海外の視点から「日本の魅力」を再発見〜映画『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』公開 吉田兄弟インタビュー

インタビュー フォーカス

吉田兄弟

スタジオライカが日本を舞台に描くストップモーションアニメ『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』日本語吹替え版が11月18日より上映される。情感あふれる日本の風景や風習を息を飲む美しさで描いた本作は、本年度アカデミー賞やゴールデン・グローブ賞のノミネートを始め、“アニメ映画界のアカデミー賞”と称されるアニー賞でも3冠受賞など、全世界の映画賞を総なめした話題作だ。今回の舞台が日本ということ、また主人公のクボが三味線を操る少年ということもあり、日本語吹替え版の主題歌を、世界的三味線奏者の吉田兄弟が担当している。今回は映画公開を記念し、吉田兄弟のお二人に主題歌担当の経緯や、映画のモチーフでもある三味線についてまで話を伺った。

  1. できれば日本から発信したかったような映画
  2. 三味線である&吉田兄弟である必然性を追求したエンディングテーマ
  3. 日本の良さと三味線の魅力を感じてもらいたい

 

できれば日本から発信したかったような映画

――今回、吉田兄弟のお二人は映画『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』の日本語吹替え版エンディングテーマに起用されましたが、どのような経緯で担当することになったのでしょうか?

吉田健一(以下、健一):実はこの映画の存在は製作段階から知っていました。その後、映画のことを聞いたのは僕がパリのワークショップで演奏しているときに、お客さんから「今『KUBO』という映画をやっていますけど、どう思いますか?」との質問されたときで、「前に話があった映画だ」と思い出したんです。

――映画はどちらで観たんですか?

健一:スペインのバルセロナです。去年、僕は文化庁の文化交流使としてバルセロナに住んで、大学で三味線を教えていたんですが、同時期に公開されていたんですよね。それで映画のエンディングにビートルズの「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」のカバーが流れたんですが、実はこの曲、自分もソロライブで、半分ギャグで「ホワイル・マイ・“三味線”・ジェントリー・ウィープス」って曲紹介して演奏したことがあったので、「僕だったらこう演奏するかな」って漠然と考えていたんです。

その後、映画『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』の日本公開が決まったときに、配給のギャガさんから「吉田兄弟と何かプロモーションができないか?」とご相談いただいたので、「『ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス』を僕らなりにカバーしたいです」と逆提案して、今回やらせてもらうことになりました。

――映画をご覧になって、どのような感想を持たれましたか? 

健一:ストップモーションの映画って僕は初めてちゃんと観たんですが、本当にストップモーションなのかと思うぐらい、すごく映像が綺麗で、質感というか素材感が三味線に合っていると思いました。また、三味線というと、どちらかと言うとイロモノ扱いされてしまうことが多いんですが、その描写の仕方や民謡の扱い方なども素晴らしいと思いました。例えば、序盤のお祭りのシーンで鳴っている民謡が、九州の民謡だったりするんですよね。

――海外で三味線をフィーチャーした作品が作られたということに関しては、どう思われますか?

健一:できれば日本から発信したかった、というのが正直なところですよね(笑)。もっと言うと、公開が日本からであってほしかったという想いは、三味線奏者としてはあります。長年「和」に携わってきた身からすると、この映画って日本の宣伝のような映画なわけです。しかも、琴や太鼓、尺八じゃなくて三味線だったということはすごく嬉しく思っています。

吉田良一郎(以下、良一郎):三味線を持つ少年が主人公の映画なんて、自分たちが小さいころには考えられませんでしたからね。自分の小さいころは、三味線って年配の方がやっているイメージで、あんまりカッコよくないみたいな感じでしたから。デビューをキッカケに一生懸命に頑張りましたけど、こういう映画ができて本当に嬉しいですよね。作ってくれてありがとうって感じです。

――海外の映画が描く日本って違和感があったりするものですが、本作はそれがほとんどなくて驚きました。

健一:僕らも一緒ですね。海外公演をたくさんやってきていますが、必ず「勘違いした日本」に遭遇するんですよ。でも、この映画に関しては、若干アジア的要素も入っていますけど、間違いがほぼないと言っても過言じゃないと思います。だから、日本人が観ても納得すると思うんですよね。もっと言えば、この映画を通して自分たちが日本をもう一度考え直すきっかけになったらいいなと思いますね。

――映画の中で三味線の音がものすごいエネルギーを発する場面がありますが、海外の人にとって三味線の音色はやはり特別なものとして響くんでしょうか?

健一:特に津軽三味線はそうですね。海外の人の三味線のイメージってだいたい“チントンシャン”の弱い音色の三味線だったりするんですよ。でも、この映画でイメージされる三味線も、僕らが演奏する三味線も津軽なので、ものすごくパワフルなんです。だから僕らのコンサートに来るお客さんは、まず「音がでかい」とびっくりされるんです。

良一郎:だから映画の中で三味線の音で海が割れたり、敵を倒すという表現はすごくよく分かるんです。ある意味、津軽三味線って魂で弾いているところもあるので、そういうパワーが伝わるのかもしれません。

――津軽三味線はお客さんに向かって音を強く放つイメージがある?

良一郎:そうですね。声も含めて観客に向かってやっているという気持ちが強いので、正直、違和感は感じなかったです。

健一:パッションですよね。アメリカで言うとブルースに近いです。その人の生活や気持ちをそのままストレートに表すものとして力を発する部分は近いものがあるんじゃないかなと思いますね。

 

三味線である&吉田兄弟である必然性を追求したエンディングテーマ

――三味線の響きというと、どうしても時代劇的なイメージを抱かせてしまいますが、本作では現代的な響きに感じました。

健一:そうですね。フレーズもかなり考えられているというか、僕らから観ても「なるほどな」と思いましたし、三味線のバリエーションをそのまま見せてくれているような感じがしましたね。ちょっとアドリブっぽいところが多かったり。

――先ほどお話に出ましたエンディングのビートルズのカバーも「三味線に合うな」と思いました。しかも曲がジョージ・ハリスン作の「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」ですから、ちょっとエキゾチックな感じで。

健一:そうなんですよね。ジョージ自身がそういう東洋的な響きが好きなのは間違いないと思いますしね。僕らが日本版を演奏するにあたって、三味線としてはまず力強さ、それと、後半にかけての盛り上がりでの三味線のアドリブは意識しました。やはり三味線である必然性と、吉田兄弟である必然性は常に必要で、演奏するなら「2人いる」ということの証明は必要なんですよね。そこは表現できたかなと思います。監督からも「素晴らしかった」とお声をいただいたので胸をなで下ろしています(笑)。まず制作陣に納得してもらわないといけないですしね。

良一郎:海外バージョンは、歌の隙間隙間に三味線が入る感じだったので、僕らのバージョンは力強さを出すことと、曲の後半は津軽三味線の細かいフレーズで掛け上がっていく感じをちゃんと入れたいなという気持ちがあったんですが、反応が良かったので嬉しかったですね。

――監督含め製作サイドから事前に要望などはあったんですか?

健一:いや、「お任せします」という感じでした。逆に幅がありすぎて「こうしてくれ」と言われた方が分かりやすいんですけどね(笑)。でも、あとから「違う」と言われてもやり直す時間はないですし、どの辺までOK範囲なのかを見定めつつ、いい意味で裏切るというのが一番難しかったですね。

良一郎:ビートルズファンもいますしね。

健一:僕らからするとサントラが出て、曲がひとり歩きを始めたときに、皆さんが納得するものじゃないといけないんですよね。やっぱりミュージシャンとしては絵と合わせたときだけじゃなくて、曲だけでも「良い」と言われなくてはいけないので、そこはすごく意識しました。

――吉田兄弟のお2人は、2003年から海外でコンサートツアーをされていますが、そのころから比べて、三味線という楽器に対して、海外の方の捉え方は変化しているんでしょうか?

健一:まだまだ三味線を聞いたことがないという人が多いですが、僕らがアメリカのCMに起用してもらったりすることで、少しずつ三味線というものがどんなものか理解されてきているとは思います。例えば、アメリカで言うとバンジョーに似ていたりとか、各国に似た楽器ってあると思うんですが、そういった楽器と比較されつつ、興味を抱いてくれる方も増えてきました。僕自身、海外の大学で三味線を教えていますが、やはり他の弦楽器をやっている生徒は三味線を覚えるのが早い気がしますし、何かしらつながっているところは絶対にあるなっていうのは分かるんですよね。

――若い人の三味線人口は増えている?

健一:そうですね。アメリカではすでに三味線のコミュニティがありますし、日本でも津軽三味線のサークルはほとんどの大学にあるんじゃないでしょうか。

――かなり浸透しているんですね。

健一:すごく浸透しています。流派よりも先に行っている感じですね。

良一郎:自分たちが大会に出ていたころは、20代、30代の人たちが優勝する感じでしたが、今はもう中学生、高校生が全国大会1位になる時代ですね。

健一:本当に上手いですからね。

――やはり若いうちから三味線を始めると、伸びしろも違うんでしょうか? バイオリニストの方も始めるのがすごく早かったりするじゃないですか。

健一:実は三味線って子供用がないんですよ。だから、始める年齢というのにも限界があって、僕らは5歳からなんですけど5歳は早すぎるんですよね。映画でもKUBOが持つ三味線が大きいのは、大人用だからなんです。

だいたい小学校の高学年から三味線を始める子が多いんですが、若干それが前倒しになっているという事実はありますね。小学校入る前くらいから三味線を持ち始めて、もう小学校6年生とか中学生になると、もうかなり上手いレベルにまで達しているという。三味線の全国大会も、僕らのときは3、4大会くらいしかなかったのが、今では10大会くらいに増えました。津軽三味線の九州大会とかありますからね(笑)。

――裾野が広がって、競争も激しくなっている?

健一:そうですね。映画の中で弾いている三味線奏者も、1人はカリフォルニアのアメリカ人ですし、もう1人はロンドン在住の日本人三味線奏者だったりするので。今、台湾にも三味線の流派は存在しますし、この間ブラジルに行ったときにも流派はありましたからね。

 

日本の良さと三味線の魅力を感じてもらいたい

――海外の人は三味線のどこに魅力を感じているとお考えですか? 

健一:やはりその力強さというのはあると思います。あとはアドリブ性ですね。三味線は、伝統楽器としては歴史が浅く、構築されてない分、まだまだ伸びしろがあるんですね。これを「自分たち風」にできるという楽しみがあります。

例えば「じょんがら節」は、楽譜とかいっさい存在しないんです。全部自分たちのアドリブでやるので「じょんがら節」ってそれぞれ違うんですよ。たぶん、皆さんが聞いたことのある「じょんがら節」は、そのときだけの「じょんがら節」ということなんですよね。それが面白いと言いますか、海外だとやっぱりジャズに近いです。そういうところが受けている要因になっているかなと思いますね。

――ライブ感があるということですね。

健一:そうですね。リピーターの方は皆さん「ここが前回と違う」とか「今回は弾き方が違う」とか、そういう楽しみ方をしていますね。

――「日本人アーティストの海外進出」は、最近の音楽業界のキーワードになっているのですが、吉田兄弟のお二人はずっと以前から海外公演をされていますよね。その経験から、日本人アーティストが海外の人たちに受け入れられるには何が必要だとお考えですか?

健一:大前提は“個”を持っている人ですね。自分のアイデンティティをまず持っている人。どんなジャンルをやっていたとしても、これは絶対だと思います。

――音楽のジャンル以前の話ですね。

健一:ええ。己を知っていないと、ウリが分からないですからね。それって日本人が一番不得意なところでもあります。例えば、僕らが海外に行ったときに、演奏しなくても着物を着て三味線を持って登場するだけで、変な話、半分くらいはオッケーだったりするわけです。そういうウリが何かを知るっていうのが、1番大事だと思いますね。やはり、そこからじゃないですかね。

――逆に、吉田兄弟のお2人が、海外での活動で心がけていることは何ですか? 

健一:まず「変えないこと」ですね。

良一郎:よく、海外だから、「何か特別なことをやるんですか?」とか言われるんですがやらないですね。そのままでいいと僕は思っているんですよ。

――納豆は臭いままで、みたいな…?

良一郎:その通りです(笑)。「海外だからこの曲をやります」じゃなくて。ただ、三味線のことを全く知らない方が多いので、曲順は意識しますね。キャッチーなというか、分かりやすい曲目を1曲目、2曲目に持ってくるというのは、ちょっとあります。

健一:例えば、ロンドンに行って、「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」を1曲目に持ってきたら大失敗するわけです(笑)。まずは自分たちでやっている音楽を聞いてもらって、そこで納得してもらった上でカバーというのはアリですが、そこの歩み寄り方を間違えると、大事故が起きますね。

――そこは試行錯誤されたんですか?

健一:すごくしました!(笑)僕らはアメリカのインストアライブツアーから始めているので、それこそ誰もいないところでとか、本屋さんやCD店とか、歩いている人たちの足を止めるにはどうしたらいいか? もしくは長く立ち止まってもらうためにはどうしようか? ということを一生懸命考えました。今のコンサートはその試行錯誤した結果なんですよね。

良一郎:まずは1曲目、2曲目でどうグッと掴むか、その後30分聴いてもらうためにはどうしたらいいか、すごく考えましたね。

健一:フィラデルフィアで『ロッキー』のテーマをやってみたら大失敗したり(笑)。本編はちゃんとやって、アンコールでちょっとやってみたんですけど…もうドン引きですよね。たぶん違う曲に聞こえたんじゃないかな(笑)。

――(笑)。ウケ狙いをしないほうがいい?

健一:はい。今回のお話もそうなんですが、僕らでやる必然性というものですよね。あと三味線である必然性、ここは絶対的に譲れない部分で、それがもし削がれるようであれば、やらないほうがいいと思っています。そこを見誤ると、僕らだけの問題ではなくて、三味線界というか日本の文化にとってもマイナスになる可能性があるので、常に気をつけています。

――また日本にねじ曲がったイメージがついてしまう可能性が出てきますよね。

良一郎:そうなんですよね。僕らがそれを提示してはいけないなというのはすごく思いますね。

――最後になりますが、映画『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』を楽しみにしている人たちにメッセージをお願いします。

健一:まずこの映画の映像の美しさ、美術の素晴らしさを是非味わってもらいたいです。また人間関係だったり、日本の古き良きところがたくさん盛り込まれている映画ですので、ご自身の思い出と照らし合わせて観てもらえたらいいなと思いますね。あと映画全体を通して三味線の様々なバリエーションを聴いてもらえる作品だと思いますので、三味線の魅力を感じていただきつつ、最後に僕らの楽曲を楽しんでいただけたら嬉しいです。

良一郎:海外に行くと「相撲を観に行ったことがあるか」とか「富士山に登ったか」とかよく聞かれるんですが、意外とそういう経験がなかったりするわけじゃないですか。日本人には身近すぎて。この映画もそうで、例えば、灯篭流しだったり、三味線だったり、景色だったり、日本の良さをあらためて感じてもらえる映画だと思いますし、「世界が注目している日本ってこういうところなんだ」と理解していただけると思います。


作品情報
映画『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』
2017年11月18日(土)から新宿バルト9ほか全国ロードショー
監督:トラヴィス・ナイト
声の出演:アート・パーキンソン(クボ)、シャーリーズ・セロン(サル)、マシュー・マコノヒー(クワガタ)、ルーニー・マーラ(闇の姉妹)、レイフ・ファインズ(月の帝)
原題:Kubo and the two strings/2016/アメリカ/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/字幕翻訳:石田泰子
c2016 TWO STRINGS, LLC. All Rights Reserved.

オリジナル・サウンドトラック
CD「KUBO クボ二本の弦の秘密」
2017年11月15日(水)発売
WPCS-13744 2,600円+税
収録曲:計16曲+ボーナストラック
音楽:DARIO MARIANELLI
テーマ曲:WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS / REGINA SPEKTOR
ボーナストラック:日本語吹替え版主題歌「WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS」(インストゥルメンタル)
作詞・作曲:ジョージ・ハリスン/編曲:井上 鑑/演奏:吉田兄弟

オリジナル・サウンドトラック「KUBO クボ二本の弦の秘密」

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