原田知世、10年分のベスト盤「私の音楽」発売記念でオフィシャルインタビュー公開

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©Hideaki Hamada

25周年という節目に発表された「music & me」から10年。原田知世はミュージシャンとして新たな魅力を開花させた。ギタリスト/作曲家の伊藤ゴローとのコラボレーション、アイスランドへの旅、「on-doc.(オンドク)」、カヴァー・アルバムなど様々な挑戦を通じて、彼女は自分の歌を大切に育ててきた。

その軌跡を追ったアンソロジー「私の音楽 2007-2016」は、10年という時の流れをまとめた音楽日記。そこにはオリジナル・アルバム収録曲を中心に、様々なコンピレーションに収録された曲もレーベルを越えて集められている。彼女にとって、一体どんな10年だったのか。共に歩んだ伊藤ゴローと一緒に、アルバムを通じて振り返ってもらった。(聞き手:村尾泰郎)

――「私の音楽 2007-2016」は、「music & me」以降、すべてのアルバムのプロデュースを手掛けたゴローさんと原田さんのコラボレートの歴史ともいえます。今回、二人が初共演したmoose hill「ノスタルジア」(05)がボーナス・トラックとして収録されていますが、どういう経緯でコラボレートすることになったのでしょうか。

伊藤:当時、「もし、自分の曲を歌ってもらうなら誰がいい?」という話を仲間内で話していた時に、「原田知世が良いな」って言ったことがあるんですよ。といっても、ずっと追いかけていたわけではなく、テレビのCMで「空と糸 -talking on air-」を聴いて、「誰が歌っているんだろう?」と気になって調べたら知世ちゃんだったんです。そんななかで、お会いする機会があって。歌ってほしいと思っていた人に出会ったんだから、これはもうお願いしたほうがいいかなと。

原田:当時は女優業が忙しかった頃で、あまり歌っていませんでした。ゴローさんとまわりのミュージシャンの方々が、生活と近い環境で、自然体で音楽作りをしている姿を見て、「こういうやり方だったらまた音楽を始められるかな」って思ったんです。あと、これまでのプロデューサーの方々は歳上が多かったんですけど、ゴローさんは私と歳が近いので、ざっくばらんに話ができたというのも良かったですね。

――このmoose hillでの共演が「music & me」(07)へと繋がったわけですね。

原田:そうですね。「music & me」は25周年記念作品だったので、それまで縁があった方々に参加してもらって、いろんなカラーの曲が集まりました。それをプロデューサーとしてひとつの世界にまとめたゴローさんは大変だったんじゃないかと思います。

伊藤:大変だったかな。もう覚えてない(笑)。でも、久し振りの新作だったし、「どんなアルバムなんだろう」っていう世間の期待はあったと思いますね。

――このアルバムで久し振りに「時をかける少女」を歌ったことは大きかったのでは?「時をかける少女」は最新作「音楽と私」でもカヴァーされていて、この10年を象徴する曲になりました。

原田:「時をかける少女」をまた歌うことができたのは、ゴローさんと出会ったからだと思います。14歳でデビューした時から私はどんどん変化してきたので、この曲はしばらく封印していました。だから、ゴローさんに「歌ってみない?」って言われるまで歌うつもりは全然なかったんですけど、歌ってみたらファンの皆さんがとても喜んでくれて、「こんなに愛されている曲なんだ」って改めて感じました。

伊藤:この時はアレンジをどうしたらいいのか、いろいろ悩みました。「弦を入れてみようか」とか、最初は違った感じで考えていたんですけど、楽に歌ってもらったほうが新たな気持ちで歌に向き合ってもらえるんじゃないかと思って、こういう形になりました。

――続く「eyja」(09)は、アイスランドで現地のミュージシャンを交えてレコーディングしたこともあって、独特の空気感を感じさせるアルバムになりましたね。

原田:90年代にスウェーデンに行った時と同じように、「どんなところなんだろう?」ってワクワクしながらアイスランドに行きました。当時は、新しい自分を見つけようと思って冒険心に満ちていたというか。自分ができることの少し上を目指して、いろんな挑戦をしていました。そうすることが、すごく新鮮だったんです。

伊藤:このアルバムは、アイスランドと東京と2か所でレコーディングしたんです。例えば「FINE」はアイスランドでピアノを録って、歌も吹き込んでいて、アイスランドの空気というかムードが出ていると思いますね。

原田:やっぱり、環境って音楽に影響すると思います。アイスランドはとにかく自然が素晴らしかったです。きれいな苔が辺り一面に生えていたり、「妖精がいるかもしれない」と思わせてくれるような場所でした。

――「music & me」「eyja」は多彩なゲストを迎えての作品でしたが、「noon moon」(14)は原田さんとゴローさんのコラボレート・アルバムという感じがします。

原田:そのとおりだと思います。このアルバムは「少しずつ曲を作っていって、気がついたらアルバム一枚分になっている、そんな風に作りたいね」ってアルバム制作を始めたんです。あと、この時期、「on-doc.(オンドク:原田知世と伊藤ゴローの二人で歌と朗読を披露したイベント)」をやっていたことも関係していると思いますね。

伊藤:「on-doc.」は2011年クリスマスの青森県立美術館から始まり、教会・温泉宿・酒蔵など普段コンサートを行わないような場所でも公演をかさねてきました。二人しかいないので、何かがあった時は臨機応変に対応しなくてはいけない。その経験から得たものは多くて。ギターと歌だけで成立するような、太いメロディーの曲を作ろうと思ったんです。

――「名前が知りたい」の歌詞を、作家の池澤夏樹さんが手掛けられていますが、これはどういった経緯だったのでしょう。

原田:「on-doc.」で池澤さんの本を朗読したんです。大好きな本で、その後も何度も朗読させてもらったので、池澤さんに歌詞を書いて頂けたら嬉しいな、と思ってオファーしました。作詞家の方とは言葉の乗せ方が違って新鮮でしたね。1曲のなかで物語が広がっていく感じもすごいと思いました。

――洋楽カヴァー・アルバム「恋愛小説」(15)では全編英語歌詞に挑戦されました。このときは、かなり英語の発音にも注意されたそうですね。

原田:「noon moon」で良いメンバーに出会えて音の世界観も見えてきたので、この人達とだったら、いろんな曲に挑戦できるんじゃないかって思ったんです。英語の勉強は大変でしたけど、声の響きが日本語の歌詞と違うので新しい発見があって歌っていて楽しかったですね。

伊藤:このアルバムでは、いろんなタイプの曲をやったので、結構作り込んだ覚えがありますね。いま聴き直すと、いろんなことを試していましたね。

――「ドント・ノー・ホワイ」ではジェシー・ハリスとデュエットされています。

原田:ノラ・ジョーンズの曲を聴き過ぎていたので、最初はどう歌っていいかわからなかったんですよ。でも、ゴローさんの新しいアレンジができて、ジェシーさんが参加してくださったことで、原曲とはまた違った味わいの良い仕上がりになったと思います。

――そして、邦楽カヴァー「恋愛小説2〜若葉のころ」(15)から選ばれた「September」でアルバムは締めくくられます。後半で鮮やかに場面転換するようなアレンジが印象的な曲ですね。

原田:あそこ、すごく素敵ですよね。パーッと世界が変わっていくようで。この曲は、一見明るいけど、歌詞をよく読んだら失恋の歌なんです。カヴァーした時に、そのことに初めて気付いて。明るい感じで歌っているけど内容は切ない。そのバランスが、この曲の良さなんだと思います。

――本作は、オリジナル・アルバム以外で発表された曲が収録されているのも魅力です。例えばゴローさんがプロデュースしたボサノヴァ・カヴァー・アルバム「encontro -出会い-」(08)に収録された荒井由美「きっと言える」のカヴァーは、「時をかける少女」をほうふつさせるボサノヴァ・アレンジですね。

伊藤:これは僕が選曲しました。このコンピレーションはボサノヴァがテーマだったので、ユーミンのなかで、いちばんブラジル音楽に入って行ける曲かなと思ったんです。

原田:この曲はもともと大好きな曲だったのですが、歌ってみると大変でした。最初は音域が低いんですけど、どんどん転調していくんです。難しかったですけれど、ずっと聴いていた曲なので、わりとすんなり歌うことができました。

――ボサノヴァといえば、ゴローさんがプロデュースした「ゲッツ/ジルベルト+50」では、アントニオ・カルロス・ジョビン作「ヴィヴォ・ソニャンド」をカヴァーして本格的にボサノヴァを歌っていますね。

原田:それまで、ボサノヴァを歌ったことがなかったのですごく楽しかったです。「きっと言える」のようにボサノヴァ・アレンジでカヴァーした曲とは、言葉の乗り方が全然違う。自分の違った一面を見ることができたような気がしました。

伊藤:この曲は知世ちゃんに歌って欲しかったんです。細野晴臣さんがすごく気に入ってくれて、会う度に「あのカヴァー、良いね」って言ってくれます。

――マエストロのお墨付きがもらえたわけですね!「フロスティ・ザ・スノーマン」はクリスマス・ソングのカヴァー・アルバム「Christmas Songs」からです。

原田:この曲は以前、コクトー・ツインズがカヴァーしていて。それが好きだったので歌ってみたかったんです。でも、英語の歌詞が結構、詰まっていて、口が馴れるまで難しかった覚えがあります。ゴローさんのアレンジも大好きだし、冬になると聴きたくなる曲ですね。

――アルバムを通じて10年間を振り返ってみましたが、プロデュースを手掛けてきたゴローさんから見て、原田さんの歌の魅力はどんなところだと思いますか。

伊藤:やっぱり、声でしょうね。練習してできる声ではないし。ノラ・ジョーンズにしても、まず声の魅力にみんな圧倒されているわけで。それと同じように、知世ちゃんも声の魅力がすごいんだなって、一緒にやって実感しましたね。

原田:声は親からもらったものですけど、それをどう活かすかが難しいですよね。40代になって、「これから大人のシンガーとしてどういう歌い方をしたらいいのかな?」って模索している時にゴローさんに会って、ゴローさんはすごく良い形で私の声を活かしてくれた。ゴローさんのおかげで、これまで以上に音楽が身近なものになりました。

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