HYDE、20th Orchestra Concert千秋楽となるHYDE 黑ミサ 2021 Wakayama開催

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撮影:岡田貴之・田中和子

11月23日・24日に和歌山ビッグホエールにて開催された「20th Orchestra Concert HYDE 黑ミサ 2021 Wakayama」から、24日の模様をレポートする。

「死ぬんじゃないかと思うくらい、幸福な時間でした」
最後のピースを響かせた、故郷で迎えたソロ20周年の集大成。

ソロ活動20周年を記念したオーケストラツアー「20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021」。それは、2002年にリリースした1stソロアルバム「ROENTGEN」をオーケストラを迎えて再現するという、美しくも実験的なツアーだ。
そのファイナルを彩ったのが、11月23日(火/祝)と24日の2日間に渡り、HYDEの故郷、和歌山県にある「和歌山ビッグホエール」で開催された「20th Orchestra Concert HYDE 黑ミサ 2021 Wakayama」。HYDEがここでコンサートを行うのは今回が2度目。自身の誕生日を記念して開催されたアコースティックコンサート「HYDE ACOUSTIC CONCERT 2019 黒ミサ BIRTHDAY」以来、約3年ぶりとなる。

和歌山駅に降り立った瞬間から、街中がHYDEの凱旋公演の歓迎ムードに満ち溢れていた。駅構内やバスの中など、あちこちに「20th Orchestra Concert HYDE 黑ミサ 2021 Wakayama」のポスターが貼られ、駅の電光掲示板にもHYDEやファンへのメッセージが流れる。「和歌山の人ならみんなHYDEを知ってますよ。仕事仲間に同級生もいますから」。会場へ向かうタクシーの運転手さんが誇らし気に話す。2019年に和歌山市ふるさと観光大使に任命されたこともあり、南海電車とのコラボ特急「HYDE サザン」や「めでたいでんしゃ かしら」が運行されるなど、HYDEは和歌山県民の誇りなのだ。

「ようこそ黑ミサへ、ようこそ和歌山へ。黑ミサとコラボした電車「HYDE サザン」に乗って和歌山にライヴを観に行くという企画が実現して嬉しいです。和歌山を堪能して行ってください」

黑ミサらしいゴシックなステージの上、アルバム「ROENTGEN」から「WHITE SONG」と「EVERGREEN」を美しく歌い上げた後、HYDEが言う。2021年6月からスタートしたオーケストラコンサートの千秋楽を故郷、和歌山で行うことは、言うまでもなく特別な意味がある。

儚くも温かなバラード「SMILING」と、美しく哀しい「THE ABYSS」という2曲の未発表の新曲に続いて披露されたのは、この日発売されたニューシングル「FINAL PIECE」だ。
「ウエディングとかで使ってもらいたくて作ったので、前向きでとても素敵なラブソングです。(和歌山県)白浜の「ホテル川久」で撮影しました。お城のようなホテルで、新曲のイメージにぴったりでした」(HYDE)というMVをバックに、繊細でドラマティックな声が運命の愛を歌う。それはまるで、HYDEとその音楽に出会ったすべての人に捧げたラブソングのようにも響く。

「FINAL PIECE」のカップリングとして収録されているglobeのカバー「DEPARTURES」と、「ANOTHER MOMENT」を披露後、HYDEが今回のツアーで特に印象的だったという京都、平安神宮での公演「20th Orchestra Concert 2021 HYDE HEIANJINGU」の思い出を振り返る。

「コンサートの後、子供の頃のアルバムを見ていたら、小学校6年生の時に修学旅行で平安神宮に行っていたのを発見しました。散々やり取りした(平安神宮の)デザインが写真に収められていて。まさか40年後にそこでコンサートするなんて、寳井少年は思いもしませんでした。今日、小6の時の担任の先生も観に来てくれています。小6の頃から前向きになったかもしれません。友達もたくさん出来て、和歌山の青春時代はとても大事なきっかけになってると思います」

HYDEの言葉に応えるように、近くの席から嬉しそうに叩く拍手の音が聞こえてきた。小学生の頃のHYDEを知る方だろうか?そして、京都の東寺でMVを撮影したYOSHIKIとのコラボ曲「ZIPANG」のフリージャズ風のアレンジが披露される。すると、徐々にHYDEの声がヘヴィーロックな雰囲気に変化。「ここからは少し激しく盛り上げて行きたいと思います。ちょっと激し過ぎてびっくりするかも。僕は昨日びっくりしました(笑)」と、さらに激しい展開が待ち受けていることを予告。だがその直後、“なんて素敵な和歌山でしょう♪”と、チャーミングな即興曲を披露。大きな拍手が沸き起こる。

そんなほのぼのムードを払拭するように、バンド×オーケストラがスリリングに絡み合う「DEFEAT」「AFTER LIGHT」と激しく歌い鳴らすヘヴィーゾーンへ突入。すると、バンドメンバーもヘッドバンギングを繰り出すなど、昨年末から今年の3月まで開催された「HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE」での興奮と高揚が蘇る。さらに「MAD QUALIA」では、先月末に開催された「HYDE 黑ミサ 2021 HALLOWEEN」の余韻までが炸裂。その濃密な展開に興奮を隠せない観客。

「L’Arc〜en〜Cielは結成30周年を迎えております。30年、長いですね。人生の半分以上がラルクです」

過去の思い出話を懐かしそうに語ったあとは、ピアノとウッドベースとアルペジオギターが絡み合うジャジーシックなアレンジの「flower」と、ビッグバンドジャズ風のアレンジによる「forbidden lover」と、L’Arc〜en〜Cielのナンバーを2曲続けて披露。もはやこれはオーケストラツアーの千秋楽というよりも、ソロと並行してL’Arc〜en〜Cielの30周年記念ツアーも行ってきた、「2021年度のHYDEワークの集大成」と言えるのではないだろうか……。

ここで、「黑ミサ 2021 Wakayama」だけの特別ゲスト、シンガーの玉置成実が登場。数駅違いの同じ沿線に住んでいたというHYDEと玉置。「生まれて初めて行ったコンサートが1999年のL’Arc〜en〜Cielの「1999 GRAND CROSS TOUR」の大阪公演でした」という玉置の地元のおすすめスポットが、HYDEが少年時代に通ったという、少林寺拳法の道場がある駅だったことが発覚するなど、地元話に花が咲く。そして「和歌山県出身同士」で、玉置の伸びやかでソウルフルな歌声を軸にした「GLAMOROUS SKY」と、HYDE主導による「HONEY」をデュエットし、「黑ミサ 2021 Wakayama」に華を添える。

「この状況下の中、みんなで頑張って参りました。これはルールを守りながら安全にライヴを行えるかの闘いでもありました。毎回メンバーの皆さん、スタッフもドキドキしながら検査して1本1本公演を重ねてきました。メンバーとスタッフの努力と、そしてファンの皆さんもコンサートに向けてきっと努力してくれたと思います。40本のライヴ……この期間にこんなにライヴをしたのは世界的にも多分僕くらいだと思います。きちんと対策をすれば、こうやってコンサートができると世の中に示すことができたと思っています。ありがとうございます」

「BELIEVING IN MYSELF」を歌い終わった後、HYDEがそう話す。こんな状況で長期のツアーをやること。それは無謀とも言える挑戦だったに違いない。しかし、演者やスタッフだけでなく、ファンも一丸となり、ストイックな対策を行うことで無事に千秋楽を迎えることが出来た。会場のあちこちからすすり泣く声が聞こえていたのは、誰もがHYDEたちの努力と苦労を痛感していたからに違いない。あるいは、自分を信じたい……そう歌う「BELIEVING IN MYSELF」の歌詞に、この街で育った青年の夢と人生を重ねていたのかもしれない。

「ひと区切りつける日を和歌山で迎えることが出来て、とてもとても嬉しく思っています」

拍手が鳴り止まない会場で最後に披露されたのは、和歌山の青春時代をイメージして作ったという「MEMORIES」と、そんな思い出深い和歌山でMV撮影をおこなった「NOSTALGIC」だった。3年前、初めてビッグホエールのステージに立った際は「MEMORIES」で号泣し歌いきれなかったHYDEが、「今日は大丈夫だと思います」と宣言する。

次の人生へ生まれ変わっても/皆に会いたい

「MEMORIES」で歌われる記憶のすべては、この街での出来事なのだと、改めて実感する。この日は宣言通り、スクリーンに映る彼の頬に涙は見えなかった。歌い終わった後、後ろを向いた姿が涙をぬぐうような仕草に見えたのは、気のせいだったのかもしれない。そして、列車が進むイメージが浮かぶリズムの中、「NOSTALGIC」の切なく美しい旋律と歌声が響く。すべての演奏が終わると、スタンディングオベーションで感動を伝える観客たち。オーケストラのメンバーも、HYDEと観客に笑顔で拍手を送る。鳴り止まないカーテンコールに応え、誰もいなくなったステージに再びHYDEが一人で登場する。

「千秋楽らしく集中出来た、いいライヴでした。地元にたくさんの人が来てくれて、死ぬんじゃないか(笑)って思うくらい幸福な時間で。こういう状況下でもお互いに元気をもらって、コンサートって悪いもんじゃないよなって。皆さん一人一人が努力して、みんなで勝ち取ったコンサートだと思います。「MEMORIES」の歌詞にもあるように、みんなに会えて嬉しいし、またみんなに会いたいと思うコンサートでした」

笑顔でステージを後にするHYDEへ、場内から再び割れんばかりの拍手が沸き起こる。「みんなに会えて嬉しいし、またみんなに会いたい」というHYDEの言葉に、運命の人と出会えた幸せを歌った「FINAL PIECE」の最後のフレーズが胸に浮かぶ。<Do you like the scene unfolding in our eyes?(君が見つめる景色は気に入ってくれてるかい?)>
HYDEがいなければ、彼の作り上げてきた世界に触れることはなかった。少なくとも、この日こんな風に和歌山を訪れることもなかっただろう。そして、この日ここに来れなかったすべての人たちもきっと、HYDEと同じことを思ったに違いない。「HYDEに会えて嬉しいし、またHYDEに会いたい」。最後のピースがカチリとはまった気がした。

文/早川加奈子

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