SHE’S初の日比谷野音ワンマンが伝えてくれた、これまでの歩みと充実の現在

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SHE’S 撮影=Shingo Tamai

SHE’S 撮影=Shingo Tamai

SHE’S 10th Anniversary「Back In Blue」  2021.6.28  日比谷野外大音楽堂

SHE’Sが、初めて東西の野音で開催したワンマン『SHE’S 10th Anniversary「Back In Blue」』。先日、2度の延期に見舞われた大阪公演が無事終了した。というところで、そのおよそ1ヶ月前に行われた日比谷野音での東京公演を振り返っていきたい。

で、1ヶ月経っているだけに、どうしても「臨場感あふれるレポ」というよりは「どんなライブだったか」を回想していくテキストになると思うので、その点はご了承を。ちなみに、愛されバンドである彼らの節目だけに、この日の関係者席には僕以外にもこれまでSHE’Sを追ってきた&書いてきたライター陣がわりと勢ぞろいしていたため、そのうちの誰かしらが「臨場感あふれるレポ」の方を書いてるかもしれません。

この日比谷野音のワンマン、大きく2つの点から語られるものであったと思う。ひとつは、10周年イヤーの総決算として日本武道館でワンマンを行うことを発表したライブである、という点。発声を制限されていた代わりに起こった、大きく、そして長い長い拍手は1ヶ月経っても忘れられないし、僕の近くで感極まって泣きだした観客が、そのままアンコールの2曲の間ずっと肩を震わせていたシーンも忘れられない。

バーンとスマッシュヒットを飛ばして勢いに乗り、あっという間に武道館に立つアーティストも中にはいるが、SHE’Sは一歩一歩、シュッとした音楽性やビジュアルとは裏腹に、試行錯誤も繰り返しながらじっくり力を付けてきたバンドだから、こちらとしては「ついに来たか……!」という感慨もひとしおだ。ファンからすると、ある種の親密さや信頼関係、自分たちと一緒に進んできたのだという感覚を強く持てるタイプのバンドでもある、と思う。つまり、彼らのキャラクターそのものやこれまでの作品、活動のあらゆる場面が、あの感動的な光景へと繋がっていたわけだ。

というようなバンドのあり方が、メジャーデビューの時点からすでに歌詞に記されていた「Morning Glow」から始まったこの日のライブについて、もうひとつ語っておくべき事実は、単純にとても良いライブをしていたよなぁということ。まず出だしからして木村雅人のドラムの音が強く、太い。バンド全体としても、音源やリリース当時とは比べ物にならないほど骨太なサウンドで、野外会場でも音が吸われたり流されていくようなことがほとんどなかった。そのまま跳ねるピアノとともにCO2ガスが噴出、クラップも巻き起こった「Freedom」へ。服部栞汰(Gt)と広瀬臣吾(Ba)がなにやら視線を交わしながら頷きあい、木村は楽しそうに笑みを浮かべている。井上竜馬(Vo/Pf)は気迫を前面に出したボーカルで会場を掌握していく。

初めて日比谷野音に立ったのは結成間もない2012年の『閃光ライオット』であったこと、それが東京での初ライブであり、バンドで生きていくことを初めて意識できたターニングポイントでもあった、という思い出も振り返ったこの日に相応しく、ちょっと懐かしい曲も演奏された。そのひとつ「Back To Kid」は、“SHE’Sはピアノロックバンドである”という芯の部分が青さの中に高純度で詰まった、シンプルかつ美しい曲。エモーショナルな歌と入れ替わりに入ってくる服部のソロがまたエモい。一方、近作に収録された中ですっかりライブの重要なピースとなったのは、広瀬の操るシンセベースがクールで妖しげな「Ugly」。そして、これまでで屈指と呼びたい名演だった「Your Song」。大きなスケール感をもったミドルテンポのロックバラードはSHE’Sの真骨頂で、力強いサウンドと、優しい歌と、今この時代にも刺さる言葉が染み入っていった。

中盤、「ミッドナイトワゴン」から「Letter」までは、井上がステージ上手後方のグランドピアノを演奏しながら。生ピアノを主軸に据え、各楽器による抑えの効いた音色とフレージングでちょっと大人なアンサンブルを奏でていく。控えめな照明も良い雰囲気だ。その後、井上がセンターのエレピに戻り、フィードバックノイズを契機に儚い轟音を叩きつけたのは「Ghost」。アップテンポでも踊れるわけでもない、こういう曲で一つのピークを作れるのは彼らのひとつの強みと言っていいだろう。

ライブも後半に差し掛かったところで、「Spell On Me」「追い風」と今年リリースした楽曲が並んだ。オアシス的なロックミュージックの王道感も感じさせる前者に、これまで積極的に取り組んできた打ち込みサウンドとの融合の到達点とも言える、モダンでダンサブルな後者。要所に配された『Tragicomedy』(2020年リリース)の曲もそうだが、このところ世に出た曲の存在によって、SHE’Sのライブはより緩急を効かせつつ自在な音風景を生むようになった。

ラストスパートのタイミングで演奏された、不変と変化に向き合う「The Everglow」もこの日にぴったりの一曲。そこから「野音でやりたかったこと」として観客席にスマホのライト点灯を促し、無数の光の粒の中、本編ラストの「aru hikari」へ。井上のピアノ弾き語りで1コーラスじっくりと届けた後、ハートフルなバンドアンサンブルを丁寧に聴かせてくれたのだった。

アンコールで再登場してから、冒頭で触れた武道館発表を経て、決意表明のような「遠くまで」、そしていつものように「Curtain Call」で締めくくる全20曲。よくよく考えると「あ、そういえばやらなかったな」という定番曲がいくつもあったのだけれど、物足りなさがないどころか、むしろよく練られ綺麗にまとまったセットリストだった。で、1月後の大阪では何曲か入れ替わっていて、「そっちもまた良さそうだな」と感じさせてくれたのは、10年間の積み重ねとそこで得た懐の深さの表れだろう。

この日、これまで以上に感じさせてくれた楽曲のクオリティ、演奏の魅せ方、ライブ運びの巧みさ。さらに秋のアルバムへ向け新曲もどんどん生まれているようだし、来年2月の記念すべきタイミングへ向け、いよいよ機は熟し順風満帆といったところだろうか。きっとまたライター陣が勢ぞろいしちゃうだろうその日へ、今から思いを巡らせている。

取材・文=風間大洋   撮影=Shingo Tamai

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