興奮を可視化し、無観客で繋がるライブ 遂に実現した「幻の公演」EGOIST「ニコニコネット超会議2020夏」オープニングライブレポート

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2020.08.09(Sun)ニコニコネット超会議2020夏✕EGOIST LIVE on www. 2020 side-A2 【chrysalizion code 404 : ebenfalls】

テレビアニメ『ギルティクラウン』の中から飛び出した音楽ユニットEGOIST。アニメの登場人物である楪いのりがCGキャラクターとして舞台に立ち、chellyが歌声を当てる、独特なパフォーマンスが魅力のアーティストだ。このEGOISTが、8月9日の『ニコニコネット超会議2020夏』オープニングライブとして、無観客ライブを開催。「EGOIST LIVE on www. 2020 side-A2 『chrysalizion code 404 : ebenfalls』」のタイトルを冠し、ストリーミング配信された。本来なら4月21日の「ニコニコネット超会議2020」にて開催される予定だった「幻の公演」が、遂に実現する形となった。今回、SPICE編集部も「ニコニコ動画」からネット配信の形式でライブを体験。「幻の公演」の具現化という、この貴重な舞台の模様をお伝えする。


3月のライブを継承しつつ、昇華されたステージ

SPICEでは過去に、2020年3月7日(土)にZepp DiverCity(TOKYO)にて開催されたライブの模様もお伝えした。そのときの「side-A」に対し、今回は「side-A2」。セットリストや声優・茅野愛衣による冒頭や曲と曲の合間に入るモノローグなど、「EGOISTの原点回帰」を目指した前回から演出を引き継いだ箇所が多く見られた。

圧倒的に「違う!」と感じさせたのは、一曲目「Extra terrestrial Biological Entities」の歌い出しからである。前回のライブでも、本来ならばツアー初日として大勢のファンを会場に入れて開催される予定だったものが、急きょ無観客にて開催された経緯がある。そのライブも感動的だったのは間違いないが、ライブ後、chelly自身も「ちょっと寂しかった」と語っていた。そうした感情が当時の歌声の中にも込められていたのだろうということは、想像に難くない。

しかし、それを経て2回目の無観客となる今回のライブ。5カ月もの時が経過していることを考えても、1曲目から格段に歌が伸びやかになっており、「迷いの無さ」といったものが感じられた。続く映画『虐殺器官』主題歌の「リローデッド」も、最初からリミッターを解除したようなパワフルな歌声。画面にもファンのコメントが濁流のごとく流れていく。歓声はなくても、可視化されたファンたちの興奮が伝わる。

 

3曲目「エウテルペ」からしっとりとした曲調になり、コメントが少なくなるも、「すまん聞き入ります」「コメ忘れるわ」とポツポツ流れたコメントがその理由を示していた。さらに4曲目「London Bridge is falling down」。この曲のウィスパーボイスで紡がれる「My fair lady」のフレーズが、耳に心地よい。ライブを好きな場所にいながら、イヤフォンやヘッドフォンで直接耳に届けられるのもストリーミング配信の醍醐味だ。直接耳の奥に響いてくるので、歌い終わりに少しだけ笑ったような声で「My fair lady」の言葉が紡がれたのも聞き洩らさない。

5曲目、「カナデナル」の高音域も、しっかり通ったchellyの歌声に心が震えてくる。6曲目「雨、キミを連れて」で、サビの疾走感と、メロのゆっくりしたリズムが交互に変わるのも楽い。「楽しいけど切ないな」ふと、そんなコメントが流れる。歌詞に関しての感想なのか、ストリーミング配信に対しての感想なのかはわからない。ただ、そういう「切なさ」をファンと共有できるのも、このストリーミングの会場だけだ。このライブを観ている一人一人が繋がっている。「楽しさ」も「切なさ」も込みで、すべてが繋がっていくライブ。「感動」の二文字じゃ言い表せない、もっとプリミティブで、尊い感情が、観ている我々の心に広がっていく。

茅野愛衣のモノローグを挟んだ後、7曲目「elbadaernU」で、楪いのりがコスチュームチェンジ。「リローデット」のジャケットで着ている衣装へと変わる。カメラも下から見上げるようなアングルなど様々な角度からいのりの姿が映し出されるのも、ストリーミング配信ならではだ。続く8曲目「キミソラキセキ」では、「キミを愛してるから」に対して「俺も」「わたしも」とファンたちのコメントが流れていく。

 

9曲目、アニメ映画『屍者の帝国』主題歌「Door」では、背景にいのりを象ったステンドグラスの映像が登場。まるでいのりの姿が聖母のようにすら見えてくる。雄大に広がる音楽と、空間の演出とで、いつの間にか画面の前に座っていることすら忘れそうだ。コメントを非表示にすれば、ファンの反応を見ない代わりに、より自分の意識を画面の向こうへ近づけられる。なかなか、どちらを選ぶべきか悩ましい。そう考えているうちに、ふたたび茅野愛衣のモノローグが挟まれる。「ここからブチ上げゾーン」と流れるコメントで、ファンたちの緊張感も伝わってくる。一気に、ライブはクライマックスへと向かっていく。

いのりが画面の向こうへ向けたマイクにコメントの嵐

10曲目、テレビアニメ『PSYCHO-PASS』前期エンディングテーマ「名前のない怪物」でいのりが再び衣装チェンジ。黒いワンピースに十字架のリボンのついた、葬儀社の衣装になる。歌ういのりの姿が様々な角度で画面に映される様子は、改めて生(なま)感がすごい。

11曲目で「好きと言われた日」が流れたときには、画面は「かわいい」スタンプで埋め尽くされる。12曲目、テレビアニメ『PSYCHO-PASS』後期エンディングテーマ「All Alone With You」では、サビに入った瞬間の、心の一番柔らかいところにスッと響いてくるような歌声に、一撃で涙腺が崩壊してしまう。「画面がぼやけてよく見えない」「尊死」そうしたユーモアのあるコメントにも、ただただ共感するほかない。

さらには、「初ライブ」というコメントも流れてきた。よくこの会場に来てくれたと思う。古参も、新参も、ここでは一つだ。皆、chellyの歌に酔いしれよう。13曲目「1.4.2」は、コーラスの「ウォー、ウォー」の部分で、マイクを画面のこちら側に向けるいのり。一斉に「おおおおおおお」のコメントが画面を埋め尽くしていく。実際の会場には声は届いていないだろう。だが我々の脳内には、心には、ファンたちの強いコーラスの声で満ち満ちていた。バーチャルに作られた空間も、現実のchellyの歌声も、視聴者が打つコメントも、一人一人の想像も実像も。すべて、この瞬間に一つとなった。

「咲かせや咲かせ」で季節外れの桜が、会場に一斉に咲き誇る

一時、いのりが画面から消える。代わりにスクリーンに映し出されているのは、ニコニコ動画のコメントだ。ライブのその場に我々のコメントが表示されるのはやはり嬉しい。アンコールに応えて再びいのりが登場し、chellyによるMCが挟まれた。そのときに「ニコニコ超会議に起こしの、男子!女子!」とchellyがそれぞれのファンからのコール&レスポンスを求める瞬間があったが、そのとき確かに筆者自身が打った、ピンク色の「Yeeeee」のコメントが画面に流れたのを確認して、「いま、確かにつながっている」と感じられたのは感無量だった。

 

アンコールで披露されたのは3曲。4月13日にリリースされた新曲「最後の花弁(The meaning of love)」、さらには前回のライブでは歌われなかったアニメ映画『甲鉄城のカバネリ 〜海門決戦〜』主題歌「咲かせや咲かせ」、そしてエンディングを飾るのに相応しいTVアニメ『ギルティクラウン』前期エンディングテーマより「Departures 〜あなたにおくるアイの歌~」である。

「咲かせや咲かせ」は、もともと4月に開催される予定だったことで組まれていた楽曲なのだろう。やや季節外れなイメージもあるかもしれないが、そこはヴァーチャル空間。画面の中に、一斉に桜が舞い散る中でいのりが歌っている様は、我々を本当に春のその場所へ連れていってくれたように思えた。

「本日はありがとうございました。またどこかで会いましょう!」chellyがそう言い、流れるエンドロール。最後の最後まで、ファンたちのコメントが絶えない。この日、EGOISTはTwitterトレンドにも上がったそうだ。それだけ熱いものを見せてくれた今回の『ニコニコネット超会議2020夏』に、改めて感謝を述べたい。

3月に引き続き、2回目のストリーミングとなった今回のライブ。当日のライブ後、19時には、また9月12日(土)に無観客第3弾となる「EGOIST LIVE on www. 2020 side-A2B 『chrysalizion code 404 : enchaîner』」の開催も公式Twitterにて発表された。まだまだ通常のライブが開催できない日々が続くが、いずれ通常ライブが再開された日に会場で楽しむためにも、また重要な配信ライブになることは間違いない。

 

楪いのり、chelly、そしてEGOISTは、これからも常に進化し続けていく。その進化の過程を、やがて本当に桜が舞うような来るべきその日に向けて、追い続けていきたい。

取材・文:平原 学

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