清春、カバーソングライブのファイナルでみせた自由で麗しき美学

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8月13日、メルパルクホール東京にて、清春が「東京・大阪ホール公演『Covers』」の最終夜を美しく締め括った。

6月27日のヒューリックホール東京公演から始まった計4本というコンパクトなシリーズながらも、各公演で清春が紡いだ至福の物語にオーディエンスは強く共鳴。制作進行の遅延により発売延期となっていた清春初のカバーアルバム「Covers」のリリース日も決定し、今宵メルパルクホール東京に集まった観客は、清春の歌唱を全身で受け止めるように楽しんでいた。

午後7時を10分ほど過ぎた頃、開演を告げるSEが鳴り、清春がゆっくりとステージ中央に歩み出る。その眩いばかりのシルエットに早くも大きな歓声と拍手が注がれている。中村佳嗣(G)、大橋英之(G)、YUTARO(B)、FUYU(Dr)といった彼が信頼を寄せるミュージシャン達を従え、ショウの準備は万端だ。

時に狂おしく、時に包み込むような「UNDER THE SUN」で幕を開けると、清春の歌声がホールの隅々をも照らしていく。続くカバーアルバム「Covers」からの「悲しみジョニー」でみせた退廃美と情念にもたまらないものがあった。

清春のライヴは、毎回その場でしか味わえないようなスリルに満ちている。この日はたとえば、「Covers」からの甘く切ない「SAKURA」や浮遊感と包容力を宿した「シャレード」などが絶品で、客席のあちこちから、声にならないような感嘆の声が聞こえてくる。

本編中盤の「影絵」や「loved」などの感情の高まりも特筆に値する場面だろう。ライヴが進行するにつれて、ますます歌が強靭になっていくのが清春という稀有なシンガーなのだ。いずれの曲にも、25年の活動を経てきた彼の現在の境地が感じられ、まぎれもない美が宿っていた。特に、本編を締め括る「輪廻」と「MELODIES」は、清春がいついかなる時も詩情に富んだ歌を作り出してきたことを再認識するハイライトだった。

観客の温かい拍手に迎えられたアンコールでは、「Covers」より「傘がない」の詩の世界が清春の解釈を得て、ひと味違った情緒を生み出す。「MOMENT」「FAIDIA」「海岸線」と立て続けに披露したブロックも、ステージに思わず手を伸ばしたくなるような名場面だった。

まだまだ清春の歌声に浸っていたいオーディエンスの願いに応えて、ダブル・アンコールが放たれる。マイクが落下するというアクシデントにより、最初から歌い直すことになった「EMILY」は、清春ならではの鬼気迫る熱演。ラストは「heavenly」「ミザリー」で畳みかけ、輝かしい一体感を場内に生み出した。客席に幸せな笑顔が広がる頃、時計の針は午後10時近くを示していた。

結果的に、<Covers>を掲げながらも、カバー曲の演奏はわずか数曲に留まった本公演だが、この自由さこそが清春の魅力と言えるだろう。既報の通り、清春初のカバーアルバム「Covers」は9月4日のリリースが決定している。併せて、「Covers」より収録曲8曲分のMVを収録したDVD「Covers Music Clips」が9月18日にリリースされる。今回の一連のホール公演で証明されたように、ここに収録される楽曲は、清春が丹念に作り上げた芸術。その圧倒的なセンスを是非とも体感してほしい。

また、清春の誕生日の10月30日には、マイナビBLITZ赤坂にて「The Birthday」を開催。年末には、渋谷ストリームホールでのカウントダウン公演を含む「’19 FINAL」と題された5公演が行なわれる。25周年イヤーの後半も、我々の期待を軽々と超えてゆく麗しき日々が待っていることだろう。ロックの甘美で危険な香りを知り尽くしたカリスマから、ますます目が離せない。

TEXT BY 志村つくね
PHOTO BY 柏田芳敬

セットリスト
M-1. UNDER THE SUN
M-2. 悲しみジョニー(オリジナル:UA)
M-3. アモーレ
M-4. 罪滅ぼし野ばら
M-5. SAKURA(オリジナル:いきものがかり)
M-6. シャレード
M-7. 夢心地メロディー
M-8. 影絵
M-9. loved
M-10. I know
M-11. 輪廻
M-12. MELODIES

<ENCORE-1>
M-13. 傘がない(オリジナル:井上陽水)
M-14. MOMENT
M-15. FAIDIA
M-16. 海岸線

<ENCORE-2>
M-17. EMILY
M-18. heavenly
M-19. ミザリー

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