海宝直人は「頭脳派」、平間壮一は「人たらし」?~二度目の共演を果たす二人が語る音楽劇『ダ・ポンテ』その魅力とは

アーティスト

SPICE

左から 平間壮一、海宝直人

左から 平間壮一、海宝直人

音楽劇『ダ・ポンテ~モーツァルトの影に隠れたもう一人の天才~』が、2023年6月21日(水)~25日(日)に東京・シアター1010にてプレビュー公演、7月9日(日)~16日(日)に東京建物Brillia HALLにて本公演が上演される。(その後、愛知、大阪公演あり)

本作はモーツァルトの三大名作オペラ『フィガロの結婚』『ドン・ジョバンニ』『コジ・ファン・トゥッテ』の台本を書いた詩人、ロレンツォ・ダ・ポンテの数奇な人生を描く音楽劇。モーツァルトの名曲をモチーフにしたナンバーとオリジナル楽曲を交えて、エンターテインメント性豊かに若き天才たちの軌跡が描き出される。天才詩人の主人公ロレンツォ・ダ・ポンテ役に海宝直人、ダ・ポンテと運命的な出会いを果たし、革新的なオペラを作った作曲家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトを平間壮一が演じる。2016年以来二度目の共演だという二人に、役柄や作品への意気込みを聞いた。

■ダ・ポンテは「新しいタイプの主人公」(海宝)、モーツァルトとの共通点は「変わり者」?(平間)

――まずはそれぞれの役柄について教えてください。海宝さんが演じられるのは詩人ロレンツォ・ダ・ポンテという人物ですが、彼の魅力や面白さはどんなところに感じていますか。

海宝:ダ・ポンテは素晴らしい作品を遺しているのにも関わらず、世の中では意外と知られていない存在なんですよね。僕自身もこの作品のお話をいただいて初めて彼のことを知ったのですが、まずそのことに驚いて。調べていくうちに、数奇でドラマチックな人生を歩んでいて面白い人物だなと興味が湧きました。

名声を求めて、アーティストとして成功することを妥協せず貪欲に求めていった人で、ある地点までは成功するけれども、その才能や苦労に見合う成功を収めたかというと、そうでもなかったりして……。でも、彼の人生を辿っていくと、「生きる」ことを全力楽しんでいた人なのかな、っていう印象を受けるんですよね。当時、まだオペラなどの芸術が浸透していないアメリカへ渡って、芸術文化を広めようと精力的に活動を続けて。最後の最後まで、自分が作ったオペラというものを大衆に聞いてもらいたい、観てもらいたい、自分の才能を認めてもらいたい、そういった思いで生きていた人なのかなと思いました。

――“女好きで詐欺師”という一面もある人物ですが、海宝さんがこういった役柄を演じられるのは意外性がありますね。

海宝:そうですね。今回、どういうテイストでそういった部分を描いていくか、僕自身も楽しみにしています。とくに冒頭では、そのあたりがコミカルに描かれていきそうな感じですね。これまでにない、新しいタイプの主人公という感じがしています。自分に正直なキャラクターなので、楽しんで演じられたらいいなと思います。

――そんなダ・ポンテと運命的な出会いを果たす作曲家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトを平間さんが演じられます。

平間:僕はこれまでモーツァルトに深く触れた経験はなくて、小学生の頃にいちばん最初に習う音楽家というイメージです。音楽室に写真が貼ってあったりとか。作品を通してこれからいろいろ知っていくのが今から楽しみです。

モーツァルトの役を演じるのは、自分ではちょっとイメージが湧かなかったんです。でも、周りの方たちは「すごいぴったりだね!」って言ってくれて。自分ではよくわからないんですが、唯一無二の感じとか、奇想天外というか、ちょっと考え方が変わっていたりするところが似てるよね、っていうニュアンスみたいですね。僕自身はあまり変わってるっていう意識はないんですが……。

――ご自身としては、モーツァルトとの共通点や共感する部分はありますか。

平間:結局、最終的にはピアノの鍵盤にある音でしか「曲」は作れないわけじゃないですか。それはもう行きつくところ、誰が作っても同じになってしまうんじゃないか、「同じ音」であることには変わりない、ということに対してストレスが溜まりそうだな……とか考えているところが、ちょっと自分とも重なりそうな気がします。

――そういう風に捉える方ってなかなかいらっしゃらないような気がするので、とても興味深いですね。モーツァルトを演じるうえで、今の時点でこういうところを大事にして演じたいという構想があれば教えてください。

平間:最近、自分は物事を広く視ているなっていうことに気が付いたんです。でも、モーツァルトに関しては、ひらすらに音楽のことを考えていた人だと思うので、もっと自分中心で突き進んで、あえて視野を狭くして演じていきたいなと思っています。人への迷惑とかもあまり考えずに、自分がやりたいことをやっていく、という風にできたらいいなと。

■作中の出会いは「それぞれの欠けた部分がバチッとはまる」みたいなもの

――作品の構成案を読まれてみて、物語としてはどのような印象を持たれましたか。

海宝:まずは、これが主題だと言ってもいいくらい、ダ・ポンテとモーツァルト、二人の関係性が大事に描かれているな、という印象を受けました。あと、思った以上に歌う楽曲が多いのかな、と。“音楽劇”と謳っていますが、ミュージカルと言ってもいいぐらい、歌で作品が進んでいくような印象を持ちました。曲に関してはまだこれから聴かせていただく段階ですが、音楽の面でもすごく楽しみですね。

――これはよく疑問に感じることでもあるのですが(笑)、ミュージカルと音楽劇の明確な違いって何かあるんでしょうか。

海宝:色々な説がありますよね。「音楽の中で物語が進むとミュージカルで、進まないのが音楽劇」という話も聞いたことはありますが、これという明確なものはないのではないでしょうか……。きっと皆さんそれぞれの中に基準を持って命名されているのだと思います。

――平間さんはいかがでしょうか。作品の魅力についてお聞かせください。

平間:まだ全体像が見えていないところもありますが、歌えるキャストが集まっている中で、芝居中心で進んでいっても面白そうだな、と思いました。海宝くんとは、芝居で二人の関係性をしっかり描いていきたいね、っていうお話を少しさせていただいていて。ダ・ポンテに関してはまだわからない部分も多いですが、“モーツァルトの影に隠れたもう一人の天才”というところで、光と影から生まれるエネルギーやパワーのようなものも描かれていくのかもしれません。

――ダ・ポンテとモーツァルト、今の時点では二人の関係性をどんなふうに描いていきたいと思われていますか。

海宝:この作品においての二人は、それぞれの欠けた部分がバチっとはまる出会いみたいなものを感じるんです。モーツァルトはモーツァルトで、自分の音楽にインスピレーションを与えてくれるような才能を求めていて、ダ・ポンテは自分の詩や台本に見合う音楽を作れる音楽家をずっと求めていて。お互いにとって奇跡的に巡り会えた存在なのかな、と。お互い「ようやく分かり合える人と出会えた」という歓びと、そこからすれ違っていってしまう過程を、コミカルな要素も含めて魅力的に描いていけたらと考えています。

 

■平間壮一は「人たらし」(海宝)、海宝直人は「頭脳派」(平間)

――お二人は、今回が二度目の共演になりますね。

海宝:平間くんとはミュージカル『バイオハザード』(2016年)で共演しています。すごくこう、いい意味で「人たらし」というか(笑)、周りから愛される人ですね。みんなに可愛がられて、現場の空気がほっこりするような。また、役に誠実に向き合う表現者、アーティストだなという印象もあります。今回新しい作品を一から一緒に作ることができるのは、とても楽しみですね。

平間:海宝くんは、常に頭を使ってお芝居を考えているというか、にらめっこして作っていってるんだな、っていう印象があります。それに比べると自分は感覚派で、まずやって出してみて、気づいたことを後でメモしていくというタイプなので、真逆の二人が集まったなという感じがしますね。頭脳派の海宝くんと話すときは、自分が失礼なことを言ってしまっていないかといつも緊張します(笑)。

――そうなんですね(笑)。でもその真逆な感じがダ・ポンテとモーツァルトの関係性にも生きてくるかもしれませんね。平間さんから見て、役者としての海宝さんの魅力はどんなところに感じられていますか。

平間:以前、海宝くんが出演したミュージカル『イリュージョニスト』(2021年)を観に行きまして、コロナ禍で演出を変えて上演されたものだったんですが、それがすごくかっこよかったんです。役者同士の対面を抑えて、客席の方を向いて芝居する場面が多く、個人的にも好きな演出だったんですが、観ていて「本当にお芝居が好きなんだろうな」というのが伝わってきて。歌は皆さんご存じの通り素晴らしい方。でもそのときは“歌の人”というイメージより、芝居好きな面を感じて、より魅力的な役者だなと実感しました。そんな方とがっぷり四つに組んで作っていくのは、緊張もしますが楽しみですね。

――他にも楽しみにされている共演者の方はいらっしゃいますか。

海宝:皆さん楽しみですが、サリエリ役の相葉(裕樹)くんは『レ・ミゼラブル』や『アナスタシア』でも共演していているので、とても心強い存在です。女性陣は初めてご一緒する方が多いですが、ナンシー役の田村芽実さんとはTOHO MUSICAL LAB.で、それぞれ別作品に出演していたり、『雨が止まない世界なら』というミュージカルのコンセプトアルバムにお互い参加していたりというご縁があって。本当に素晴らしい歌声で、表現者としていつも素敵だなと思っているので、ご一緒できるのが楽しみです。

■オリジナル新作に「みんなで意見を出し合ってチャレンジしていければ」

――演出は青木豪さんです。

海宝:青木さんとご一緒するのは今回が初めてで、未知ではありますがとても楽しみですね。以前、青木さんが演出されたミュージカル『バケモノの子』を拝見させていただきましたが、パペットの使い方や舞台転換など、多彩な手法を用いていたのが印象的でした。ビジュアル撮影のときにご挨拶した程度で、まだちゃんとお話ができていないんですけれども、これから一緒に作品を作っていけることにワクワクしています。

平間:最初にお会いしたのが、佐藤健くんが主演の『ロミオ&ジュリエット』(2012年)で、その次に僕が出演した『黒白珠』(2019年)という作品で豪さんが脚本を書かれていて。あと、観劇の際に劇場でたまにお会いすることもあって、休憩中とかにちょっと話したりする時に、「視点が面白い方だな」と感じます。「どこを見ているんだろう?」って気になる人なんですよね。あのまん丸の可愛い目で、どこに注目して、何を大事にされているのかなって。

――『黒白珠』はストレートプレイということもあり、平間さんのお芝居が印象に残った作品でした。当時の青木さんとのエピソードで覚えていることはありますか。

平間:けっこう大変な作品で、役者と脚本家と演出家、舞台監督も含めて、みんなで作っていったところがありましたね。脚本を書くためにエチュードをして、「こういう状況だったら、役者はなんて言いたくなるのか」とディスカッションして、すぐに青木さんが脚本を書き直したりとかしていて。今回も意見を出し合いながら、みんなで作っていけたらと思っています。

――今回、オリジナルの新作になりますが、新作に挑む醍醐味はどんなところに感じますか。

海宝:やはり面白さと大変さ、両方ありますよね。みんながそれぞれ必死になってアイデアを持ち寄って作っていくので。どんな現場もそういった場面はありますが、例えば動きなどすべてがきっちり決まっている中で自分の個性を乗せていく、という作品の作り方とはまた違う工程が必要になってきますし。各々が自分の引き出しをどんどん開けていって、毎回いろんなことにチャレンジしていく、そういったみんなの姿を体感できるのが刺激的であり、面白く感じるところですね。

■音楽劇ならではのエンターテインメント性と人間模様に注目

――作品の公式サイトに、ダ・ポンテとモーツァルトとの関係性を謳った「君は最高の相棒」というキャッチコピーがありますが、お二人にとってそう思える“相棒”はいますか。

平間:そんな風に呼べる存在に出会いたいですね、これから。やっぱりこの世界で役者をやっていると、周りの仲間は友達であると同時にライバルでもあるので、“完全なる味方”って言える存在がいると心強いなと思います。

海宝:僕は音楽活動でバンド(シアノタイプ)をやっているんですが、バンドメンバーの仲間は、相棒と言える存在ですね。彼らといると、自分のホームにいるような気持ちになれるので。

――バンドも結成10周年を迎えられて、益々充実しそうですね。それでは最後に、お客さまへメッセージをお願いいたします。

海宝:演出の青木豪さんをはじめとする、素晴らしいキャスト、クリエイティブチームの皆さんと一緒に新しい音楽劇を作ってまいります。笑いあり、グッとくるところもある、そして音楽劇ならではの聴きどころや見どころの詰まった、エンターテイメント性の高い作品に仕上がっていくのではないかと感じています。自分の人生を生き切ったダ・ポンテという人物を通して、観終わったあとはきっと前向きな気持ちになれる作品だと思いますので、ぜひ楽しみにしていてください。

平間:「人間は愚かだな」、と思うことが年を重ねるごとに増えてきたのですが、そう感じる事態に直面して立ち向かったときに、人間は成長できるのだと思います。でも、現実世界で体験すると辛く感じることもあるので、舞台の上で起きている人間模様をご覧いただいて、こういうところに気を付けよう、身近な人にこうやって接してみよう、と振り返って感じてもらえる作品をお届けしたいと思っています。ぜひ劇場に足をお運びいただけたらうれしいです。

 
【海宝直人】
ヘアメイク=友森理恵
スタイリスト=津野真吾(impiger)
衣装協力=D/him(フィルム)ジャケット(アウター)¥83,600、ジャケット(インナー)¥53,900、ニット¥37,400 ※全て税込

【平間壮一】
ヘアメイク=菅野綾香
スタイリスト=岡本健太郎

取材・文=古内かほ 撮影=池上夢貢

関連タグ

関連タグはありません

オススメ