『ダダトプシモク』 撮影=松本いづみ
『ダダトプシモク』2024.8.23(FRI)大阪・心斎橋JANUS
8月23日(金)に大阪・心斎橋JANUSにてライブイベント『ダダトプシモク』が開催された。the dadadadys、トップシークレットマン、板歯目のスリーマンだから『ダダトプシモク』と至ってシンプルなタイトルだが、ライブ自体も至ってシンプルな対バン大激突であった。
板歯目
板歯目
一番手は板歯目。開始時間になった瞬間、1曲目「ラブソングはいらない」が間髪入れず打ち鳴らされる。ギターボーカル・ベース・ドラムのスリーピースだからこそ打ち鳴らされる強靭な音だと感じていたが、メンバーは千乂詞音(Vo.Gt)・庵原大和(Dr)ふたりで、ベースは京都のバンドであるViewtrade・ぱんだがサポート。音だけ聴いていたら長年連れ添う鉄壁のグルーブと信じて疑わないだけに、この音をサポートと共に鳴らしているのは凄すぎる。関西以外での普段のライブではまた違うサポートベーシストなだけに、今夜の音を関西ワンポイントでのサポートと共に鳴らしているのは、とんでもない出来事である。
何がとんでもないかというと、とにかく音がやさぐれていて、ドカドカうるさくて、千乂の歌声もドスが効いている。「オリジナルスクープ」ではガレージロックのような荒くれ感があり、「オルゴール」では突如リズムが跳ねたりと、バンド最小限と言える3人なのにバンド最大限の音の振れ幅を持っている。先ずはリズム隊のテクニックが凄すぎるが、これを関西ワンポイントのサポートベースと共に鳴らしていることはしつこく何度でも記しておきたい。千乂が嬉しそうにふたりを見つめているのも、バンドの良い雰囲気が伝わってきて素敵だった。
「沈む」とひとこと言って「沈む!」へ。ギターリフだけで呪文みたいに独特の歌詞をつぶやいていく。そこにリズム隊が入り、突如スピードアップして唸り上げていく。そのうねり具合はえげつなくて、最後は「沈む!」が連呼される。ここにきて、ようやく「お願いします!」と言葉を放って終わり、「トッパー頑張ります」と言って、「地獄と地獄」へ。切り裂く様なギターから、千乂が早口言葉みたいに言葉を投げかけていく。巻き舌加減もあり、圧倒されて聴くしかない。圧倒されすぎて呆然としていると「まず疑ってかかれ」「Ball&Cube with Vegetable」が畳み込まれる。
「絵空」終わり、千乂はJANUSに初めて出れて嬉しい事、好きなバンドとのスリーマンが嬉しい事、最初から観客がいて嬉しい事を簡潔に話して、「今日は本当に上手に話が出来なさそうなので、後2曲やって帰ります。さうなら」と告げる。岡本太郎の「芸術は爆発だ」は凄い言葉だが、そこに大が付く「芸術は大爆発だ!」! まぁ、もう本当その通りとしか言えない大爆発で、ラストナンバー「ちっちゃいカマキリ」へ。千乂はベースと向き合ってギターを弾き、時には手ぶりも加えて歌を届けるが、ギター・ベース・ドラムそれぞれが鳴りまくっている。初めて観ただけに、ただただ音と言葉の凄みに凝視するしかなかったが、無駄に喋らずクールなのも良かった。最後も「おしまい!」と言って、おしまいに。トッパーとして、これ以上ないくらいに強烈なインパクトを残してくれた。
トップシークレットマン
トップシークレットマン
2番手はトップシークレットマン。ステージにはモニターが2台設置されており、VJが映像を流していく。今年1月にライブを観ているが、その時には無かった演出。リハから、しのだ(Vo.Gt)が観客にフランクに話しかけていく。リハから観客の上にダイブしそうなほどの勢いだが、そのまま袖にはけずに本番へ突入。モニターには「ひとみちゃん」と映し出されて、バンド持ち込みのミニレーザービームみたいなライティングも際立つ。映像と照明に意識的になっていることがわかるし、兎にも角にも音も今年1月と全く違って爆音の破壊力を持ち合わさっている。1曲目「ひとみちゃん」からブッ飛ばされていく。
「スペルマライフ」「サッカー部のサノくんを倒す曲」という曲自体が縦横無尽に暴れまくり、バァ~っと一気に終わる感じで、気が付くとテクノビートが鳴っている。「「死にたい」とか絶対言えない」はタイトルからして物騒だし、バンドが鳴らす音もグッシャグッシャなのに、メロディーは著しくポップ! スマホ撮影する観客も多く、それは今独の風景であり、こうやってヤングキッズによってSNSでも広がっていくのだなと、アナログ世代ながら物凄く感心してしまった。
VJの映像は常にイカしているのだが、それに合わさるサンプリングボイスもいちいち小ネタが効いていて興奮する。時折流れる「こんにちは。トップシークレットマンです」というサンプリングボイスは、90年代のテクノな雰囲気があって高揚するしかない。「キミマインド」は未配信楽曲ながらダイバーが続出して、ヘッドバンキングとサークルモッシュの嵐に! いかにライブハウスという現場の観客たちに愛されているバンドかということがわかったし、だからこそ荒々しいフロアの状況になっても、それを求めて観客が来ているので素晴らしく成立する。ダイバーたちを受け止めるスタッフの中にJANUS店長の顔も見えた。それもライブハウスという現場ならではであった。
しのだは曲終わり、2年前に髭とドミコの対バンを観客として観に来て、その時にJANUS店長にCDを渡したことを振り返る。店長の名前を呼んで、「とっておきのラブソングを書いてきました!」と「君にラブソングを書く」へ。単なる馬鹿騒ぎでは無く胸騒ぎがするライブなのは、しのだがしっかりとお世話になった人への想いを昇華して物語として魅せているからだなと感激した場面であった。
「新曲~!」と題された新曲も鳴らされたし、モニターには観客たちの顔も映された。大きなホールアリーナやフェスだと当たり前になってきた映像演出であるが、いわゆるコンパクトなライブハウスでは堪らなくグッとくる映像演出である。ハコのサイズに関係は無く、むちゃくちゃ良い現場はコンパクトなライブハウスにも存在していることが明確に感じ取れた。「しのちゃんかわいい」からArctic Monkeys「Brian Storm」になだれ込み、あっという間に最後を迎える。この日、しのだは繰り返し、「こういう夜がずっと続けばいい」と言っていた。だが、明日の朝が来る事には物理的に抗えないので、自分たちで意思表示しましょうとも訴えかけた。
<新しい朝に怯えている>
ラストナンバー「NEU」で、しのだは歌う。しのだは暴れ騒ぎながらも、押しつけがましくなく自然に伝えたい事を伝えられている。人懐っこいキャラクターだから成せる技なのだろうか。ともかく観客に伝えたい事を伝える為のバンドの総合プロデュース能力に長けている。大きな場所で大きな映像モニターで大きなレーザービームでと、未来のトップシークレットマンライブを想像するだけでワクワクするライブであった。
the dadadadys
the dadadadys
3番手トリはthe dadadadys。若手2組が盛り上げまくった場で、どんな風に〆ていくのか楽しみだが、登場SEが合唱団なのも異彩を放っているし、逆に何だか不思議なことに王道も感じさせるし、何はともあれ期待が募る一方である。ドラムのyuccoが凄い速いビートを叩きこみ、小池貞利(Vo.Gt)が「令和の恥さらし! 時代遅れ上等!」と叫び、「もしもし?もしもさぁ」とタイトルコールへ。「今夜1回しか無いんだもん。寂しいんだよね」なんて言葉もポツリと漏らしていたが、トップシークレットマンにも通じる今夜に賭ける想いがビシバシと届く。
中二の時にイジメられてハブられていた事を話して、「(許)」へ。「あの人の鳴らしているギターにだけ悲しい歪みが聴こえてくるのはなぜ?」では、あの人がチバユウスケと歌われていてドキッとする……。本番前に小池と話す時間があり、その時に何気にチバの話題をしていただけに余計にドキッとした。その時も悲しみや寂しさをブルースとして鳴らすという話だっただけに、その感情を受け継いで本当に音として鳴らしていると嬉しくもあった。そのまま「拝啓」へ爆走していくが、観客フロアにはしのだの姿も見える。確実に板歯目・トップシークレットマンという2組に火をつけられたからこそ、the dadadadysが燃え上っている事が受け取れる。
そして、事前に貰っていたセットリストにも書かれていなかったまさかの「Pain Pain Pain」へ。teto名義時代からの人気曲だけあって、観客のボルテージは上がるなんていう使い古された定型文は、こういう時こそ使われるべきという異様な熱気に包まれる。小池もハンドマイクで暴れ回っているし、むちゃくちゃ絶好調な感じがバンドから行き渡っている。
「久しぶりにやったな。今日喉の調子がいいから、やれるかなって。みんながキュートな眼差しで観ているから、うっかりしてしまった!」
そんな素敵な言葉が投げかけられたが、ライブ後にバンドメンバーから聴いたのだが、誰も知らされていなくて、その場で本当に即興で鳴らしたという……。これぞバンドだと驚くしかない。それで言うと、続く新曲「しゃらら」は儀間陽柄(Gt)が作った曲であり、小池の曲とはまた違うオセンチさがあった。いよいよ曲制作までメンバーに託すとは完全にバンドになったのだなと感慨深くなる。
オセンチナンバーな後は、オバカでアホに踊れるロックンロールナンバー「ROSSOMAN」がぶちかまされるのも嬉しい。「おちゃらけちゃったけど、ちょっと真剣な曲やります」と「らぶりありてぃ」へ。こういう緩急の付け方は見事すぎる……。
ラストナンバーを前に小池は話し出した。5年くらい前、色々疲れて、本来は人間のことが大好きなのに壁を作って誰とも仲良くしなくていいとまで思ったという。合わせて、中学の時に太っていたが、痩せたら手の平返しをしてきた同級生たちについても触れられる。しかし、今夜は10歳以上年下ながらも、尖っていて切れ味があって才能ある若手2組と対バンが出来て、音楽良ければ何でもオールOKだからこそ、心開いても良いなと想える夜とも打ち明けた。
「みなさんもそうだったら嬉しいです。無理しなくていいよと自分のために歌った曲だけど、今日はみんなの為に歌います」
ラストナンバー「メアリー、無理しないで」を聴きながら、悲しい想いや寂しい思いをしている人たちに自然に寄り添えるバンドなのだなと再認識ができた。the dadadadys、トップシークレットマン、板歯目3組全てがやりきったライブであったが、だからこそ観客は興奮が冷めやらず、アンコールの拍手と掛け声が鳴り止まなかった。流石に出て来ないと予想していたら、小池がひとり出てきた。
「全部持っているエネルギーを本編で出し尽くして、格好良いバンドも観たし、みんなのキモイ笑顔も観れて、満足したので、今日はこれで終わり~!」
潔い〆の言葉だった。それに対して、不平不満文句を言う観客もいるわけがない。夏と言えば、どうしてもフェスに目を取られがちだが、街のライブハウス現場でも大爆発が起きていることが実証された夜であった。
取材・文=鈴木淳史 撮影=松本いづみ