形で場をいただいて、今日に至っています。そんな感じでこの3者で実行委員会としてやっています。

「YOAKE」実行委員 座談会

——なるほど。まず、渡邉さん、飯田さんおふたりについて簡単にお伺いできればと思います。まずTOKYO BOOT UP!についてお話いただけますか。

渡邉:毎年10月初頭に3日間、新宿のライブハウス3軒を借り切った街フェスを始めて、今年3年目になります。そこからいくつかのバンドはサウス・バイ・サウスウエストに送り出します。フェスとしては極めて後発だし、年齢的にも長老の部類に入るなと思っているし、インディーズといいつつも、僕のキャリアはどちらかというとメジャーのど真ん中を来たという経緯もあって、インディーズの実態を把握するまでやっぱり時間はかかるなと思っています。メジャーの知識や経験があまり役に立たないっていうのは初年度から感じていたことで、やっぱりノウハウが違うんですよね。アーティストの意識も違うし……乱暴な言い方をすれば、スキームを理解していないからそこから説明しなくちゃいけないっていう。僕らが何を考えてるかがピンとこないっていう人達を相手に始めたので、自分自身も、おやっ?とか混迷もするし(笑)。新参者としては、実にいい体験ですし、面白いですね。シーンができていくきっかけになればと考えています。

「YOAKE」実行委員 座談会

——飯田さんはご自身でバンドもやられていて、OTOTOYの編集長や、「ぐるぐる回る」のキャスティングプロデューサー、特に「BOROFESTA」に関しては11年目になるわけですが、最近のシーンの移り変わり、現状についてはどうお考えですか。

飯田:僕らはLimited Expressっていうバンド活動を始めていたんですけど、このままやっていっても俺ら食えないんじゃないの?っていう思いがあって。それこそ、ジョン・ゾーンのTzadik(レーベル)から出させてもらったり、サウス・バイ・サウスウエストにも出させていただいて、いろいろ海外も回っていたんですが、海外のアーティストの方がもう少し食えてるように見えたんです。実際がどうかっていうよりも、彼らはアメリカやヨーロッパ中を回ってなんとか必死に食ってると。でも日本の人たちは食えてないっていう現状がすごく残念に思えて、自分のバンドで世界中を回りながらそういうことも感じていたんです。なので漠然と、もう少しアンダーグラウンドなアーティストが食える土壌ができてもいいんじゃないのかなっていう気持ちは、学生の時からですけど、「BOROFESTA」を始めながらもありましたね。

——そういう気持ちからOTOTOYに繋がっていったんでしょうか。

飯田:僕は京都のTSUTAYA西院店で9年働いていたんですが、その時に宇多田ヒカルと浜崎あゆみの大ブレイクを経験したんですね。ただそれも毎年20パーセントずつ売り上げが落ちてきていて、次は配信だ!と思い、配信サイトで働こうと飛び込んだんです。そうしたら、まさかまさかの携帯が大ブレイクっていう。1曲400円で音質もよくないのに売れていて、それが一大ビジネスだったわけです。それが2007〜2009年辺りですね。でもそこで僕らの音楽は売れない。昔、自分が衝撃を受けたボアダムスのような音楽も携帯では売れない。だけどCDは難しいし、アナログも当然難しい、当時一番勝っていたのが携帯なわけです。そこでうちの代表の竹中と話し合って、今どんなにビジネスのシェアが小さかろうが、そのあとはPCであるべきだろう、と。そういう経緯でOTOTOYを始めたわけです。今年になってやっと、初めて、PCの配信サイトが前年比の1.5倍ぐらいになり出したんですよ。それはOTOTOYだけじゃなくて、iTunesも含めて、流通会社の人も、ついにPCがくるかもしれないですねって言う時代になってきていて。クラウドなりSpotifyなり新しいサービスもどんどん出てきていますが、とにかくPCサイトにも新しい未来があると思って今はOTOTOYを頑張っているっていうところですね。

——ご自分が関わっているフェスに関してはどうですか。

飯田:フェスバブルといわれていて、厳しいことは確かですが、厳しいなりに増えればいいなと思っていて。それは何かというと、人を集める手段として、地方ごとのコンテンツになるべきだと思っているんですよ。ある島からオファーも受けたんですけど、どれだけそこにある街が活性化していて素敵でも、やっぱりカッコよくて刺激的なコンテンツじゃないと若い子ってとどまらなかったりするんですよね。そういう意味で京都でやっていて思うのは、京都でアンダーグラウンドなフェスティバルがあるっていうことが、京都に帰る要因であったり、京都で音楽をする要因になったりする。「ぐるぐる回る」は埼玉ですけど、そういうフェスが各地方にあって、大きいフェスはライジングサンやフジロックでっていう状況になればいいなと思ってます。それが全部繋がっていけば、メジャーなバンドだけじゃなくてアンダーグラウンドなバンドもフェスツアーができるようになって、お金が彼らにも落ちるようになるわけで、そうなったらいいなと思っているところですね。

——今の話はそのままTOKYO BOOT UP! の行く末と重なっていくと思うんですが、いかがですか?

渡邉:いろんなやり方がある中で、ミュージシャンが自立できる環境を自分で作ったり、いろんな人と共有して作っていくということですかね。日本は世界で2番目の音楽業界の規模だといいつつも非常に不健康、ライブを回っても食えないわけで、疲弊化してバンド活動が続かなくなる。あともう少し深みのある話をすると、バンド経営についてどう考えるか?というフェイズに到達する前に、日本の業界の中ではバンドが消えていってしまうんですよ。アメリカだったらライブを回れば最低限のギャラが出るから、貯金はできないけど少なからず食うことはできるっていう環境があるし、なによりバンド経営についてノウハウを持ってるわけです。そこがアメリカと日本の大きな隔たりなわけで。ただアメリカでも食えなくてバンド活動がスタックしてる人達がいるのも事実だし、向こうが必ずしもいいとは僕は思わないけど、まだ向こうのほうがヘルシーではあるし、うらやましいと思うので、まずそういう環境を作りたい。あとはバンドがキャリアアップした時に、アドバイスできるような人材も日本には数が少ないっていう気がするんだよね。だからアーティストだけの責任じゃないし、そういう環境を作ってこられなかった業界というか、自分も含めて……まぁ怠慢なんだと思うんだけど(笑)。

——飯田さんは自分のバンドでアメリカに行った経験からその辺りはどうですか?

飯田:確かに、日本ではツアーを回りながらっていうのは相当難しいですね。ただこのネット時代になったところで、アイディアで勝っていける状態はあって。たとえば「クラムボン」は自分達の原盤を完全に自分達で持ちながら、流通はメジャーのほうがデカいんだからとそこを使ったわけです。反面、事務所はまさに自分のパートナーみたいな人をおいて、3、4人の個人事務所でやっているという状況。「DE DE MOUSE」にしても、2年avexでやって名前を売ってもらったけど、インディーの時から上がったスタッフと一緒に今活動していて、今は下手したらメジャーの時よりも売れてるんじゃないかっていう感じで。最近僕がよく言うのは、バンドって隣のひとりを見つけるのが勝負だなっていうことですね。メジャーレコード会社を見つけるよりも、ちょっと有能なプロデューサーでもいいし、マネージャーでもいいから、最初のひとりを見つけることこそが、バンドにとって、ミュージシャンにとっては重要かなとすごく感じてます。

永田:僕もその辺がこの半年ぐらいで一番ハッキリしてきたかなと思っていて。これまでは、ミュージシャンが事務所といわれるところに権利も管理も委ねるっていうのが前提になってすべてが始まっていたんだけど、これからは、その一歩手前のところからミュージシャンが主体的に選んでいく。で、それに対して僕らに何ができるか、っていうと、究極的にはふたつだけかな、と考え始めています。ひとつはアーティスト&デベロップメント=そのアーティストがどこに、どうやっていることに価値があるのか、っていうことを見極めて伝えて、それを具体的に形にできる体制を作っていくこと。もうひとつはデジタルのプロモーション。ソーシャルメディアは自分でも使えるわけだけど、それが実際プロモーションの効果を得るところまで自分でやることは難しいわけで。多分、そのふたつこそが、僕らがなすべきことじゃないかというのは、この半年で強く感じています。それはさっき渡邉さんが言っていた、スタッフがいよいよ何をやるのかっていう話にも繋がる。

「YOAKE」実行委員 座談会

渡邉:素材はいるんだよね。音楽をやってる側には可能性を持った人達が多くいて、その人たちをサポートする体制がないのと、人材不足っていうのは痛切に感じる。だから、その気にもさせられないんだよね。サウス・バイ・サウスウエストに行ってみて、日本のバンドは、クリエイティブなところで言うと非常に高いものを持っていると思うのですが、ただ出音だとか、ライブに対する臨み方だとか、スピリットの部分がまだちょっと追いつかないかなって。たくましさとか……たぶんわかってると思うけど(笑)。サウス・バイ・サウスウエストでは、ずっとその辺を見て欲しいと思っていて。中身は十分あるよね?

飯田:そうですね。オリジナリティとかそういう部分は相当強いですね。

渡邉:ただそういうところはアーティストが気づいてなかったりするから、残念だなって。それをピンポイントで言えない日本の業界も悪いんだよね。方程式で語りたがる人ばっかりいるような気がする。その方程式をぶっ壊してもらって……俺が壊せるとは思わないんだけどさ(笑)。

——では資源はすでにあるっていうことに対して、裏方側は何ができると思いますか。

渡邉:歯の浮いたような表現だけど、やっぱりビジョンを持つだとか、いわゆるゴールみたいなものを感じられるか。ゴールもフェイズごとに違うし、さっきデベロップメントっていう言い方もしていたけど、わかりやすく言うとキャリアというか、そこの考え方だと思いますね。

飯田:まずは「夢を見せる」っていうこと。若い人達に絶対に言われることがあって、それが「フジロックに出たいです!」っていう(笑)。フジロックに出たいっていうのはわかるけど、フェスは結果じゃなく経過で、君が目標にしなきゃいけないのはリキッドルームの1000人を埋めること、それができたらAXを埋めて、そのあとは武道館を埋めてみなよ、と。とにかくワンマンでどれだけできるか、自分達のシーンでどれだけできるかが勝負で、フェスじゃないんだ!ってことを言うと一番納得されます(笑)。フェスなんて主催者からしたら、目標にされても集客がないのに出せるかいっ!っていう感じだから(笑)。ライブというところで言えば、当然面白いアーティストのライブはみんな見たいわけで、ワンマンでどれだけ集客できるかっていうのがひとつの指標になるのは昔から変わっていないですよね。

永田:渡邉さんはご自身ではなかなか口にされないけれど、TOKYO BOOT UP! には街フェスの次のフェイズの目標が明確にあって、NASA 構想という、Nippon Artist Support Authorities。つまり、社会的にもアーティストを支える仕組みを作って、みんなで底上げしていこう、その結果、もっと音楽が日本に根づいていくといいな、と。この点では、ミュージック・クリエイターズ・エージェントとも同じヴィジョンを共有していると言えますね。

「YOAKE」実行委員 座談会

——そういった考えをお持ちの三方が揃って、リスナー、ミュージシャン、学生、業界人、ジャンルも世代も超えて音楽を楽しみ語り考えるというテーマを持った、YOAKEというオープンカンファレンスを開催されることになったわけですが、ここからは内容について詳しく訊かせていただきたいと思います。「パネルディスカッション」、「ニューメディア・プレゼンテーション」、「ライブ」の3本柱で8時間半という充実した構成になっているわけですが、まず核となる「パネルディスカッション」についてお聞かせください。

永田:音楽シーンの現状をきちんと見て未来を考えていくために、今なにをすべきか。このきっかけとなるように、3つの違う方向からテーマを設定しています。ひとつめ、「YOAKE〜音楽は今、どこにいるのか?〜」では、今この時代が抱える希望と課題を、総論的に浮き彫りにできれば、と考えています。牧村さんは、それこそ60年代後半から業界に身を置いていらっしゃる、フリーランスプロデューサーの草分け的な存在です。4年前に津田大介さんと共に書かれた「未来型サバイバル音楽論」は、「1アーティスト1レーベル」を提唱しながら、今日のデジタル時代に至る大変遷を具体的に予言した最初の書だったと思いますが、では、その後、実際にどういう未来が来たのか、といった観点からお話いただきます。また、世代を繋ぐ、という意味も踏まえ、特にインターネット上の音楽サービスの最新情勢に詳しい40代半ばのJRC 荒川さんや、やはりネット上でのプロジェクト支援プラットフォーム「Grow!」を始められたばかりの20代半ばのカズワタベさんにもご登場いただきます。

——そして2つめが、「リスナーの自由、ミュージシャンの自由」ですね。

永田:ここでは、少し具体的な事柄にフォーカスしていこうと考えています。言うまでもなく、このインターネットの時代に今後の音楽の可能性を考える時、これまでの著作権などの考え方はもうそのままでは通用しにくくなっていて、実は、これはリスナーやミュージシャンの権利や自由とも隣り合わせのことなんですね。そこで、アメリカでの音楽学校長時代にインディーミュージシャン学科を運営なさって、かなり早くからミュージシャンの自由の観点からこのあたりの発言をされてきている虎岩さんや、著作権運用の新しい世界的な潮流の中に身を置いていらっしゃるドミニク・チェンさんとお呼びし、現状の日本の業界を代表なさる立場である谷口さんや、著作権行政に直接関わっていらっしゃる文化庁の壹貫田さんとのお話しを伺います。さらに他業種から、「ブラックジャックによろしく」の作者で、原画の二次使用フリー化を実行なさったばかりの漫画家・佐藤秀峰さんにも加わっていただくことができて、僕自身も楽しみにしています。

——3つめは「これからの音楽の見つけ方、広め方」というテーマになっています。

永田:次世代を担うであろう、音楽愛に溢れるおふたり、ジェイ・コウガミさんと高野さんをフィーチャーして、これからの音楽の見つけ方、広め方について話を伺います。ふたりとも、ブログなどを通じて、非常に積極的に最新情報や意見を発信している方々です。今、この時代ですから、どうしても様々なところでの議論は「マネタイズ」論に終止しがちですが、ここでは、あくまでもリスナー目線から離れずに、この時代ならではの新しい音楽との出会いの話し、そしてインターネットが音楽にとってどんな可能性を持っているのか、という話しができれば、と考えています。実際にお会いしてみて、若い世代のおふたりが、音楽に対する大きな愛情と敬意に溢れ、「文化として音楽を広めたい、残したい」と真摯に考えていらっしゃることには非常に感銘を受けました。

——構成の中でふたつめになる「ニューメディア・プレゼンテーション」も、先ほどお話に出てきたデジタルプロモーションというところで重要になってくるところだと思いますが、具体的にはどういった内容になりますか。

永田:はい、ここでは、これからの音楽シーンに欠かせなくなりそうな新サービスを提供している方々から直接のプレゼンテーションをしていただきます。前評判が高く、やっと先月からサービスインして話題を呼んでいる音源配信エージェントサービス「TUNECORE JAPAN」、「電子もぎり」を中心に、スマートフォンに特化したチケットサービスを展開する「tixee」、「物販」感覚を併せ持ったダウンロードカードと、アーティスト紹介アプリを組み合わせた「FizzKicks」「SpinApp」などのみなさんにお願いしています。

——最後に、気になる名前がラインナップされている「ライブ」についてですが、このキャスティングについてはどのように決められたのですか?

永田:今、この時代らしい活動をしているミュージシャンを、さまざまなスタイルから選びました。キャスティングに関するイニシアティブは飯田さんにとっていただきました。

飯田:共通しているのはホットだということですね。これはOTOTOYのノリになりますけど、「田中茉裕」さんは、おそらく日本で初めて全曲フル視聴っていうのをやって話題になった。自分のホームページでやった人はいるかもしれませんが、他のサイトで全曲フル視聴をやってしまうっていうのは凄い。「Predawn」さんは業界でも大手にあたる事務所に所属していて、メジャーからも多く誘いがあると思うのですが頑な姿勢を貫いていて、マネージャーさんとふたりでずっとやっていきますっていうスタイルが受けて人気になっている。そういうところで、安っぽく見られないっていうのは彼女のブランディングに成功をもたらしてるなと思います。「mishmash〜」は、コーネリアスのサウンドプログラマー美島豊明さんのソロプロジェクトなんですが、ヴォーカルにカメラマンでもあるJulie Wataiさんを迎えています。

永田:彼らとは、実は「なんでも相談室」のお客様として知り合ったんです。その後、デビュー音源をいきなりアメリカのTUNECORE を使って全世界配信し、見事に結果を出しました。プロデューサーであるマスヤマコムさんによって非常にきちんとプロデュースされたプロジェクトです。

飯田:「DJみそしるとMCごはん」は、音も映像もひとりで手がける22歳の女の子で、YOUTUBEとかで広まってますけど、あれがどんどん広がっていけばまずライブに人がくるっていう状況が返ってくると思いますね。「レ・ロマネスク」は、まったくフランス語がしゃべれないのに敢えてパリに渡って10年、大道芸から芸を磨いて出演したTV番組映像がYouTube で世界ランク4位になったという変わり種です。「日比谷カタン」さんは、超絶技巧のギターとヴォーカルを織りなす、それこそ唯一無二の ”ひとりプログレ” の世界観を持っていて、一方で、”ポップカルチャー”全般をテーマにしたトークイベントなども続けられています。「高田漣 with 中島ノブユキ」はご存知の通りベテランミュージシャンでありながら、非常にマイペースで自分達の音楽を続けているっていうことで、今回は1年振りのステージですね。本当にホットなラインナップになったと思います。

——このYOAKEが今後どのような形になっていけばいいと思いますか?

永田:世代や立場を越えて、目的を共有した人々が出会えるリアルの場があることは、それだけでも、今、十分に意味があります。しかも、それがよい音楽と最新情報を伴い、オープンな議論の場にもなっていれば、なおさらです。あとは、なにしろ長丁場ですから(笑)、ちょっと覗いていただくだけでもいいし、ワインや軽食も用意しますから、まずはリラックスして楽しんでいただけたら、と思います。それで「音楽ってやっぱりいいな」と感じていただけたり、また、来てくださったひとりひとりが音楽との関わりをもう一度考えるきっかけになればうれしいです。そして、そういうひとりひとりの今後の行動から次のシーンが生まれ、ひいてはそれが業界の再生にもつながっていけば、すばらしいことですね。会場でお会いできることを楽しみにしています。 


「YOAKE 〜Music Scene 2013〜」

「YOAKE 〜 Music Scene 2013 〜
音楽シーンの現在を感じ、未来を考えるトーク&ライブ」

2012年11月17日(土) 13:00 〜 21:30
at 恵比寿 ザ・ガーデンルーム

【パネリスト】
荒川祐二((株)ジャパン・ライツ・クリアランス 代表取締役)、壹貫田剛史(文化庁長官官房著作権課課長補佐)、ジェイ・コウガミ (ブロガー)、佐藤秀峰 (漫画家)、高野修平 (ソーシャルメディア・マーケッター)、谷口元 (エイベックス・ミュージック・パブリッシング(株) 代表取締役社長)、ドミニク・チェン (NPO法人 クリエイティブ・コモンズ・ジャパン 理事)、虎岩正樹 (残響塾 塾長)、牧村憲一 (音楽プロデューサー) ほか
【ニューメディア・プレゼンテーション】
FizzKicks、Spinapp、tixee、TUNECORE JAPAN ほか
【ライブ】
高田漣 with 中島ノブユキ、Predawn、田中茉裕、レ・ロマネスク、日比谷カタン、mishmash*Julie Watai、DJみそしるとMCごはん ほか

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