弦楽四重奏団クロノス・クァルテットが19年ぶりジャパン・ツアー開催 記者発表会見をレポート

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クロノス・クァルテット(c)Jay Blakesberg

クロノス・クァルテット(c)Jay Blakesberg

1973年の結成以来、弦楽四重奏の最前線を行くクロノス・クァルテットが19年ぶりに日本にやって来る。京都、東京、さいたま、横浜、盛岡を巡る今秋のJAPANツアーを控えて、6月末にオンライン記者会見がひらかれた。

登壇したのはクロノス・クァルテットのヴァイオリン奏者であり芸術監督であるデイヴィッド・ハリントンとクロノス・クァルテットのエグゼクティヴ・マネージャーのジャネット・クーパートウエイト。今回の来日公演のプログラムやクロノス・クァルテットが50曲の新作委嘱に取り組む「フィフティー・フォー・ザ・フューチャー」(未来への50曲)について語った。

バラエティに富んだレパートリーを

はじめに、ハリントンが「クロノス・クァルテットは、日本での公演をとても楽しみにしています。日本の聴衆は、非常によく聴いてくださり、特別です。日本はコンサートホールも素晴らしい。2年前にコロナ禍で来日公演がキャンセルされましたが、今は、人々が生活を取り戻しつつあり、今回の来日は私たちにとってもとても意義深いです」とあいさつ。そして、今回のプログラムについて、「可能な限りバラエティに富んだレパートリーを披露したいと思った」とその意図を話した。

デイヴィッド・ハリントン:まずは、私たちの活動のきっかけとなった、私たちにとってとても大切な作品、ジョージ・クラムの「ブラック・エンジェルズ」。今年92歳で亡くなった20世紀アメリカ最大の作曲家、ジョージ・クラムの畢竟の大作で、クロノス・クァルテットの結成を後押ししたともいえる(グループにとって)重要な作品です。今回は、視覚的にも強く訴える新演出でお届けします。日本での新演出上演は初めてですし、ツアーの中でも、限られた公演での演奏(※京都公演と埼玉公演のみで演奏予定)となりますので、ぜひ足を運んでいただければと思います。

芸術監督:デイヴィッド・ハリントン

芸術監督:デイヴィッド・ハリントン

そして、テリー・ライリーの「《サン・リングス》~弦楽四重奏と合唱、録音された宇宙空間のサウンドのための」。NASAからの委嘱で、人間の素晴らしい可能性を感じさせる作品です。私たちが見上げる宇宙というよりも、私たちを見つめる宇宙がイメージできます。この大好きな作品を素晴らしい合唱団とともに日本で披露できることは私たちのハイライトの一つとなるでしょう。実際に会って合わせることのできなかった時期を経て(注:2020年の横浜公演で合唱団やえ山組と共演する予定であったが、来日中止になったため、オンラインで共演した)、今回、合唱団と一つの場所で共演できるのはスリリングですし、今からとても楽しみにしています。テリー・ライリーとは約3年会っていませんが、彼は今、日本に住んでいるので、聴きに来てくれて、素敵な再会ができるかもしれませんね。

スティーヴ・ライヒの作品(「ディファレント・トレインズ」や「トリプル・クァルテット」)は私たちのレパートリーの中心であり続けました。そのほか今回は、「フィフティー・フォー・ザ・フューチャー」(未来への50曲)の若い作曲家たちの作品もあります。日本に持っていく曲には、アメリカの過去、アメリカの文化史を取り上げたものがあり、それらが、どのように日本の聴衆に受け止められるか、興味深く思っています。たとえば、ジョン・コルトレーンの「アラバマ」は、1963年に4人の少女が亡くなった爆弾テロ事件を音楽作品にしたものです。今の世界状況を考えると、過去の出来事で済ませることはできないと思います。

これらの作品を日本で演奏するのは素晴らしいことであり、待ちきれません。

>(NEXT)「フィフティー・フォー・ザ・フューチャー」(未来への50曲)とは

 

“弦楽四重奏の百科事典”のように

つづくクーパースウエイトは「フィフティー・フォー・ザ・フューチャー」について説明した。

ジャネット・クーパースウエイト:「フィフティー・フォー・ザ・フューチャー」は、正式には「フィフティー・フォー・ザ・フューチャー:クロノス・ラーニング・レパートリー」といいます。若い音楽家たちがクロノス・クァルテットの考え方や弦楽四重奏の多様な可能性を学ぶためのプロジェクトです。

エグゼクティヴ・マネージャー:ジャネット・クーパートウエイト

エグゼクティヴ・マネージャー:ジャネット・クーパートウエイト

私たちが作曲家に委嘱し、その作品をコンサートで初演し、録音をウェブサイトにアップして、スコアも無料でダウンロードできるようにしています。これまでに2万5千回以上のダウンロードがありました。現在、43作品がウェブ上にあります。秋には50作品が揃うと思います。そして、今回の日本ツアーではそのうちの約10作品を披露します。

デイヴィッド・ハリントン:「フィフティー・フォー・ザ・フューチャー」は、50人の作曲家に50の機会を提供し、50の素晴らしい作品を生み出すプロジェクトです。50人の作曲家を選ぶのは大変な作業でした。私たちをよく知っている素晴らしい人たちと、それだけには限定しないで、クロノス・クァルテットの音楽の幅を広げてくれる新しい人、若い人にもお願いいたしました。

ジャネット・クーパースウエイト:テクニック的にもサウンド的にも多岐にわたるように、作品を集めたいと思ったのです。

デイヴィッド・ハリントン:弦楽四重奏の可能性は限りないのです。音楽学校で教えらえていること以外にも素晴らしいアプローチがたくさんあることを、この50の作品で知ってもらいたいと思っています。弦楽四重奏の百科事典のように。たとえば、望月京さんの音楽には一聴して魅了されました。そして彼女の楽譜を眺めるのも楽しかったですね。彼女とは素晴らしいリハーサルをすることができました。「ボイズ」と題する彼女の作品は、鳥や魚の群れの一体となった動きを表現しています。

芸術監督:デイヴィッド・ハリントン

芸術監督:デイヴィッド・ハリントン

>(NEXT)音楽界のトップ・ランナーとして世界に思うこと

 

音楽界のトップ・ランナーとして世界に思うこと

このあと、質疑応答があり、ハリントンが答えた。コンサートの選曲については、「私自身が聴衆としてどう聴くのかを考えて、聴衆の立場から選んでいます」とのこと。

また、ハリントンは、自分の人生での最も大きな出来事の一つに、2003年に初めての孫が生まれたときのことをあげた。

「2003年1月、私は祖父になり、最高に幸せでした。しかし、その直後にブッシュ大統領によるイラク侵攻があり、私は、孫娘の生きる未来を思うと、気持ちが非常に落ち込み、何か月も音楽をする気になれませんでした。それで、私は、信頼するアメリカの歴史家ハワード・ジンに電話しました。すると、彼はこう言ってくれました。『まず、一人で何もかも背負い込まないこと。あなたは自分の感じていることを人に知らせる機会を持っているのだから、それを活かしなさい。そして、ブッシュのような人物は、実際、あなたのような人を恐れているのですよ。音楽家は、暴力なしに、みんなで一緒に、平和的に、調和的に、建設的に問題を解決することが想像できるからです』。私はその言葉に助けられ、力を得ました」

現在の世界の状況には危機感を持っているが、トップ・ランナーとして走り続けるハリントンは、音楽界についてはポジティブにとらえている。

「今まで私たちが取り組んできたことでの若い世代のクァルテットへの影響については、ハッピーに思っています。音楽の世界は、より良い方向に進んでいると思います」

クロノス・クァルテット(c)Jay Blakesberg

クロノス・クァルテット(c)Jay Blakesberg

『クロノス・クァルテット JAPAN2022』は、9月24日(土)京都公演を皮切りに、東京・埼玉・神奈川・岩手を巡る。

取材・文=山田治生

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