坂本龍一、32歳の肖像 80年代東京とシンセサイザーが映し出す「教授」の探求心 シーン写真から読み解く若き日の音楽世界
このたび解禁された8点のシーン写真には、表現者・坂本龍一の世界を体現するような独創的なメイクを施した姿をはじめ、1980年代に開業し東京の若者文化を象徴した新宿アルタ大型ビジョンの前で、自身の音楽への想いを語る姿が映されている。
また当時、制作の只中であった「音楽図鑑」の「M.A.Y. IN THE BACKYARD」や「SELF PORTRAIT」をスタジオでレコーディングする風景、さらに Fairlight CMI デジタルシンセサイザーを使う様子が切り取られている。80年代の生き生きとした東京の街で彼が見つめていたもの。30 代の坂本龍一が時代の先へ向けた視線と、彼の音楽への尽きぬ探求心を感じさせるカットとなっている。
「フランスのテレビ番組のためにドキュメント・フィルムを撮らせてほしい」。
1983年、デヴィッド・シルヴィアンのレコーディングに立ち会うため、ベルリンに滞在していた坂本龍一のもとを訪れた監督、エリザベス・レナードはこう告げた。
それから 1984年5月。
坂本が 4 枚目のソロアルバム「音楽図鑑」を制作し始めた頃、東京でわずか 1 週間という短期間で撮影が実施された。レナード監督を含めた 5 名のフランス人スタッフは、日本という国を、東京という街を、そして坂本龍一という音楽家を記録した。
完成後の1985年にはロッテルダム、ロカルノ、サンパウロなどの国際映画祭で上映され、日本では同年6月9日に第 1 回東京国際映画祭で上映された。1986年、フランスでテレビ放映されたのち、発売された VHS と DVD も長らく入手困難な状況が続いていたが、近年になり倉庫に眠っていた 16mm フィルムが発見され、修復を経てデジタル化が実現した。今年1月17日、坂本の誕生日に開催された「坂本龍一|Birthday Premium Night 2025」で特別上映が行われた際には、チケットがわずか2時間で完売した。
この60分余りの映像には、坂本の貴重なインタビューやスタジオでのレコーディング風景に加え、彼が出演した CM、YMOの散開コンサート、大島渚監督「戦場のメリークリスマス」(83)の印象的な一場面などが収められている。
渋谷スクランブル交差点、新宿アルタ、原宿の竹の子族など、80年代の息づくような東京の景色とともに映し出されるのは、幼少期の記憶、変わりゆく文化と社会、創作のプロセス、そして自らが追い求める音楽について語る、当時 32 歳の坂本の姿だ。育った街に耳を澄まし、時代の流れを感じながら、彼はどのような未来を見つめていたのか。今もなお人々の心に生き続ける世界的音楽家・坂本龍一、若き日のポートレートを通して《東京の音》を体感できる幻のドキュメンタリーが、約40年の時を経てついに劇場公開を迎える。
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