Petit Brabancon、映像撮影のためのプレミアム・ライヴを観客29名限定で開催

アーティスト

撮影:田中聖太郎(田中聖太郎写真事務所)

年末の武道館イベント<JACK IN THE BOX 2021>で初めて人前に姿を現したPetit Brabancon。京、yukihiro、ミヤ、antz、高松浩史という一騎当千のメンバーが集結したニュー・バンドの初ライヴは、わずか3曲、15分にも満たない長さだったが、こちらの予想や期待をはるかに上回る凄まじいものだった。このバンドの途方もないポテンシャルと、底知れぬスケールをとことん見せつけた壮絶なパフォーマンスに震撼とさせられたのである。

その記憶も未だ生々しい1月14日に行われた2度目のライヴは、ミュージックビデオ等今後の映像作品に使用する素材を撮影するため、その現場に入場が許された一般客は29名のみというプレミアム・ライヴとなった。

会場となった川崎クラブチッタのフロアを一杯に使い、ドラム・セットやアンプ類、撮影機材や照明機材、LEDスクリーンなどが所狭しと並べられている。撮影、音響、映像、照明などのスタッフがその周りをずらりと取り囲み、いつものライヴとは全く異なる緊張感が流れている。この日の映像ディレクターは、ミッシェルガン・エレファントのドキュメンタリー映画『THEE MOVIE』を始め数多くの音楽映像を手がける第一人者・番場秀一だ。

突然場内が暗転し、長いノイズのイントロが響き、メンバーが無造作に登場した。1曲目は「非人間、独白に在らず」と題された未発表の新曲。作詞はもちろん京で、作曲はantzが手がけている。スモークが炊かれ、トーチに炎が灯されて、どこか宗教儀式めいたミステリアスな雰囲気の中、へヴィでノイジーなダーク・サイケデリック〜ストーナー・ロック風のサウンドが導かれる。ミヤとはひと味違う、いかにもantzらしいと言えるオルタナティヴな曲で、ミヤがバンドの太い幹となる楽曲を手がける一方、antzの参加がバンドの幅と可能性を広げていると実感する。そして激しくのたうつようにカラダをくねらせ、しなやかに跳躍する京の肉体。振り付けられた動きではなく、心の奥からの衝動が彼を突き動かしているのはすぐにわかる。バンドの世界観を統べているのは京だ。

シューティングのためのライヴだから、歓声や拍手はおろか物音ひとつたてるのも厳禁である。スタッフも客も息を詰めて演奏を見守り、曲が終わっても安堵というよりはピリピリとした静寂が流れる。それまでの空気は一気にクール・ダウンしてリセットされる。アーティストの集中力の持続が試される場だ。

2曲目は昨秋発売のシングル「刻/渇き」から「刻」。1曲目から一転してリフ主体のヘヴィ・メタリックなラウド・ロックがドラマティックに展開し、京は喉が裂けそうな絶叫からファルセット気味の繊細な唱法まで、いくつもの仮面を使い分けながらさながら舞台劇のようにその場を染め変えていく。「本当の世界を知りたくない/本当の自分も知りたくない」という叫びが耳に、心に痛い。ミヤとantzのギターはそのつど役割を入れ替えながら分厚いノイズの壁を作り、yukihiro、高松のダイナミックなリズム隊と対峙する。ラウドなヘヴィ・ロック・バンドとしてのpetit Brabanconを象徴するような曲だ。

3曲目はこのバンドにしてはポップでキャッチーな「OBEY」、しかしシニカルで自虐的で痛みと孤独に満ちた京の歌詩の世界観はここでも全開だ。カラフルでサイケデリックでドラッギーで曼荼羅な映像が次々とLEDに映し出され、このバンドが本質的にはらむ危険さ、異形性を浮き彫りにする。

4曲目の「A Praying Man」、5曲目の「擬音」は共に京作詞/ミヤ作曲の未発表新曲だ。リフ主体でゴリ押ししまくるヘヴィ・ロックをグリーンのレイザーライトや真っ赤な照明、禍々しく綴られる歌詞の断片などが激しく交錯しながらもり立てていく。

そして終曲は再びシングル「刻/渇き」から「渇き」。yukihiroの正確無比でありながら生々しく躍動するドラム、高松のグルーヴするベースに導かれ、ギター・ノイズの分厚い壁が再び聴き手に襲いかかり、灯されたトーチの炎、飛び交うレーザー、明滅するLEDがPetit Brabanconの世界観を鮮やかに提示していく。

ここでライヴは一旦終了し、20分の休憩の間にカメラチェンジを行い、再び同じ曲順・セットを繰り返す。寸分違わぬクオリティで展開された2つのセットに、バンドだけでなくスタッフ、映像や照明のクルーまでもが一体になってアーティストの表現する意思をなんとしても具現化しようとする執念のようなものを感じ、わずか6曲ながら恐ろしく密度の濃い25分弱だった。音圧の凄まじさと演奏の強靱さで押し切った武道館に続き、Petit Brabanconの2度目のライヴは、その濃厚かつ独自の世界観で見る者を圧倒したのだった。この日収録された映像素材は、番場監督による入念な編集作業を経てさらなる強固なドラマに濃縮され、まったく新しい作品として再構成されることになるだろう。

すでにバンドはゆうにアルバム1枚分作れるほどの数のオリジナル楽曲を持っていると聞くが、今後の曲作り期間を経てさらに強力な新曲がレパートリーに加わってくるだろう。その成果は秋のツアー、そして1stアルバムで明らかになるはずだ。

文:小野島大
撮影:河本悠貴、尾形隆夫(尾形隆夫写真事務所)、田中聖太郎(田中聖太郎写真事務所)

セットリスト

  1. 非人間、独白に在らず
  2. OBEY
  3. A Praying Man
  4. 擬音
  5. 渇き

関連タグ

オススメ