「AWA」は長く愛される質の高いサービスを目指す 〜AWA(株) 取締役 小野哲太郎氏

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小野哲太郎氏
小野哲太郎氏

エイベックス・デジタルとサイバーエージェントが共同出資したAWAによる、新しいサブスクリプション型(定額制)音楽配信サービス「AWA(アワ)」がサービスを開始し約8ヶ月が経過した。以後「Apple Music」「LINE MUSIC」「Google Play Music」などサブスクリプションのサービスが次々とスタートし、定額制配信も一気に身近なものになった印象があるが、サービス提供側はこの8ヶ月をどのように見ているのだろうか? 今後の展望も含めて、AWA(株) 取締役 小野哲太郎氏に話を伺った。

(JiRO HONDA)
2016年1月18日 掲載

 

  1. 一番の課題は課金転換率の向上
  2. 不正なものよりも優れたサービスを作って行く
  3. レーベルやアーティストに還元する仕組みをもっと充実させたい
  4. チームで一体感を持ってAWAの品質を上げる

 

一番の課題は課金転換率の向上

——「AWA」のサービス開始から約7ヶ月(2015年12月時点)経ちましたが、当初の想定と比べていかがですか?

小野:当初、高い目標を立てていましたが、その想定をはるかに上回る伸びだったと思います。今現在、650万ダウンロードを超えていまして(2015年12月時点)、以降も順調に伸びている状況ですので、この点はとても良かったと思います。一方で、課金転換にどう繋げるかが課題で、実際AWAがスタートしてから今に至るまでに課金転換率は約3倍まで向上はしているのですが、市場全体を俯瞰してみたときに、みんなサブスクリプションに課金する状態なのかというと、まだ乗り越えていかねばならない壁があると感じていますね。

——もっと多くのユーザーが課金してくれると想定されていた?

小野:構造上、かなりコストのかかるビジネスなので、相当な規模のユーザーに有料プランで使っていただかないと、事業としてはなかなか成立しないというのはあります。売上からJASRACなど著作権管理団体とレーベルへの支払い、AppleとGoogleへの決済手数料の支払いを差し引いた粗利の中で事業運営費1億〜2億をまかなうには、トップラインを伸ばすしかないんですが、まだまだ足りていないのが実態ですね。ただそれも想定通りではあるので、今後じわじわと有料プランのユーザーを増やして、粗利が事業運営費を超えるところまで持っていきたいですね。

——では、現状一番の課題は課金転換率ということですね。

小野:そうですね。ユーザーに「960円で世界中の曲が聴き放題です」と説明すれば、頭では「安い」と理解していただけます。アルバム1枚買うよりお得だなと。ただ、毎月960円引き落とされることに、心理的なハードルがあるんですね。また、海外ではサブスク自体が浸透し始めているので、一人のユーザーが複数のサービスに加入していることもあるんですが、日本ではこの文化自体をまずは当たり前にしていかないといけません。

その背景には、携帯電話などを販売するときに店頭で行われるレ点営業も影響しているのではないかと推測しています。気がつけば、あまり利用しないサービスなどに対して、月額でいくらかのお金を支払っていたという経験を多くの人がしているかと思うのですが、ほとんどの人はこれにフラストレーションを感じているのではないでしょうか。そのイメージが頭の中にあるので、月額で利用料金を支払うということに対して、心理的なハードルがあるのではないかと思いますし、そういったやり方が旧型のサブスクだと主流だったので、ユーザーの中に抵抗感があるなと感じています。我々はそういうやり方はせずに、無料の体験期間を終えた方には、ご自身で判断して、サービスを継続するための利用登録をしてもらっています。

——ユーザーがプレイリストを公開できることがAWAの大きな特徴ですが、これについてユーザーの反応はいかがですか?

小野:わずか8ヶ月で約400万個のプレイリスト(2015年12月時点)が作られています。これまでの音楽サービス上では、自分が音楽を聴くために作っていたプレイリストですが、AWAの登場により他者に聴いてもらうためにプレイリストを作って公開するという新しい文化が根付いてきています。無数にある曲の中からユーザーが何かしらの想いで選んだ8曲からなるプレイリスト、これらの集合体から、テクノロジーでそれぞれのユーザーに最適なプレイリストを届けるというキュレーションとリコメンド、2軸の仕組みにしているのですが、そこがAWAの特徴です。

——新しい音楽に出会う仕組みですね。

小野:ええ。私たちAWAのサービスは「音楽との出会いと再会」というテーマをずっと掲げており、ユーザーにはとにかく毎日連続的に素敵な音楽と出会ってもらいたいと思っています。実際にデータを見てみても、毎日違う音楽と出会っている人はサービスの利用継続率がとても高いんです。AWAにはプレイリストというキュレーションの部分と、リコメンドというテクノロジーの要素がありますが、高品質なプレイリストを大量にユーザーが作ってくれているので、今後はよりテクノロジーの部分を強化していきたいと思っています。例えば、アルゴリズム自体をパーソナライズするという方法に挑戦しようとしています。現在も複数のリコメンドアルゴリズムを内製して採用していますが、全てのユーザーが同一の仕組みでリコメンドされいます。今後はそのアルゴリズム自体をそれぞれのユーザーの趣向性に合わせて最適化する。ユーザーによって異なるアルゴリズムが採用されるわけです。そうすると、より多様な提案ができるようになっていきます。

また、より高品質なプレイリストのスコアが上がるような機械学習の仕組みや、プレイリストのタイトルや説明文を自然言語解析で分析し、プレイリスト間の関連性をあぶり出すための新たな仕組みも現在開発中です。2016年はリコメンドの強化が大きなテーマですので惜しみなく投資していきたいと思っています。

 

不正なものよりも優れたサービスを作って行く

——もう一つのAWAの特徴として、ギャップレスということで日常への埋没感をUIとUXをかけ合わせて追求されているそうですね。

小野:はい。Twitterへの投稿などを見ても好評ですし、ストアの評価も常に5点満点で4点以上をキープしているので、ユーザーからの反応は非常にいいと思います。GoogleとAppleから2015年のベストアプリに選んでいただきましたし、そういった点では評価していただいているかなと思います。まだまだ好きなアーティストの曲が入っていないということでユーザーから指摘いただくことはありますが、そこに関しては今後も交渉を続けていきますので、その不満は解消できると考えています。

——そのクオリティを実現しているからこそ、「スター・ウォーズ」のようなライセンスの厳しいところからもコラボの声がかかっているわけですよね。

小野:そうですね。ここ最近になってからの話ですが、世界の誰しもが知るハイブランドからも直接、「AWAと組みたい」と、お声がけいただけるようになってきています。我々の世界観や、モノ作りに対する姿勢は色々な方々に認めていただけているかなと思っています。

社長の藤田(藤田晋氏)が常々言っていることなんですが、「粛々とサービスを磨き上げていき、最高品質のものに仕上げること。」これが多くのユーザーから長く愛されるサービスの最低条件だと思っています。こういった運営方針が、課金転換率の上昇にしろ、提携のお声がけにしろ、ようやく実を結びだしたかなと感じています。

「AWA」スターウォーズ

——小野さんはいわゆる不正な無料音楽アプリに対して率直にどういう所感を持っていますか?

小野:アーティストに対して収益が入っていないので、そういう面ではすごくよろしくない文化であるなとは思っています。しかし、一方で、あれだけユーザーに使われているということは、時代の流れには適しているという側面もあります。

——ニーズがあると言うことですね。

小野:もちろんレーベルと共に、不正なサービスをテイクダウンするような動きには僕らも協力しますし、やっていきますが、それらのサービスが無くなったら自分たちのサービスがより多くの方に使われるかと言えば少し違います。不正なサービスよりも優れたサービスを作って行くのが僕らの役割であり、「お金を払ってでもAWAを使った方が不正な無料音楽アプリを使うより全然良い」と思わせた方がいいですよね。

——その通りだと思います。オフィシャルの音楽ストリーミングアプリにお金を払う文化は浸透しはじめている実感はありますか?

小野:そうですね、課金転換率が当初の3倍になったことは良い傾向だと思っています。我々が一番最初にサービスを始めたので、AWAのトライアルが終わり、他のサービスのトライアルへ移ったユーザーがたくさんいたと思うんですが、その人たちが再びAWAへ戻ってきているんですね。それは、色々なサービスを見比べた結果「AWAにしよう」と思ってくれた人が一定数いたということですので、自信を持ちましたね。

 

レーベルやアーティストに還元する仕組みをもっと充実させたい

AWA(株) 取締役 小野哲太郎氏

——AWAは業界とのエンゲージメントがとても上手く行っているなと思います。

小野:それはもうavexさんのおかげですね。やはり、サイバーエージェント単体で音楽業界に「コンテンツを出してください」と頼んでもこんなにスピーディーに物事は進まなかったと思います。avexの松浦社長が陣頭指揮を取り、各レーベルに対してAWAの説明してくださったことに尽きます。

——商慣習の面からみても、良いことだったのかもしれませんね。

小野:最初はそこまで肯定的じゃなかったレーベルの方も、一緒にやっていくうちに、「これは面白い」と感じてくださる方が増えて、最初はCDの市場が荒らされると思っていた方も、売上が落ちていないという実データが出始めたので、サブスクの収益は完全にプラスオンなんだと意識が変わってきているんじゃないかと思います。

——業界の人たちの考え方も変わってきているということですごくいい流れですよね。

小野:我々は真摯に、ユーザーやファンの方のためにやるべきなんですが、そこで得られるメリットをきちんとレーベルやアーティストに還元する仕組みをもっと充実させていけば、さらに環境は良くなると思います。難しいのは、先ほどもお話した通り、このビジネスモデル自体、コストが膨大で成立しにくいということです。本当は私たちもレーベルや作詞家・作曲家さんへの支払いを上げたいですし、プレイリストを作ってくれているユーザーにも聴かれた回数におうじて収益を還元するということもやりたいんですが、それをいかに実現していくかが今後の課題ではありますね。

——音楽業界の人もサブスクリプションに対して心理的なハードルが下がってきているとのことですが、その上で音楽業界からリクエストや要望はありますか?

小野:レーベルからは、新人アーティストのプロモーションのご相談が増えています。我々のサービスが一つのマーケットとして認められてきているからだと思います。

——逆にAWA側からの要望は何かありますか?

小野:我々からの要望としては、全ての楽曲を配信していただきたいということに尽きますね。今までの音楽市場の主戦場は新譜であったところを、サブスクであれば旧譜もマネタイズできますので、ぜひ眠ってしまっている旧譜も配信していただきたいと思っています。

 

チームで一体感を持ってAWAの品質を上げる

「AWA」チーム
▲「AWA」チームの皆さん

——小野さんがAWAに対して一番大事にしていることは何ですか?

小野:チーム全員そうなんですが、品質です。もちろんスケジュールや予算なども大事なんですが、骨格にあるのが品質で、サービスのクオリティがどこまで高いか?ということに集中しています。

我々は松浦と藤田の陣頭指揮のもと、比較的自由にエンジニアやデザイナー主体で新機能を作っていくという開発をしています。彼らが自主的に機能やモックを作って、テスト環境でチームで触わってみて「これは使い易い」「使いにくい」「楽しい」「楽しくない」という意見を出し合います。それで「これは良いね」となったものが、本番環境にマージされていく、みたいなやり方です。ですから、実はまだリリースしていないけど、すでにできあがっている機能などが結構あったりして、そういうのを外部の方に見ていただくと、みなさん面白がっていただけます。

「これなら使う」、「この機能はいい」という自分たちの感覚を大事にしています。“ユーザー目線”という言葉は、サービスづくりにおいてはよく使われる言葉ですが、言うのは簡単ですがこれをやり続けるのは意外ととても難しいのです。

——機能などに関して、エイベックスさん側から話があったりするんですか?

小野:それはもちろんあります。それはもうチーム一丸でやっているので、これはもっとこうした方が良いとか、例えば、エイベックスでAWAの取締役でもある若泉さんから「こういう機能を入れられないか?」とか、松浦さんから「ここってどうなっているの?」「あれってやらないの?」とか、毎日LINEをもらっています。

——最後に。音楽業界の方たちに向けてメッセージをお願いします。

小野:先ほども申し上げましたが、どんどん楽曲を提供して頂きたいのはもちろんですが、みなさんのような音楽に精通した人のプレイリストはユーザーにすごく喜ばれるので、是非プレイリストを作ってみていただきたいです。

AWA(株) 取締役 小野哲太郎氏

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