テイラー・スウィフトの発言に見る、音楽業界の未来の形

コラム ソラノネ進化論(コーニッシュ)

 何者も恐れずに、と言うことは本質的にはあり得ないのかもしれないが、折りを見ては自分の考えを率直にそして堂々たる口調で、変わらず発信を続ける姿は賞賛されるべきものであり、彼女のアーティストたる所以でもある。デビュー年が同じ身としては勝手に親近感なるものを作り上げ、目が離せない存在として注目して来たテイラーの発言、動向に見る音楽業界の未来の形について考えてみたい。

 昨年(2019年)、自身のこれまでのヒット曲を新たにレコーディングしたり演奏することができないとして、世間(ファン)に訴えていた姿を記憶している方も多いだろう。事務所とテイラーの間で結ばれた契約やその過程を知らない私たちは傍観することしかできないが、ひとつ分かることは、テイラーもファンに助けを求めなければ解決できないような状況下にあったと言うことであり、それは今もなお続いているようだ。

 テイラーが標的にした相手は2人、過去所属していた事務所の社長スコット・ボーチェッタと今を時めく音楽プロデューサー、スクーター・ブラウン。注目すべきは後者の人物で、彼はイサカ・ホールディングスの筆頭株主である。今やエンターテインメント業界の巨大なインフラを実現させつつある。この様なコングロマリット型M&Aの潮流は以前から各所で散見されており、IT系企業を筆頭に繰り返されていることなど鑑みれば、遅ればせながらその波が音楽業界にも来たと言える。

 この流れに飲まれまいと一石を投じたテイラーの発言は、音楽に従事する者たちへの警鐘と言えるが、それだけに留まらず、全てのクリエイティブに関わる人が向き合わなければならない問題を秘めているとも認識する必要がある。

 

顕在化する因襲に潜む影の実態が及ぼす影響とは

 自省も含めた物言いになるが、厳しい言い方をすれば、テイラーの一件は、多分にアーティスト側に原因のある可能性を孕んだ問題であるとも言えるのかもしれない。

 同様の構図による問題は業界に於いては珍しくなく、日本でも近年の芸能界における騒動を踏まえれば、今となってはあらゆる観点からスタンダードな話題と言える。表向きの外観として知らない人は居ないけれど、もはや肥大化した利権ゆえにアンタッチャブル化している向きもあり、この問題は掘り下げて行けば行くほど、文字通り、根深い。

 ここで感知しなければならないことは、社会性の無さがアーティストの孤高を標榜する時代は既に終焉を迎えたと言うことだ。加えて、情報が氾濫した社会に於いて、この大海原を生き抜くために必要なのは「知性」であり「品性」であることも改めて学ばねばならない。

 テイラーは折に触れてアーティストは自身の楽曲の権利を自分で持つべきだと訴えて来たが、まずはこの事実を理解する必要がある。彼女でさえ過去曲のパフォーマンスが禁止されてしまうと言う信じ難い問題が起こり得るのだ。テイラーだから起こったと見る向きもあるが、実態はもっと深刻で有り、類推される状況下におかれた問題は後を絶たない。

 これを仕方のないこととして伏してしまうのだとすればそれは管理者側の傲慢であり、このような積み重ねこそが芸術や文化発展への素地形成を奪っていることを深く認識するべきである。利益第一主義として見て見ぬ振りをする行為は浅ましい限りである。図らずもコロナと言う制御不能なウイルスが、既に綻びが起こっていたあらゆる物事の転換について拍車を掛けてしまった。世界は急激なスピードで変貌しており、誰もが新しい方向性を模索しなければならない。

 

矜持たる理念や理想を守るために必要な思考とは

 端的に言えば、アーティストは音楽ビジネスについてもっと学ぶべきなのだ。それは流行りのサブスクリプションサービスについて勉強しようと言うことではない。自分は何を表現したくて、その為にどんな権利を持っていて何ができるのかについて向き合うべきである。他人任せではいけない。

 何故ならアーティストは「愛」や「希望」を創ると同時に「利権」を生み出すからだ。本来、それらは様々な形で社会に還元されるべきものであり、共に作品や作品の意思を広めて行くスタッフやアーティスト自身の活動を支えるものであるはずだが、活動期間が長くなればなるほど、得てして方向性の不一致ということは起こり得る。

 その時にアーティストは自らの身を守れるかどうかだが、ものづくりに於いて新しいアイデアを創出する為に最も必要な状態とは、創作以外の事柄を頭から追い出して放心することであるが、それと同時に、ビジネスの枢要である生き馬の目を抜くような鋭敏さを共存させることは、極めて難しい。その実情を理解できるからこそ、荒野に放り出された同胞が、社会性が伴っていないのひと言で、一笑に付されてお終いと言う事態に陥ってしまうのは、慚愧に堪えない。

 しかしその実態に反して、本当に一部であるのだが、自らの地位や名声の為だけにアーティストを利用しようとする者も後を絶たず、こう言う輩に対しては、いくらこちらが公明正大に務めていても通用しない。最も恐ろしいのは、既に善悪の区別すらつかなくなっていて、手段を問わず詐欺まがいの行為を平然とやってのけていると言うことだ。

 そこで「知性」と共に必要になるのが「品性」であり、これは両者に求められる。アーティストは創作のことだけを考えていれば良いと言うのは理想だが、現実の努力なしには有り得ないと理解した上で、理想を追求する必要がある。何故なら、道を示す者たちに悪意があった場合、本意ではない場所へと連れて行かれてしまう恐れがあるからだ。もちろんそんなことを考えずに創作に没頭し続けられる幸運の持ち主もいるが、世の中はそんなに甘くない。

 思考停止とは、最も恐ろしい事態だと考えるべきである。自身の利益の為に、敢えて「君は何も考えなくて良い。僕に任せて於けば良い」と促す者もいるが、本当に額面通りの台詞なのかどうかは、賢く見極めなければならない。

 

日本の音楽業界の新たな地平を開く者達が向かうべき未来とは

 日本人は日本と言う国の在り方によって、国家においても各個人においても、独自の世界観を持つことを生得的に許された民族である。「自己完結型の排他性」と言うこともできるが、同時にそれは自力で打ち破ることなど不可能に近いほど高く聳え立った「既得権益」の壁が存在することをも意味している。昨今の非常事態に於ける政府の冗長な物言いを見れば、明らかである。

 現代社会の流れにおいて求められているのは情報の共有とオープンマインドだが、我々日本人も変容しつつあるとは言えども、ある種の矛盾が受容できず、エラーを引き起こす可能性も一概に否定はできないし、世界の潮流とどう向き合って行くかは、継続的に、客観的に注視して行くべき問題なのかもしれない。

 さて、振り返ってみれば、音楽業界の歴史とは技術の革新と共にそのマネーゲームの覇者が入れ替わって来た歴史でもある。その都度、このパワーゲームを先導する者が現れて来たが、それは今後も尽きることはない。それは決してネガティブな事柄ではない。矛盾するように聞こえるかもしれないが、音楽業界全体が成長して行く為には、彼らの存在は不可欠である。それが良い意味での代謝を促すことにもなることは間違いない。

 ただし、それ以上に当事者であるアーティストとマネジメントはこの件についてもよく考えなくてはならないはずだ。互いの立場を理解し、成長する中で双方手に入れた立場に胡座をかくことなく、節度を持って接することが肝要である。その関係性をいかに深く掘り下げることができ、パートナーとの信頼を真に築けた者こそが、次代の覇者となるだろう。

 

 

コーニッシュ / Conisch(作曲家・ピアニスト)
 1981年4月19日生まれ。早稲田実業高等学校普通科卒業、桐朋音楽大学作曲科中退。その後、作曲(和声・対位法・オーケストレーションなど)を夏田昌和、菱沼尚子、故・山口博史、各氏に師事。JASRAC信託会員、日本作編曲家協会(JCAA)会員、宙の音(ソラノネ)株式会社・代表取締役社長。

 アニメ「ひとひら」で作曲家デビュー後、登場人物の心情に寄り添う豊かな音楽表現や、抒情的でありながらアグレッシブ且つ他に類を見ないキャッチーなメロディーは評判となり、数多くの人気番組を担当し続けている。独自の感性と卓越した技術で昇華させる新奇性に富んだアーティスト性を持つ。TBS『ひるおび!』に書き下ろしたメインテーマ曲『play Heath Wind』は10年経っても色褪せることなく日本のお茶の間に広く浸透した隠れた名曲となっている。

 2020年1月より担当している世界的大人気ゲーム「ポケットモンスター ソード・シールド」のアニメ『薄明の翼』(山下清悟監督, スタジオコロリド制作)の音楽は好評を博している。同月リリースのアルバム『音観 Episode1』は“アートと音楽“のプロジェクト第1弾として世界的に著名な彫刻家・武藤順九氏とコラボレーションしている。氏の彫刻作品に加え、2019年に開園した『武藤順九彫刻園(東京都昭島市)』をイメージして書き下ろした楽曲を収録。又、参加型の合唱イベント『ウ道!(UTAO)』や、幼児教育音楽プロジェクト『宙の音メソッド』の立ち上げなど、その活動は多岐に渡っており、独自の道を開拓し続けている。

Since making his debut as a composer with the anime “Hitohira”, Conisch has headed many popular programs, building a reputation for his gifted that closely match the emotions of the characters, as well as his lyrical yet aggressive and uniquely catchy melodies. He has a rich, novel artistry that sublimates his own sensitivities with superior techniques. The main theme song “play Heath Wind” for the TBS program “HIRUOBI” is a hidden masterpiece that has continued to unfadingly permeate through Japanese culture even 10 years after it was first released.

凭借动画片《初瓣》作为作曲家出道后,其贴近角色心理、变化丰富的音乐表现手法和独一无二、抒情却不失磅礴的流行旋律得到认可,持续为许多人气节目进行创作。其特有的感性和精湛的技艺令他的艺术特质得到升华,极富新奇性。为TBS电视台的《HIRUOB》栏目创作的主题曲《play Heath Wind》在历经十年后仍长盛不衰,成为一首日本路人皆知的经典曲目。

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