時代を切り拓く気鋭のクリエイタープロダクション Digz, Inc. Group プロデューサー STY & HIRO インタビュー

インタビュー フォーカス

左から:STY(エス・テイー・ワイ)、HIRO(ヒロ)
左から:STY(エス・テイー・ワイ)、HIRO(ヒロ)

「音楽って様々なカルチャーとリンクしているべきもの」と音楽と文化を幅広い視野で捉え、様々なシーンで活動するSTY。ダンスのバックグラウンドを持ち「聴いてて身体が自然と動くとか、そういう『気持ちいい』が一番のベース」とオリジナルなスタイルを追求するHIRO。

この2人を筆頭に新しい感覚を持つ個性的なプロデューサー/作家陣を擁するのが、昨今注目のクリエイター・チームDigz, Inc. Groupだ。海外のスタンダードなスキームを積極的に取り入れ、時代を彩る楽曲を世に送り出し続けている。

今回の「FOCUS」では、そんな「ディグズ・カラー」を色濃く纏う新世代プロデューサーの二人に迫ってみた。(取材・文:Jiro Honda)

 

PROFILE:
STY(エス・テイー・ワイ)
Producer / Composer / Songwriter / Singer
2002年頃からトラックメイキングおよび ライティングを始め、2005年からメジャーフィールドで職業音楽作家としての活動を開始。プロデューサー・ソングライター・トラックメイカー・シンガー と様々な役割を行き来し、縦横無尽に音楽を楽しむ次世代型プロデューサー。
作品:少女時代「MR. TAXI」、EXILE「24karats」シリーズ、三代目 J Soul Brothers「FIGHTERS」、三浦大知「4am」、宮野真守「EGOISTIC」他多数
Offical Site / WORKS / Blog / Twitter / Facebook / ASY

 

HIRO(ヒロ)
Producer / Composer / Songwriter / Singer
1985年生まれ。15歳の頃から作曲に興味を持ち、DTMを始める。翌年イギリスへ留学、その後オーストラリアへ渡り、大学を卒業した2008年から日本で本格的に音楽活動を始める。R&Bを軸にエレクトロ、ハウスのトラックメイキングも得意とする。
作品:倖田來未「TABOO」、山下智久「Nocturne」、少女時代「BAD GIRL」、安室奈美恵「MY LOVE」、FAKY「Better Without You」他多数
WORKS / Twitter / Facebook

 

STY「音楽はこんなに楽しいんだというのを改めて提案していきたい」

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HIRO「手がけた曲が長く聴き続けてもらえるのは本当に嬉しい」

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1.

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——STYさんは関西のご出身だそうですが、音楽へ目覚めたきっかけというのは?

STY:もともと小学校1年から中学校3年生ぐらいまでピアノを習っていたんです。バイエルからはじめて、ブルグミュラー、最終的にはツェルニーとかまでやってました。そういうレッスン用の練習は大変な割に全然楽しくなかったんですけど、自分の好きに弾くのは楽しかったですね。

——ピアノは自発的に始められたんですか?それとも教育の一環で?

STY:自分から習いたくて始めました。幼なじみの女の子がピアノ習ってて、その子の家でレッスンをやっていたので、ちょっと行きたいなと思ったりして(笑)。

——(笑)。最初はピアノからだったんですね。成長するにつれて自分の好みの音楽性がでてくると思うんですけど、STYさんの場合はやはりヒップホップやR&Bですか?

STY:一番最初にグッときたのはTLCの「CrazySexyCool」ですね。あの赤いジャケの。まだ14歳ぐらいで海外に住んでいた頃だったんですけど、初めて聴いた時に衝撃を受けましたね。それ以降、基本は洋楽でそういう方向にずっとハマっていくという。

——トラック・メイクはいつから始められたんですか?

STY:大学の頃なんですけど、自分でも曲を作れるんじゃないかと感じ始めた時に、一番やりたいことはピアノじゃなくて歌うことだったんですね。なので18歳ぐらいの頃は、ラップや歌でライブをやっていました。そして、その為にトラックを作り始めたという流れですね。

——当時作っていた曲というのは、どこで発表していたんですか?

STY:当時そういう場があまりなかったんですけど、muzieにたくさんアップしていましたね。そこのコミュニティで色んな人と知り合いになりましたし、muzieで僕の曲を聴いたレコード会社の人が連絡をくれた事もありました。

——そのような活動をされるうちにプロになられるわけですが、ディグズに所属する経緯というのは?

STY:もともと僕は音楽を仕事にするなんて全く考えていなかったんですよ。でも、muzie等で曲を発表しているうちに、ディグズの工藤社長に声をかけてもらって今に至ります。

僕ってけっこう発見して貰うのが上手いみたいで(笑)。工藤社長はすごく情熱的な人なんですけど、そういう情熱を持った人に見出してもらえる運があったんでしょうね。

——運もそうですけど、実力があるからこそですよね。プロのプロデューサーとして一番最初に手がけたのは?

STY:リリースと実際にスタジオに入ったのは別なんですけど、リリースはEXILEのATSUSHI君がやってたCOLOR(現DEEP)ですね。

その前の本当に最初というのは、まだ全くキャリアもないのにエイベックスのデカいスタジオにいきなり入れられて「よし、じゃあ曲作ってみようか」という感じでしたね(笑)。

 

2. 

——プロデュース・ワークにおいてSTYさんらしさってどんな部分だと思いますか?

STY:他のプロデューサーさんと違うのは、僕はどちらかというとシンガー・ソングライターに近いんですよね。作詞・作曲からアレンジまで全部やるので、アーティストさんからは「作家性が強い」とおっしゃっていただくことが多いですね。「すごくプライベートな歌だね」とか。

他の作家さんは、もっといわゆる「恋愛」や「励まし」といった一般的なテーマありきで曲を作ると思うんですけど、僕の場合は私小説的というか。

曲作りでも自分のライフスタイルが真ん中にありますね。あと作曲でいうと、いわゆるライブ感よりも頭の中で捏ねたものが好きですね。「あ、できた!」でパッとできるより、自分の中できちんと組み立てていく方が好きかも。

——影響を受けたアーティストやプロデューサーというのは?

STY:やはり90年代のR&Bやヒップ・ホップのアーティストとその作品です。日本だと、T-KURA/MICHICOさんや今井了介さんらの先輩方ですね。

——STYさんの代表的な作品の一つに少女時代の「MR.TAXI」がありますけど、その依頼が来たとき最初は断ったそうですね。

STY:今考えたらとんでもない話なんですけど(笑)、その時は僕のひねくれた部分がちょっと出ちゃったというか。最初は「今光っているものを追いかけてどうするんだろう」と思ったんです。でも、周囲の人と様々な議論を交わすことで、「今光っているモノをそのまま売るのではなく、別の視点から新たな価値を付けて提案することができれば素晴らしいんじゃない?」という考えに至り、だったら少女時代も僕なりに他のK-POPとは違うアプローチを試してみようかな、と思って、挑戦する事にしたんです。やはり基本的にどこかひねくれてるんでしょうね、十把一絡げに見られたくないというか(笑)。

——そういう良い意味でひねくれた部分含めて、STYさんの個性ということですよね。そういう話が来たら普通「やります!」ってなるはずなのに。

STY:未だにそのことは社内でネタにされるんです、「STYはあのとき最初断ったんだよなー」って(笑)。でも、言い方は変かもしれないですけど、ディグズには上手に能力を引き出して貰っているなと思います。

——作家と事務所の理想的な関係ですね。手がけてみたいアーティストはいますか?

STY:いっぱいいすぎて(笑)。やっぱり歌が上手いアーティストさんとやらせていただきたいですが、基本的にはなんでもチャレンジしてみたいです。

海外のアーティストだとAmerieかな。昔からずっと聴いてきたし、本当に好きなアーティストのひとりなので。もっと実力をつけていつか一緒に仕事ができたらいいですね。

 

3.

——ブログでは、曲を作る環境(PCやソフトウェア)の整備が面倒だと(笑)。

STY:いやぁ、面倒くさいですねー(笑)。

——トラックメイカー/クリエイターさんって、そういうのをいじるのは大好きなイメージがありますけど。

STY:そういう性格の人が羨ましいです(笑)。僕はどちらかというと、頭の中で曲を作って、とにかく一刻も早くカタチにしたいタイプなんです。画家さんが、映像やイメージは既にアタマに浮かんでいるのに描く手が追いつかないみたいな。

もういっそのことアタマにスピーカーが付いたらいいなって思いますもん、出来た曲がすぐ音になるように(笑)。制作ってアウトプットにおいて色々なプロセスがあるから、自分のアイデアや考えているスピードに作業が全然追いつかないんですね。

——機材のこだわりとかありますか?

STY:うーん、とにかくすぐ電源が入って、すぐ音がでることかな(笑)。なんでも早く作業ができるヤツが好きですね。音さえ出ればいいという感じで。

——作家やプロデューサーでの活動というのは、自らアーティストとして活動しているASYにも反映されていますか?

STY:ASYに関していうと、ちょっと僕的にはコスプレ感があるというか(笑)。というのも、いざ自分がアーティストとなるとどうすればいいのか分からなくて。だから演じてる部分はありますね。

https://www.youtube.com/watch?v=ElDyeBHeNgw

——そのまま前に出るというよりは、一旦戦略を立てるタイプ?

STY:完全にそうですね(笑)。

——ASYはDrum’n’Bassのユニットですよね、R&Bと比べていかがですか?BPMが倍か半分かというところはあると思うのですが。

STY:R&Bはすごく好きなんですけど、こだわっているわけではないんです。とにかくヴォーカルが上手い人が好きで、その延長線上にR&Bがあるという感じなので。

ビートに関しては、踊れればジャンルは何でもいいですね。ある周期で自分の中で「これは来たな」というビートの革命って起きているんですけど、90年代にニュージャックスウィングとかがあって、次にTimbaland(ティンバランド)やNeptunesみたいなビートが出てきて。その後、ビルボードのTOP40とかでも4つ打ちばっかりで、あまり新しいのが出てこないなと思っていたんですけど、2年ぐらい前にDrum’n’Bassと出会った時に、久しぶりに自分にとって新しいビートに触れた事がすごく新鮮で、それでやってみようかなと。

——その「上手いヴォーカル」に関しては、どういう風に考えられていますか?

STY:前にブログにも書いたんですけど、ヴォーカリゼーションについては日本と海外ではまだ乖離があると思いますね。

ありきたりな表現ですけど、音楽に国境はなくて、本当に良いものは世界中の沢山の人に聴いてもらえます。ヴォーカリゼーションのレベルの高さというのは、グローバルな規模でより多くの人に曲を聴いて貰うためのはじめの一歩だと思うんです。もちろん日本にも上手な方はいらっしゃいますけど、世界レベルで考えるとまだちょっと違和感があるかなと。

——最近、注目している日本のヴォーカリストやシンガーはいますか?

STY:残念ながら先日解散してしまったBRIGHTや、あと手前味噌ですけど(笑)FAKYのメンバーはとても上手だなと思いますね。

——ASYにおいてシンガーとしての自分はいかがですか?

STY:歌うことはすごく好きなんですけど、アーティストとしてステージで歌うことと歌が好きということはまた別の話なんですよね。でもレコーディングの現場では、僕が直接歌ってアーティストさんに説明したりしますよ。

——ガイドヴォーカルということですか?

STY:ガイドというか、僕の場合はもう自分の曲・歌として一回完成させてしまうので、それを歌って貰うみたいな感じですね。

 

4.

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——今の日本のシーンはどう思われますか?

STY:多様性があまり無い気がするんです。一つ光っているモノがあったら、みんなで一斉にそれを追いかけるというか。みんな同じような歌い方だし、なんか毎日カレーばっかり食べさせられてるみたいな気分になるんですよね(苦笑)。

——今日の世界的なムーブメントだとEDMですけど、日本ではまだそんなにハマってないですよね。それはどうしてだと思われますか?オリコンTOP10に入る曲でバックトラックはEDMっぽかったりしますけど、日本の大多数のリスナーはそうだとあまり意識していないですよね。

STY:やっぱり踊る文化が無いからかもしれないですね。90年代、00年代もR&Bやヒップホップが流行っていましたけど、日本に伝わるときにグルーヴが全部取り除かれて、「泣きウタ」とか「セツない」とかそういう部分ばかりが強調されていましたよね。イコール「踊る」ということも抜け落ちることになりますから、同じことが今のEDMにも言えるのかなと思いますね。

あと海外って僕らの親やおじいちゃん、おばあちゃんの世代もガンガン踊るじゃないですか(笑)。そうやって踊ることが日常的だったら日本ももう少し状況が違うと思います。

——世界と日本でいうと、パッケージ市場が収縮し、海外ではSpotifyやRdio等の音楽ストリーミング・サービスが花盛りですが、そういう動きをどのようにご覧になられていますか?

STY:SpotifyやMusic Unlimitedも実際使ってみると、やはりすごく便利なんですよね。YouTubeもそうですけど、昔はこんなに沢山の音楽にアクセスすることはできなかったわけで、音楽の間口を広げるという意味ではいいと思いますよ。

——昨今は、制作したものがデータとして無限に複製されてしまうことがありますが、作る側としてその辺はどう考えていらっしゃいますか?

STY:僕はどっちかというと、守るよりもたくさんの人に「どうぞ聴いてください」という方ですね。作ったらすぐにでも聴いて貰いたいですし。でも会社に「SoundCloudにポンとアップしないで」って言われたりもしてて(笑)。そこに関してはクリエイターとしての初期衝動と会社のビジネス感があわさって、バランスがとれているかなと。

——「守る」か「開放する」かのバランスというのは、業界的にもみなさん悩まれているところですよね。

STY:今って、音楽が人の生活に寄り添う価値観が無くなっているだけで、音楽そのものの価値は変わっていないと思うんです。もし、音楽業界が音楽と人との関わり方の新しい価値観を提供出来たとしたら、もっと楽しい世の中になるかなと。

 

5.

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——あとブログを拝見してて意外だったのが、STYさんは自分の事を「非リア充」だとおっしゃっていますよね。まだ若くてヒット作も手がけていて、ASYをはじめ色々な活動もされていますし、全然そういう風にはみえないんですけど(笑)。

STY:リア充だったら曲作ってないですから(笑)。確かにTwitterやfacebookには楽しそうな様子をアップしたりしてますけど、基本は完全に非リア充ですね(苦笑)。普段が充実していたら、曲を作る意味がないというか、いつも楽しいなら曲とか作らないでそのまま生活していればいいじゃんと。

——曲を作るモチベーションというのは?

STY:曲作りが日記みたいな感じなんです。もうひとつはストレス発散ですね。日常の中でオモテに出せない喜怒哀楽を曲にしています。このインタビューではこうやって一所懸命喋ってますけど、元々「僕はこういう人間です」って上手く言えない方なので(笑)。

——だから私小説っぽくなると。

STY:そうなんですよね。生活の中で、一番感情を向けやすい対象が曲なんですよね。

——お話を伺っていると、STYさんはすごく色々なことに敏感な気がしますね。

STY:単純にカッコイイものももちろん好きなんですけど、その反面、下世話というかカッコ悪いものもすごく好きなんですよね。その二つの最大値を把握できたとしたら、自分の中で相対的に色んなものの位置関係が分かって楽しいですよ(笑)。

音楽をどう捉えるかにもよりますが、カッコ良いものもカッコ悪いものも、コアな事もポップな事も、やってみて分かる事がたくさんあります。これはカッコいいからアリ、カッコ悪いからナシ、みたいなヘンな自分ルールに縛られてしまうと、見える景色が狭くなってしまうなって思っちゃいますね。中心にブレない芯があれば、どこにいたって自分は自分でいられますよね。

——今後、シーンの中でどういうポジションを目指されますか?

STY:やはり音楽と人の関わり方が昔と変わってきているので、「こうしたら音楽をもっと楽しめるよ」というのを提案できるような存在になりたいですね。

もちろん、作詞・作曲・プロデューサーもやっていくんですけど、音楽って様々なカルチャーとリンクしているべきものですよね。それが今は少しバラバラになっている感があるので、そこをもう一度結びつけて、音楽はこんなに楽しいんだというのを提案していきたいですね。

——最後に、作家やプロデューサーを目指そうという方にメッセージをいただけますか?

STY:特に今からの時代は、自分のやりたい事や自分の個性を発揮してやり続けた人が最終的に勝つだろうと思います。僕よりもっと若いプロデューサーさんが、自らすごい勢いでSounCloudに楽曲をアップしたり、facebookで「いいね!」を一万つけてもらったりとかどんどん動いています。どれだけ発信できるか、とにかくそうやって自分で動く人が勝てる時代なんじゃないかな。光り過ぎてて、見つける側がもう声をかけざるを得ないぐらいでいいと思いますね。どうやっても自然とみんなの目に入っちゃうみたいな(笑)。

 

STY「音楽はこんなに楽しいんだというのを改めて提案していきたい」

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HIRO「手がけた曲が長く聴き続けてもらえるのは本当に嬉しい」

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——HIROさんは海外での生活が長かったんですよね。

HIRO:中学校3年から大学卒業まで海外に8年くらい留学していたので、今までの人生の3分の1は海外ですね。最初はイギリスに2、3年いて、その後はオーストラリアで過ごしました。

——音楽は小さい頃から触れていましたか?

HIRO:小さい頃はそんなに音楽に詳しくなかったんですけど、海外に行く前ぐらいの時期には音楽を作り始めていましたね。

当時beatmaniaっていう音ゲーが流行ってて、友達とすごくハマったんです。パソコンで曲を作れるパソコン版のビートマニアも出てて、それで曲を作って遊んでいたのが曲作りのきっかけですね。

——beatmaniaは、選曲がクラブミュージックですよね。

HIRO:クラブミュージック自体、beatmaniaで遊ぶまでは全然知らなかったんですけど、それをきっかけにハウスミュージックや2ステップとかを好きになりました。

その後留学先で、ラジオから普通にクレイグ・デイヴィッドやアートフル・ドジャーとか2ステップの音楽が流れてて「すげえ!」って衝撃を受けて、時間があればレコード屋に行っていましたね。

——その頃イギリスでも曲作りはされていたんですか?

HIRO:やはり曲を作りたい衝動に駆られまして、当時Acidが出たころだったんですけどループ素材だけで曲を作っていましたね。後にMIDIに移行したんですけど。

——作った曲を公開したりしていましたか?

HIRO:その時にmuzieっていうサイトがありまして。

——STYさんもmuzieで公開していたらしいですよ(笑)。

HIRO:あ、そうなんですか(笑)。僕もmuzieに曲をアップしてたんですよ。そこには色々なジャンルがあるんですけど、その頃スムーズジャズとかが好きだったんで、そのジャンルの曲を作ったらランキングでTOPになったりして。色々なコメントを貰ったり、そういうのが楽しくてずっと曲を作ってましたね。

厳しい意見に対しては「次はいいの作ってやる!」って思ったり、他の人のを聴いて「なんだ全然オレの方がいけてんじゃん!」みたいな(笑)。

——現地でもストリートを体感していた?クラブとか?

HIRO:クラブに行くようになったのは、オーストラリアにいた頃ですね。海外ってけっこうやる事がなくて、日本より遊びにいくトコロが少ないんです。だから、クラブしかなくてとりあえず毎週末行ってました。

 

2.

——HIROさんはダンサーでもありますよね。

HIRO:はい、ダンスも好きでやっています。

——そちらのきっかけは?

HIRO:ジャネットジャクソンとか基本的に歌って踊れるアーティストが大好きで、そのうちダンスレッスンに行きたいって想いがでてきて、オーストラリアの高校の頃、ダンスに興味がある友達に声をかけて一緒にダンスクラスに通い始めたんです。そうしたら、いつのまにかのめり込んで、チームを組んで大会に出るようになったりして。

——ダンサーであることが楽曲制作に反映されている部分はありますか?

HIRO:たくさんありますね。まずリズム感がつくので自分の仮歌でのリズムの乗せ方とか、ダンスが上達すればするほどタテのタイム感がすごく揃うようになってきたり。実は今でも作曲するときは、家の鏡の前で踊りながら作るんですよ、誰も見てないのに(笑)。

——(笑)なるほど、だからリズム感のある楽曲になるんですね。

HIRO:フリフリ踊りながら、身体とシンクロさせながら作る事が多いですね。

——それは聴く人も自然と身体が動きますよね、元々がそういうことですから。

HIRO:それは狙ってる部分だったりしますね。聴いてて身体が自然と動くとか、そういう「気持ちいい」が一番のベースにあるのかもしれない。例えば、リバーブもリズムにあわせてきっちり切れていないとすぐ気付きますし、そういうかなり細かい所まで意識しています。

——ディグズに所属するきっかけというのは?

HIRO:そもそものきっかけはmixiなんです(笑)。その前は、muzie経由で声をかけられた別の事務所に所属してて、3年間ぐらいそこでやっていたんです。でも、一曲も採用がないままストックだけ溜り続けるみたいな状況で、「何がいけないんだろう」って考えていた時期にmixiでSTYを見つけたんですね。それでSTYの曲を聴いたらすごい衝撃を受けて、彼の実績を見ると倖田來未さんやEXILEさんに楽曲を提供をしていて「悔しい、オレもこうなりたい!」って思って。その時は僕も同じくらいの実力はあると思っていたので(笑)、じゃあ同じ事務所に入っちゃえばいいじゃんということで、ディグズにデモを送ったらすぐに反応があってそのまま契約になったという。

実はその後、入って一ヶ月も経たない内に曲が決まったんですよ。それが倖田來未さんで。

——急展開ですね。初めて曲が決まったアーティストが倖田來未さんとは。

HIRO:「甘い罠」という楽曲で、2008年のアルバム「Kingdom」に収録されています。

——クリエイター、プロデューサーとしては早い段階でのキャリアスタートですよね?

HIRO:確かに早いのかもしれないですね。仕事をしていてもあまり同じくらいの年代の人に会う事が少なくて、ちょっと寂しいというか(笑)。

——自分の名刺代わりの作品をあげるとすれば?

HIRO:倖田來未さんのシングル「TABOO」ですね。「HIROって誰?」っていうときに、この曲を手がけたと言えばだいたいみなさん分かっていただけますね。リリースされてもう5年くらい経ちますけど、未だに多くの方に聴いていただいていますし。頑張って作った曲でも埋もれてしまうことも少なくない中、自分の曲がずっと長く聴き続けて貰えているというのは、本当に嬉しいですね。

——最近手がけたのだとMYNAMEとかですか?

HIRO:そうですね。K-POPのプロデュースは結構多いですね。あと山下智久さんもすごい楽しいレコーディングでしたし、少女時代さんの時とかは、沢山人数がいるので次々ヴォーカルブースに入れ替わりで、なんかテストの面接官をしている気分になったりちょっと新鮮でしたね(笑)。

 

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——HIROさんは自分のクリエイター、プロデューサーとしての特徴や強みはどこだと思われていますか?

HIRO:やっぱりダンスやっているというところはありますね。あとは、仮歌をやっているうちに歌がだんだん上手くなってきちゃったんですよね(笑)。歌が歌えればボーカルディレクションをする時にお手本をみせることができますし、やはり同じ気持ちで説明が出来るのでそこは良いところだと思います。歌のエディットにおいても、歌を分かっていれば「こういう風に編集したら歌がうまく聴こえる」というのが分かりますからね。

——昔は聖歌隊に入っていたらしいですね。

HIRO:その時の経験も活きているかも知れないですね。声の出し方やテクニックで、今のボーカルディレクションに繋がっていると思います。

——Twitterでも最近は歌のエディットがすごく楽しいとおっしゃっていましたね。

HIRO:先日同じ作曲家である友達のU-Key zoneさんとも話したんですけど、最近は曲よりも歌が重要だなというのをとても感じています。デモを作る段階で曲があまり上手く出来ていなくても、自分の歌をいい感じで乗せることができていれば、作った後に何回も聴きたくなるんですね。つまり、最終的に曲よりも歌のプロダクションの完成度が高ければ、ずっと長く聴いてもらえる曲になるのかなと。

——キャリアスタートの時と現在を比べると自身のプロデュースワークに変化はありましたか?

HIRO:以前は目の前にあるものを、どうにかしてこなさなければならないって感じでとにかく必死だったんですけど、今は全体が見えて余裕ができてきたというか、レコーディング中も次のレベルの目線でみれる感じがします。

——視野が広がった?

HIRO:キレイにみせることや高い完成度にすることで精一杯だった段階からひとつ上のレベルで、それらをきちんとやりつつ、良い意味で勝手な自己満足の遊び心を作品の中につぎ込むことができるようになった気がします。作ってる側の楽しさも伝わるのか、最近はリスナーさんがすんなり作品の楽しさに入ってきてくれているなという感じがありますね。

——そういう部分で上手くやっている先輩プロデューサーとかいますか?

HIRO:STYですね(笑)。僕、基本はSTYの背中をみてやっているんで、やり方が分からなくなったりJ-POPと自分のやりたい事のバランスとかで悩んだりしたら、とりあえずSTYをお手本としていますね。僕の先を行ってる先輩としてSTYを参考にさせてもらっていることはすごい多いです。

——目指すプロデューサー像というのは?

HIRO:具体的に誰っていうのは分からないですけど、けっこう出たがりな性格なので(笑)プロデューサーという枠でもっと前に出たい気持ちもあります。自分のプロデュースするアーティストも抱えつつ、同時に自分のプロジェクトとか色んなことをやっていきたいですね

——今後手がけてみたいアーティストはいらっしゃいますか?

HIRO:きゃりーぱみゅぱみゅさんとかはいいですね。ああいう、すごく楽しそうな感覚的なものをやりたいなって思います。

——中田ヤスタカさんとかはどういう風に見られていますか?

HIRO:彼は理想であるかもしれないです。やりたいことをやれている感じがすごいと思います。

 

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——曲や詞ををつくる時のきっかけはどんな感じですか?

HIRO:僕、普段あんまり考えないで生きてるんで(笑)、その時々の心境をぶつける感じというか。でも考えてない分、考えなければならないことが心に溜まりがちなんですよね。なので、特に作詞の時なんかは考えなければならなかったことを引っ張り出してきて、歌詞を書きながら瞑想に入るんです。歌詞を書く事によって自分の考えや思いに改めて気付いたりするので、歌詞を書くことは癒しというか心が落ち着くメディテーションになっていますね。

——影響を受けるものというのは、音楽だけに限らなかったりしますか?

HIRO:例えば海外で強烈な景色に出会った時なんかはぐっときますし、後は、町中のお店で流れているBGM同士が混ざってるのを耳にして「いいな!」って思ったり、そういうちょっとした事がきっかけになったりもします。

——本当に直感的に生活されている感じがしますね。

HIRO:作詞でも、普段の自分では考えつかないような事がいきなりポーンと降りてきて「あっ来た!」って急いで家に帰って書くケースもありますね。「なんでこんなの思いついたんだろう?」っていう(笑)。僕の場合は決まった作り方やきっかけは無くて、本当にその時その時で様々かもしれないです。

——クリエイトするモチベーションってのはどこからきますか?

HIRO:納期自体が一つのモチベーションにもなっていますね(笑)。逆に納期がないと、そういう意欲が湧かなかったりするかもしれないですね。

——宿題ためちゃうタイプ?(笑)

HIRO:まさにそうですね、夏休みの宿題を最後まで取っておいた方なので(笑)。

——でも妥協するのではなくて、納得いくものを作ると。

HIRO:最後まで、納得がいくまでは妥協したくないです。こだわりますし。最近手がけた曲も、二〜三日は徹夜で歌の編集をしました。こだわりはじめたら食事も睡眠も忘れて、トランス状態になってやっちゃいますね。

 

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——最近は特に海外とかそうですけど、Co-Write、共作が多いですよね。

HIRO:共作に関しては、やはり作家さんとの相性だと思うんです。僕の場合は、セッション中に相手の得意なところをまず最初に見出すのが重要だと思っていて、そこから相手が得意なところはお任せして、後は自分の得意な所を手がけるようにしています。それでお互いにOKになればいいんですけど、ならない場合も当然あるので(笑)、そこが難しいところかな。

——期待の新人のFAKYも共作というカタチですよね。

HIRO:メンバーの選抜から始まって、各ボーカリストについても、「この歌声でいこう」、「こういう歌い方にしよう」、「各メンバーのキャラクターをベースにしたこういう世界観にしよう」とか、全部元々の基準が無くて、一から自分で決めていくというのが新鮮でした。新しいプロダクトを作る開発者の様な気分でしたね。

——今の日本にない新しい雰囲気を感じさせるアーティストですよね。

HIRO:J-POPやK-POPとはまた違う新しいものにしたいと悩みながら、自分でビジョンを作っていって当てはめた作品になりましたね、メンバーみんながすごい歌唱力ですし。

——EDMとか時代性を意識したというのは?

HIRO:この間も韓国での「Ultra Music Festival Korea」に行ってインプットを作ってきたので、意識したといえばそうなんですけど、それよりは自然に出てきたという感じですかね。

——色んな流行がありますけど、プロデューサーや作家という制作現場の立場から今のシーンはどう思われますか?

HIRO:その辺はあまり意識していないですね。「なるようになるかな」くらいの感じに思っていて(笑)。一般的にはCDも売れなくて「まずい」という意識があると思うんですけど、個人的には普通にやりたいことをやっているだけなので。

——ビジネスマンとしての自分はあまり想像できない感じですか?

HIRO:全くできないですね、なのでディグズにいるという(笑)。

——補い合ってやっていると。

HIRO:そうですね、すごく良いバランスになっていると思います。

——最後に作家やプロデューサーになりたい人へメッセージをいただけますか?

HIRO:自分も3年間楽曲が通らなかった時期があったりしたので、とりあえず期間を決めてそれまで頑張ってみたらいいと思います。あとは、ある程度客観的になることでしょうか。本当に実現しないことって頭の中にヴィジョンが浮かばないじゃないですか。頭に浮かばないようなことはしないようにして、「このままやっていったらできそうな気がする」という想像のつくことをする。想像できることに、期間を決めて向かっていくことが重要なのかなと思います。

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