「賢い」新世代アーティストたちとパッケージを取り巻く現状

インタビュー フォーカス

タワーレコード株式会社 新宿店チーフ 石黒大貴氏
タワーレコード株式会社 新宿店チーフ 石黒大貴氏

【特集】ミレニアル世代のアーティストが創る新たな音楽シーン

2017年3月15日掲載

 

  1. アーティストもリスナーも洋楽・邦楽という意識がなくなっている
  2. ミレニアル世代のアーティストに共通する「賢さ」
  3. 今注目しているアーティストたち〜Suchmos、LUCKY TAPES、リーガルリリー
  4. パッケージを取り巻く現状と特典の多様化
  5. ジャンルのブームが薄れてきている
  6. 好きなことを突き詰めてやって欲しい

 

アーティストもリスナーも洋楽・邦楽という意識がなくなっている

タワーレコード新宿店チーフ 石黒大貴氏:最近の邦楽の大きな流れとして、まずブラックミュージックの影響があると思います。きっかけはマイケル・ジャクソンが亡くなったことではないかと考えていて、色物扱いになっていたマイケルが亡くなったときに、皆がその偉大さを再認識した。そして、マイケルが好きだった洋楽アーティストたちによる、その影響をストレートに表現した音楽が4、5年前くらいにどんどん出てきて、そこから影響をうけた日本人アーティストが今増えてきていると思うんです。

正直、洋楽はマーケットでは縮小傾向にあるんですが、音楽の中身は、洋楽と邦楽は近づいていっているのかなと。最近の邦楽は僕らが聴くと「洋楽っぽいな」と思うんですが、今の世代の人たちは多分そういったことすら感じずに邦楽を聴いているんじゃないかなと思います。アーティストもリスナーも洋・邦楽という意識がなくなってきていると思います。

ちょっと前まで、若手バンドってギターロックやパンクとかが日本では主流でした。もちろんそちらも残りつつ、新たにブラックミュージック系のバンドが出てきているイメージですね。

また、EDMはメインストリームへ影響を与えているように感じます。三代目 J Soul Brothersもそうですし、例えば、miwaのアルバムの中に「なんかEDMっぽい曲があるな」みたいな(笑)、そういったことが結構あるんですよね。だから曲のバリエーションとしてEDMは入っているのかなと思います。

 

ミレニアル世代のアーティストに共通する「賢さ」

石黒:ミレニアル世代のアーティストは皆さん賢いなって思います。影響をうけたもののインプットの仕方とアウトプットの仕方も上手いですし、売れることに対して積極的な人も多いですし、自分の見せ方も良く考えられていると感じます。

昔のアーティストは“音楽しかできない”みたいな人が結構多くて、周りがそれ以外のこと全てをフォローしている、みたいなケースも多かったんですが、今はもう全部自分たちでやって、マネージャーも友達みたいなアーティストが多いです。

SNSなど吸収する場所もいっぱいありますから、結局、賢い人達が残っていっているのかなという気はします。

 

今注目しているアーティストたち〜Suchmos、LUCKY TAPES、リーガルリリー

石黒:ブラックミュージックの流れで一番分かりやすいのは、やはりSuchmosですね。あとは個人的にはLUCKY TAPESも注目しています。

Suchmos
Suchmos

また、バンドものだと最近リーガルリリーという女の子バンドですね。彼女たちはチャットモンチーみたいな感じなんですが、最近すごく売れていて「もしかしたらガールズバンドブームがもう一回くるかもしれない」とスタッフ間では話していたりします。

この間、テレビ番組で「今年来るアーティスト特集」みたいなのがあって、それでリーガルリリーが4位だったんですが、翌日、すごく店頭に跳ね返ってきました。1位だったら売れるのは分かるんですが、4位なのに跳ね返ってきて(笑)。

LUCKY TAPES、リーガルリリー
LUCKY TAPES、リーガルリリー

石黒:最近こういったケースが多いんですよね。やはり今一番跳ねるのはネットからなんですが、爆発力はまだテレビやCMの方が大きいです。とはいえ、昔は「『ミュージックステーション』に出るから絶対売れるな」と思ったものが意外と売れなかったり、年々その予測はし辛くなっています。

 

パッケージを取り巻く現状と特典の多様化

石黒:パッケージを売る立場として、デジタルに一気に取られるのかなと思ったときもありましたが、意外とパッケージで買ってもらえているという実感はあります。

タワーレコードのメインターゲットは30代なんですが、購買層の変化というか、若い人はCD買わなくなったみたいな印象も全くないですし、デジタルで聴いて、好きなアーティストはCDを買うという方が一番多いんじゃないでしょうか。

やはりパッケージを売る上で、特典の力はとても大きいです。特典があることで店舗に来てもらう機会も増えますし、お店を大事にしてくれるアーティストの方々が積極的に特典をつけてくれることで、ネットとの差別化もはかれていると思います。

また、特典も多様化していまして、最近では未発表の音源や映像を特典にしたり、アイドルやアニメに関しては、ポスターやバッジなどグッズ系の特典のために書き下ろしのイラストを提供して頂けたりと、アーティストの方々やレーベルの方々にはご協力頂いています。

 

ジャンルのブームが薄れてきている

石黒:ジャンルのブームは10年おきに来るとよく言われるんですが、それもちょっと薄れてきているなと思っています。本当だったらもう一回パンクブーム来ないと、という感じなんですよね。

もちろんパンクも売れていますが、みんながそれを聴いているみたいな状況ではないですし、ヒップホップも「フリースタイルダンジョン」の影響で結構盛り上がったんですが、みんながみんな追いかけているわけでもない。

だからもう本当にジャンルとかなくなっていっているのかなとも思うんですが、個人的な予測として、今年はUKロックっぽいものがくるかな、と考えています。

実はこれ去年くらいから言っていたんですが、去年はそんなにこなくて(笑)。いわゆるUKのスタジアムロック系っていうんでしょうか、オアシスのように大きい会場でみんなで大合唱みたいな曲が増えてくるのでは、と考えています。それで、オアシスが今年復活すれば完璧かな…とか(笑)、やはり音楽が好きなので、こういったことを考えるのは本当に楽しいんですよ。

 

好きなことを突き詰めてやって欲しい

石黒:自分もそうですが、音楽業界って本当に音楽が好きな人しか来ないと思うので、スタッフさんもアーティストさんも、好きなことならとことん突き詰めてやって欲しいです。

今はシーンの移り変わりが早いですし、ライバルもすごく多いので、トップがくるくる変わっちゃって、スターが生まれにくい時代だったりするんですが、だからこそシーン全体を引っ張るような人に出てきてもらいたいなとは思います。

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