福山雅治、約2年ぶりの有観客ライブでファンと再会「やっと会えましたね!」

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Photographer:Hamano Kazushi/Nishimaki Taichi

11月27日・28日、福山雅治が”Promise for the Future”(未来への約束)をテーマに掲げた、約3年10か月ぶりとなる全国アリーナツアーを横浜・ぴあアリーナMMにてスタートさせた。本来ならばちょうど1年前、音楽デビュー30周年を迎えた2020年にツアー開催を予定していたが、コロナ禍で断念。それに先立つ同年3月には、デビュー記念日を挟んだ3DAYS記念公演も中止、無観客のスタジオライブに変更した。加えて今年9月に予定していた故郷・長崎稲佐山での3DAYSも、感染拡大状況と緊急事態宣言の延長を鑑み惜しくも中止とした経緯がある。そんな苦境でも福山はクリエイティブを諦めず、2度の配信ライブを行ったほか、配信番組を立ち上げて発信を強化。ファンとのコミュニケーションを欠かさなかったものの、やはり約2年ぶりとなる有観客ライブでの再会は特別で、その場面は感動的なものだった。

オープニングSEに乗せて、眩い光の中からゆっくりと姿を現した福山。オーディエンスは、まだ福山の顔さえ見えずシルエットだけが浮かび上がった段階で、割れんばかりの大拍手を送った。コロナ以前であれば大歓声が起きる場面だが、飛沫感染防止のため、残念ながらそれは禁止されている。SEが鳴り止み、ギターを肩から掛けてスタンバイする間、静寂の中で浮き彫りになる熱い拍手の音。福山はその一つ一つの音に込められた、数多の“声にならない想い”を全身で受け止めながら、満たされた表情を浮かべていた。「皆さんの“心からの声”がよく聞こえます。逢いたかったですよ!」「やっと逢えましたね! 2年ぶりじゃないですか、横浜!」――福山は眩しそうに目を細めてオーディエンスを見つめ、そう何度も繰り返した。

30周年を記念して2020年12月にリリースした「AKIRA」の楽曲群を、ようやくファンの前で初披露できる待望のステージ。前作から6年8カ月ぶりのオリジナルアルバムで、その間にリリースしてきたヒットシングル群を網羅しつつ、本作が過去のどのアルバムとも異なっているのは、死生観が色濃く反映されている点である。17歳の時に亡くなった父親の名前をそのままタイトルとした表題曲を筆頭に、自己の内面を抉るように深く掘り下げ、コロナ禍ならではの心情も綴った。広く愛されるポップスターでもある彼が、心の闇を吐露するソングライティングに正面から向き合い始めた序章であり、音楽家・福山雅治にとって新たな始まりを意味するアルバムとなっている。オーディエンスは初めて生で受け止める楽曲を手拍子で盛り上げたり、逆に身じろぎもせずに深く聴き入ったり、率直なリアクションを全身で返していった。

セットリストを詳しく明かすことは控えるが、2度の無観客配信ライブ「FUKUYAMA MASAHARU 30th anniv. ALBUM LIVE AKIRA」と「Fukuyama Masaharu 31st Anniv.Live Slow Collection」双方の良さを融合させたハイブリッドな選曲で、スローとアッパー、曲のテンポで大きく区分した二部構成のショウを構築。その上で更にスケールアップしたエンターテインメント空間を今回は立ち上げている、とだけ触れておきたい。ステージセットは、音楽の力によって人々を異空間へと誘う意志、未来への旅立ちをイメージさせるデザイン。プロジェクターで投影する様々なモチーフやヴィジョンは幻想的で、未だ見ぬどこかへとオーディエンスの心を惹き込む深い没入体験をもたらした。福山とマエストロ揃いのバンドメンバーによる音楽表現に、最先端のテクノロジーを用いた美しい映像と光の演出が加わり、楽曲のイメージを視覚的に具現化していく。

今回、2018年に開催された全国ツアー同様、ダブルアンコールを日替わりの選曲で届けていくという準備がある。この初日公演には応募が殺到しプラチナチケット化していた状況を踏まえ、ダブルアンコールの模様はファンクラブ限定で無料生配信。「出発の日を皆で迎えたい」という福山本人の強い意志による計らいだという。生配信は「全国の、全世界のBROS.の皆さん、こんばんは!」との挨拶でスタート。「今夜の、この記念すべきライブをこの歌で噛み締めて味わっていきたいと思います、いいですか?」「あなたの手拍子がビートになりドラムになり、一つになっていきます。いいですか、横浜?」と呼び掛け、ギターのカッティングとカウントから「幸福論」(2009年リリース10th Album「残響」収録)へ。<君が大好きで とても大事さ><ときどき逢えなくっても>という歌詞は、この2年間の空白を乗り越えた福山とファンの関係性そのもののように聞こえてくる。

オーディエンスの手拍子が生み出すビートに乗せ、センターステージで全方位を見渡すようにして歌唱する福山。幸福の形は人それぞれであり、主観的であるべきだと歌うこの曲は、福山の人生哲学をさり気ない形で、しかし明白に宣誓した重要曲。陽気なメロディーではあるが<いつか心臓も止まってしまうけど>など、死を見据えたフレーズもさり気なく織り込んでいて、最新作「AKIRA」へと繋がる死生観も既に見て取れる。エンターテインメントが不要不急とされたコロナ禍の時代において、音楽に幸福感を見出し、それを生き甲斐とするささやかな自由を表明するような、音楽家としての誇りを示す選曲にも思えた。対面するファンと、そして画面越しの世界中のファンと目を合わせ、呼吸を合わせる温かなコミュニケーション。幸福を分かち合った後、福山は「30年一緒にやってきたこのオーディエンスとの一体感!いかがですか、画面の向こうのBROS.!」と満面の笑みを浮かべて語り掛け、幾度もファンを讃えていた。

大いなる盛り上がりの中、公演の最後にはさいたまスーパーアリーナ3DAYS を2022年6月16日・18日・19日に開催することを発表。歓喜の拍手が響き渡った。歓声やシンガロングが無くても「“伝わるんだな”ということをすごく感じさせてもらった」とライブを振り返ると、「大いなる自信と勇気、手応え、確信をもってまた明日からのツアーを半年間、最強のメンバーと最強のスタッフ、誰一人欠くことなくやりきりたいと思います。本当に今日はありがとう!」と清々しい表情で挨拶した。

コロナ禍の先行きを正確に見通すことは誰にもできない。しかし、ライブという“未来への約束”を掲げることでファンと希望を共有する、そんな福山のポジティヴなスタンスが伝わってくる初日公演だった。2022年6月のさいたまスーパーアリーナ3DAYSという新たな目標を見据え、全国13か所31公演となる「WE’RE BROS. TOUR 2021-2022 ”Promise for the Future”」が開幕した。

(大前多恵)

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