SUGIZO、KenKenを擁するサイケデリック・ジャムバンドSHAGがブルーノート東京へ凱旋、キングギドラとのコラボで時代を表現

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Photo by Keiko Tanabe

SUGIZO、KenKenを擁するサイケデリック・ジャムバンドSHAGが、1年半の期間を経て“ジャズの聖地”ブルーノート東京に帰還した。2022年7月にリリースし、今年になって「JAZZ JAPAN アワード 2022 アルバム・オブ・ザ・イヤー:ニュー・ジャズ部門」を受賞した1stアルバム「THE PROTEST JAM」を携えての凱旋である。アルバム収録楽曲のほとんどは、ブルーノート東京での過去2年間のライヴ音源を元にして、後から編集を重ねて作品化されたものだ。

SHAGは昨年8月から、バンド・コンセプトでもある「ジャンルを横断した即興音楽」シーンを啓蒙する主催イベント“What Is Jam?”を企画。アルバム・リリースからブルーノート東京公演までの9ヶ月のうちに、その開催は6回を数えるまでに至った。即興演奏でステージを共にしてきたのは、ベテランから若手までのジャズ・ミュージシャンたち、モジュラー・シンセサイザー奏者、アフリカ民族音楽グループなどで、毎回異なる成果を獲得してきた。また、完全即興演奏によるSHAGの生配信ライヴもおこなった。

そのような濃厚な9ヶ月の行き着く先に見据えられていたブルーノート東京公演には、昨年再始動を果たしたヒップホップ界のパイオニア、キングギドラのゲスト出演が公演1週間前に決定し、話題となった。昨年キングギドラは、現代社会に痛烈なメッセージを投げかけた20年ぶりの新曲「Raising Hell」で復活を宣言。同曲にメンバーと交流の深いSUGIZOが参加している。ジャンルを横断しながらシーンを扇動する姿勢、社会問題へ忌憚なくコミットするアーティストとしての生き様など、SUGIZOはキングギドラと自身は「実はとても近いところにいると感じている」と話している。予測通り、SHAGのアティテュードと音楽性は、キングギドラのそれと非常に親和性が高かった。

2日間のセットリストは、アルバムからの楽曲は三分の一。オープニングを飾ったのはアルバム未収録でこの9ヶ月毎回セットリストに入っているKenKenの手によるファンク・チューン「KAMOGAWA」。SUGIZOのファンキーなカッティングによるテーマが印象的だ。SHAGの音楽性はSUGIZOのギターの魅力のこれまであまり表面化していない部分を引き出している。松浦千昇(dr)とよしうらけんじ(per)の分厚いリズムに支えられ、エモーションとグルーヴを十分に見せつけた後は、この公演のために特別に作られたSUGIZOの命名によるオリジナル・カクテル「May the Force be with You」で乾杯。ウォッカをベースに、ウクライナ国旗をイメージした綺麗な黄色と青のカクテルは、SUGIZOが今回のライヴに招待した在日ウクライナ難民の人たちのストレスを癒したに違いない。

この流れを受けて2曲目は「Rebellmusik」。背後のスクリーンにはウクライナやイラクなどの現地取材による戦地の風景を織り込んだ映像が映し出され、長引く紛争に慣れ切ってしまいがちな人々の心に改めて戦争の悲惨さと平和への訴えを思い出させた。クライマックスの類家心平(tp)のエモーショナルなソロが感動を呼ぶ。続いて、別所和洋(key)作曲による新曲でやはりこの9ヶ月のメインレパートリーになっているソウル/R&Bを感じさせる「MEGUROGAWA」、SUGIZOの美しいヴァイオリンとKenKenの超絶ソロが聴けるドラマティックなクロスオーバー・チューン「FATIMA」と、ゆったりした曲調が続く。コンスタントにライヴを続けてアンサンブルがタイトになっていることに加えて、ブルーノート東京の上質なサウンドが後押しして、演奏・音質ともに現在のSHAGのベスト・プレゼンテーションと言える内容だ。

身も心もリラックスしたところで、今回のスペシャル・ゲスト、キングギドラの登場。「SHAGとキングギドラがブルーノートで同じステージに立っているということ自体が“平和”そのものだと思わない?」というSUGIZOの言葉に拍手が起こる。昨年リリースされたキングギドラの復活シングル「Raising Hell」ではSUGIZOの吠えるギターをフィーチャーし、生演奏をバックにK Dub ShineとZeebraが混沌とした世界に辛辣なリリックでメッセージを放つ。DJ Oasisがスクラッチで空間を埋め、ドラムは松浦の生演奏に置き換えられていた。続いてはキングギドラの代表曲のひとつで2002年にリリースされている「UNSTOPPABLE」。場内ヒップホップ一色に変化した空気を切り裂くように類家がソロを取る。ジャズ・トランペットとヒップホップのコントラストが見事にハマッた瞬間だ。エンディングでは別所の才覚光るピアノが花を添えた。

そしてコラボの3曲目は即興ジャムセッション。初日1stセットはモチーフにウェイン・ショーター作曲の「Beauty and the Beast」。2日目の1stセットは全くフリーのセッション。両日ともに2ndセットは惜しくも先月にその天命を全うした坂本龍一作曲「Behind the Mask」がモチーフに使われた。イントロのメロディをSUGIZOがギターで弾き始めると歓声が沸いた。Zeebraによってリフレインされる「ギドラとSHAG / フリースタイルジャム / 最高の演奏に / 最高のラップ」のフレーズが演者と観客の一体感をつくる。全員のソロ回しでは松浦、よしうらのリズム・ソロとバトルするようにDJ Oasisが強烈なスクラッチ・ソロを放った。ジャム終盤にK Dub Shineがコール&レスポンスで観客を煽ると興奮は最高潮に。

Zeebraがステージで言った「20年前に、誰がSUGIZOとキングギドラが同じステージに立っていると予想できた?」という言葉が今回のライヴを象徴していた。国、人種、ジャンルは障壁ではない。今こそ全てを超越してひとつになるべき。ジャズ、ロック、ファンク、ヒップホップ、テクノポップがひとつになることをK Dub Shineは「ユニティ」と表現した。サウンドとリリックで平和へのメッセージを放ち、体現しながら結束する2つのグループ。観客の心に熱い余韻を残す極上のライヴ・パフォーマンスであった。

Text by 松永誠一郎

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