flumpoolが主催する対バンツアー「Layered Music」ファイナル間近、14年来の友・高橋優に引き出されたエモい姿

アーティスト

撮影:山川哲也

flumpoolが“今”対バンしたいアーティストを招いて行う「対バン Tour 2022「Layered Music」」。6月11日・12日に東京・TOKYO DOME CITY HALLで開催した第4弾の対バン相手は、14年来の関わりを持つシンガーソングライターの高橋優。イレギュラーだが初日は主催のflumpoolが先攻を務め、2日目は入れ替わって高橋優が先攻、本ツアー初の生配信も実施した。アンコール曲は初日が高橋の楽曲、2日目はflumpoolの曲を選び、変化を付けてファンを楽しませた。レポートするのは初日の模様である。

6月18日・19日にフレデリックとの対バン(大阪府 オリックス劇場)を最終公演に残しているため、flumpool側のライヴ内容を完全に明かすのは控えるが、序盤からテンション高く畳み掛け、一体感を掴んでいくアプローチ。ヘヴィーなバンドアンサンブルを「覚醒アイデンティティ」で聴かせたかと思えば、パーティーチューン「夏Dive」では振り付けやジャンプを交えフレンドリーにパフォーマンス。依然として客席での声出しは禁止されているが、集まっている人々が心底ライヴを楽しんでいることは、身体の揺れや力のこもった拍手、手拍子から十分に感じ取ることができる。山村隆太(Vo)、阪井一生(G)、尼川元気(B)、小倉誠司(Dr)は頻繁にアイコンタクトしたり、向き合って音を鳴らしたり、メンバー間で密にコミュニケーションを取っている姿が印象的だった。

高橋もflumpoolも共に近年、所属していたアミューズから独立し、新しい道を歩み始めたばかり。対バン実現に対し「めちゃくちゃうれしい」と感無量な様子を見せながら、山村は高橋と初対面した、上京後間もない時期を回想。渋谷のライヴハウスでの対バン(※関係者向けのコンベンションライヴと思われる)で受けた高橋の印象を、「あの鋭い目付きですよ。当時は更に尖ってましたからね」と山村。尼川は「闇しかなかった(笑)」、阪井は「漆黒の……(笑)」と付け加え、「「絶対この人とは友達になれないだろうな」って(笑)」(山村)と笑った。その後14年を経て、共に紆余曲折の末にこの場所に辿り着き、「リハで感極まるものがあった」と山村。今では「親友」だとも表現した。尼川に「まだ振り返るの?」とツッコまれるほどの長いトークに発展。小倉もドラムセットで笑っていて、阪井には「いっぱいありすぎてね、想い出が……次の曲行こか(笑)?」と促された。山村は「優くんは人を楽しませることに徹してくれますよ。盛り上げようとして、たまにそれがtoo muchになることもあるんですけど(笑)。カラオケに行って朝まで帰してくれない時もある」との激白が、後の高橋のMCへと発展していくことになる。

「皆さん楽しんでいってください。今日は帰しませんよ?」(山村)との呼び掛けから演奏を再開。アッパーな序盤とは打って変わって、中盤ではニューアルバム「A Spring Breath」からの表題曲など、等身大の魅力を気負わずナチュラルに伝えるような、穏やかな楽曲群を披露していく。山村のヴォーカルに寄り添うような阪井と尼川のコーラスも秀逸で、春の陽だまりのように温かく響いた。MCのタイミングごとに、高橋への想い、感謝の言葉を溢れさせる山村。「優くんって1人やん? シンガーソングライターとして戦ってる。俺たちはバンドで、優くんは個で。一人でやっているからこそ周りを大事にして、名前の通り優しい」と絶賛。「一人じゃ何もできない。でも、仲間がいると何でもできる。そんな気持ちで独立後に書いた曲」との紹介から「その次に」を届けた。その日の対バン相手によってメンバーの心に沸き起こる想いは異なり、MCで語る言葉も変わることで、同じ曲がまた新たな意味を帯びて聴こえてくるのだった。

バンドとして打ち出して行きたい新機軸と、「星に願いを」「君に届け」といった代表曲群とを織り交ぜた、幅広いリスナーが集う場に適したバランスの良いセットリスト。その一方で、熱い気持ちが迸って止まらない山村のMCは良い意味でバランスを欠き、そんな山村に対して絶妙なツッコミを入れ、笑いに変えていくメンバーもまた温かい。flumpoolというバンドは外側は整っているように見えて内面は人間臭く、まさに重層的(Layered)。コアファンならば知っているそんな彼らの魅力を、対バン相手のファンの前で露わにすることも、このツアーの実は重要な意義ではないか?と思う。

転換後、後攻の高橋のアクトがスタート。SEに乗せ、サポートメンバーに続いて最後に登場した本人に、大きな拍手が送られた。1曲目の「こどものうた」から、心を射抜き深く抉っていくような、圧倒的な歌声が響いていく。「象」ではファンもメンバーも拳を突き上げ、声は出さずとも熱狂。「会いたかったよ、東京!」と高橋はラストで短く叫び、搔き回しの後にフィニッシュ。「flumpoolと高橋優の出会いは、隆太が全部しゃべってくれたね」とMCで切り出すと、付け加えるなら、と当時を振り返り「ギターの一生くんがソバージュだった。元気くんは社交的だった、今はクール目だけど(笑)。誠司くんは謎だね! 今も昔も謎のまま。今日は、エレベーターが開いたら体育座りで座ってた。怖っ! こういう感じ? “Layered Music”ってこういう感じの迎え方なの?!」とテンポよくトーク。コロナ禍でなければ爆笑したくなる内容と巧みな話術である。「カラオケに行くと隆太のほうがしゃべってたりするのに、さっき言ってたよね。「ちょっとtoo muchな時もあって(※山村の口調を真似て)」。そんなこと思ってたんだ?!」とショックを受けた様子。「“どうせ帰るんだろ?”っていう歌詞があるから、聴いてください(笑)」と次曲「room」へと繋げた。跳ねたビートに乗せてもつれた色恋沙汰と心模様を歌うラブソングに、山村とのカラオケ飲み会の情景が重なって聴こえたのも、この一夜だけの特別な音楽体験として心に刻まれることだろう。

続く「太陽と花」からはより深く広い楽曲の世界へと惹き込んでいき、とりわけ「虹」では高橋の歌の凄みが炸裂。身動きできなくなるほどのパワーと表現力。歌詞とリンクして、七色の光がステージに広がる美しい照明演出も相乗効果を生み、力強くも優しい、エモーショナルな歌を真っ直ぐに送り届けた。大拍手を受け止め、「温かい拍手をありがとうございます」と感謝を述べながら、「目が怖いですか? 漆黒の黒ですか?」と、flumpoolメンバーのMCを引用して自虐。想いを迸らせていた山村の様子を「察するに、エモくなってる状態」と評した。flumpoolとの関係をライバル関係とは位置付けず、「14年経つと「あ、今日の隆太はこんな感じなのかな」って分かるようになってきた」と、長年の深い関わり合いがあってこそ辿り着いた、相互理解の境地を語っていたのが興味深かった。「「最初はこんな奴と仲良くなれると思ってなかった」と隆太が言ってたけど、俺も思って。特にソバージュの人と仲良くなれる気がしなかった(笑)」と語ると会場は大拍手。「だけど、こうやって呼んでもらって今を迎えられてることも素晴らしいことの気がするし、ここで終わらせちゃいけないってことが一番大切なことで。僕も、これからもflumpoolが生きるこの地球上で歌っていきたい。そういう長い時間が経てば経つほど、関係が変わっていったりするものもある、でも変わらないものもあるのかな?と想って書いた曲です」との紹介から「ever since」へ。ブルージーであり童謡のようにも聞こえる温もりに満ちた歌が、じんわりと染み渡っていく。曲が終わり、「君へ届け」のイントロを取り入れて奏でながら、「ここからアゲアゲのやっていいですか?」と煽る高橋。「出しちゃダメなのは声だけです。全部僕にぶつけてください。君に、君に届いてほしい想いを込めて歌います!」との前振りから「現実という名の怪物と戦う者たち」のイントロへ切り替え。ヒット曲「明日はきっといい日になる」を連打してラストスパートを掛けると、ピアノイントロで幕開けた「Piece」では高橋自らクラップし、エモーショナルな歌声を響かせた。「やっぱライヴっていいね」と笑顔を見せた高橋は、「次会える日が来て、その時は一緒に歌えたらいいなって。音程なんてどうだっていいから叫んで、という曲」と語り、最後に新曲「HIGH FIVE」を放った。“栄光は今君とここにいること”とフロアを指し示しながら、力強く叫ぶように歌った。

アンコールで先頭に高橋、その肩に手を置いて後ろに山村が続いてメンバーが再登場。高橋は「flumpoolのライヴなんだから、flumpoolが先に出てこないと。出たらえーやん!みたいな」と語り、山村の勧めでこうなったのだと説明。「熱い人なんですよ、隆太っていう人は。アンコールどうする?っていうのを我々二人で話したんですけども、「今日はどうしても高橋優の曲をやりたい」と言ってくれて」(高橋)と言葉を続けた。「優くんとは……」と再び語りモードに突入した山村は、「あ、(もう曲に)行くつもりやった(笑)?」と空気を読んで留まろうとしたが「この曲をやりたいって言った理由だけ言わせて?」と懇願。高橋は「もちろんもちろん! これから3時間ぐらい話してもらって。「今日は帰さんぞ!」って言ってたよね?」と笑った。山村は「声が出なくなった時にね、カラオケ行って、ちょっと僕が歌うだけで優くんが泣いてくれたとか。声出なくて苦しくてもう音楽辞めようかな?と思ってた時にこの曲を聴いて、大したことないぞ、と。絶対前へ進んでいける、自信持って行こうって言うのを、この曲からはいつも勇気をもらってたので。この曲を、またステージに戻って来られて、今日ここまで来られたし。優くんとflumpool、いい関係でまたしのぎを削って、時にはライバルで、時には戦友で。時には癒やし合って、また進んでいけたらいいなと思って、この曲を皆にも聴いてほしいな、と思いました!」と熱く語った。その曲とは、「リーマンズロック」。生きている証を刻むこと、働くことを歌った、泥臭くも温かな人生讃歌である。山村がまずは歌い始めて、高橋はギターでコードを奏でて寄り添った。続いて高橋もヴォーカルを執り、メンバーはその間1コーラスは手拍子で二人を支えていく。やがてバンド全体での演奏に移行。山村は高橋の肩に手を回しながら、うれしそうに歌唱。互いに「flumpool!」(高橋)「高橋優!」(山村)と讃え合うように叫んで、大拍手の中曲を締め括った。全員集合して客席をバックに記念撮影して初日は終了。一列に並んでステージを去っていく最後の瞬間まで、笑顔に満ちた対バンライヴだった。

生きてくる中で紡いできた物語が、他者の物語と出会った時、何が生まれるのか? この対バンツアーはライヴであると同時に人間ドラマであり、ただ2つのライヴを連続して観る以上の相互作用と化学反応に満ちている。冒頭で記した通り、2日目の模様はU-NEXTで生配信され、7月2日20:00までチケットが販売され見逃し配信を視聴することができる(※同日23:59まで)。大阪でのツアーファイナルへの期待が膨らむ、エモーショナルな東京公演だった。

取材・文:大前多恵

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