Atomic Skipper コロナ禍の“制限”を音楽と向き合う時間に費やしたバンドが生み出した、瑞々しいエネルギーに満ちた新作『人間讃歌』完成の道のり

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Atomic Skipper

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静岡県磐田市発の4人組ロックバンド・Atomic Skipperが、2ndミニアルバム『人間讃歌』をリリースした。2014年のバンド結成後、メンバーチェンジを経ながら、発表する音源は次々と完売、ライブを重ねシーンで頭角を現してきた。そして、2019年に現体制となり、いよいよ本格始動!となった矢先、コロナ禍により活動は制限されることに。しかし、バンドはその“制限”を音楽と向き合うことに費やし、瑞々しいエネルギーに満ちた新たな作品を生み出した。中野未悠(Vo)、神門弘也(Gt,Cho)、久米利弥(Ba,Cho)、松本和希(Dr)の4人に、最新音源『人間讃歌』完成にいたる道のりを聞いた。

――4月7日に2ndミニアルバム『人間讃歌』をリリース。新譜を掲げてのツアーも控えたAtomic Skipperのみなさんは、現在も静岡県浜松市在住なんですか?

中野未悠(Vo):そうです。静岡って東京も大阪も同じくらいの距離で行けるので、便利で、不便さもそんなに無いんです。

神門弘也(Gt,Cho):不便はないね。『人間讃歌』は名古屋で泊まり込みで録ったんですけど、全然苦じゃないし。レコーディングが終わった開放感で、一日中お酒を飲んだり楽しかったよね?

中野:メンバーで潰し合ったりしてね(笑)。

――仲いいなぁ(笑)。でも、メンバーでずっと一緒にいて、音楽のことばかり考えてっていう時間はすごく大事だし、貴重ですよね。

神門:そうですね。中野の唐揚げがすごい美味しかったことを覚えてます。

中野:そう、私が唐揚げ作ったんです!

神門:メシ食うのもお金かかるんで、「唐揚げだったら安いし、漬け置きができるから」って、鶏肉を買ってきて唐揚げを作って。それが旨くて、また酒が止まらなくなるっていう。

中野:唐揚げ得意なんです、私(笑)。でもああいう時間があったことで、4人のグルーヴや結束はより高まったと思います。

中野未悠(Vo)

中野未悠(Vo)

誰かの書いた歌詞を表現するのは最初は戸惑ったんですけど、神門は私の考えも汲み取った上で歌詞にしてくれるので任せようと思えた。(中野)

――結成7年目、2019年に現体制になって2年です。

松本和希(Dr):はい。僕がサポートで1年やった後、正式にメンバーになって2年経ちました。

――現体制になって、デモ音源「平成のあとがき」が1000枚売れて、BUNS RECORDSに所属が決まってと、バンドが本格的に動き出したみたいなところはありますよね。

神門:そうですね。(松本)和希の加入前、色んな人にサポートしてもらったんですけど。俺は「和希がいい。和希じゃないと曲作れん!」って異常に言ってて。

松本:照れちゃうスね(笑)。

神門:もともと、久米くんと和希が仲良いのもあって、こいつしかいないと思いました。

――もともと仲良い同士だと、生まれるグルーヴも違いますか?

久米利弥(Ba,Cho):違うと思います。ライブが上手く行かなくなった時とか、練習するよりも「ちょっと遊ぼ」って遊びに行った方が音が合ったりして。

松本:そうだね。この間もスタバで期間限定のフラペチーノを奢ってくれました(笑)。

神門弘也(Gt,Cho)

神門弘也(Gt,Cho)

自分が安心して生きていくために書いた曲と歌詞が一致した時、ずっと探していたものがそこにあったと思えたんです。(神門)

――Atomic Skipperは全曲、神門くんの作詞作曲ですが。それは結成時から変わらない?

神門:最初は僕と久米くんで作って、中野が歌詞を書いたりしていたんですが。僕、自分で思うより思想が強いらしくて。自分の表現を曲げたくないので(笑)。自己表現として曲を書くようになって、そこにメンバーがいて、音楽がいたって感じでした。

中野:誰かの書いた歌詞を表現するって難しいことなので、最初は戸惑ったんですけど。神門は私の考えも汲み取った上で歌詞にしてくれるし、言葉にするアウトプットの力は私より長けてるので任せようと思えたし。“私はそれを表現することに注力した方がいい”という考えになってきて、曲の完成度もどんどん上がった感じがします。

神門:確かに歌詞を書いていて、自分のことだけでなく4人分の人生を書かなきゃいけないというか。言葉にそれくらいの責任があると思って書いてます。メンバーと何気ない話しをしていて、それがベースになることがあったりするから、それぞれの考えが入ってるし、それぞれ好きな曲が違ったりして。歌詞を書く時は自分のためでありながら、バンドのためになる言葉を選ぶというのは信条にしています。

――神門くんの歌詞って、“僕”を歌う一人称が多いけど、だからこそ聴いてる人が“これは私の歌だ”って置き換えられると思うんです。で、話を聞いて分かったんだけど。これは思想の強い神門くんの考えや性格が出ているだけじゃなくて、4人の気持ちが乗ったバンドの考えや性格が“僕”という形で出ているんですよね。だから、他の人が聴いても共感性が高いし、楽曲に4人が同じ風景が見える中で表現できている。

神門:僕はそうだと信じてます。一人称を“僕”にしたのも理由があって。中野は“私”にした方が歌いやすいと思うんだけど。秋元康さんもAKB48に“僕”って歌わせていたり、“僕”にした方が同性からはロックスターっぽく映るし、男の子も“僕”って歌うことで入り込めるところがあると思うんです。あと、中野の声が女性女性していないので、“僕”って歌うことで良い化学反応が起きそうというのは考えてました。

――なるほど。確かに中野さんのボーカルは、強さとエモさとキュートさを持っていて、すごく近いところから歌ってくれている感じがあるし、言葉が耳にしっかり入ってきます。

中野:ありがとうございます。私は細かい感情を歌で表現したいと常に思っていて、それにはブレスひとつも、語尾の消え方ひとつも大事だと思って。そういった一つ一つを大事にしながら歌っています。バンドを続けて色々経験していく中で、そこから生まれた感情もあるので、それも上手く表現しながら歌えるようになってきたなと思っています。

 

――去年の自粛期間にライブができなかった時期って、バンドにどう影響しました?

神門:できなかった期間の方が、メンバーの結束力は強くなったかも知れないですね。『人間讃歌』ってコロナになってから作り始めて、1ヶ月かからずに作って。「シグネイチャー」だけ全然できなかったんですけど、それ以外の曲はすごく順調に作れて。

久米:めちゃくちゃポンポン来て、覚えられないくらい来た時期があったよね?

神門:そう。「動物的生活」っていう曲をコンピ用に録って、その後に久米くんと和希が8時間くらいスタジオに入ってた時があって。そういう姿を見たらすごい背中を押されて、“俺もやれることをやらなきゃ!”と思って曲を作り出したんです。

久米:僕、去年の3月まで社会人で、4月から仕事を辞めてバンドを頑張ろうと思った時にコロナだったんで。本来、ツアーだった期間に何もできなかったのが辛すぎて。罪悪感を埋めるためにスタジオに行ってたところはありますね。

神門:ミックスしにスタジオ行ったら、クリックが聴こえて。なにやってるんだろう? って覗いてみたら、ベースとドラムで同じフレーズを20回しくらい練習してて。

松本:貪欲にならないと押しつぶされちゃうような感覚があったんです。だから、あの期間が僕を突き動かしてくれた部分はありますね。

――そう考えると、ロックって絶対に不要不急じゃないですよね。

神門:本当にそう思います。俺は爆音でウイルスも倒せると思ってますから(笑)。

松本:あはは。でも実際に音楽に夢中になると、元気になりますもんね。

神門:あと、今までは人に向けて歌詞を書いていたんですけど、あの時期に“なんのためにライブをやってるか?”をよく考えて。結局、自分のためだと思った時、自分を見つめ直す歌詞が増えたんです。その時、“こういう曲が聴く人の価値観を見つめ直す機会になってくれるんじゃないか?”と思ったし、最終的には“みんなの人生が肯定されるべきものだ”と思えるようになったし。久米くんと和希の鬼のスタジオ期間とか、中野がラインに残したひと言で歌詞が大きく変わったり、色々見つめ直すことができて。すごくポジティブな気持ちで歌詞が書けたし、僕だけでなく4人で書き上げたような歌詞になったんです。

久米利弥(Ba,Cho)

久米利弥(Ba,Cho)

「スーパーノヴァ」のデモが送られてきた日に彼女と別れて。すごいメンタルで聴いた時、“めちゃいいな!”と思って。(久米)

――「シグネイチャー」の歌詞も《狂おしいほどの毎日を僕ら生きてる》だし、「コアビリーフ」の歌詞も《これが僕らの日々だ》だし。“僕”でなく“僕ら”なんですよね。

神門:そう。要所要所で“僕ら”って自然と使っているんですが、それは人に言われて気付いたんです。無意識でした。

――過去の音源を聴くと、今作は歌詞だけでなくメロディも変化しましたよね? 

神門:やりたいことがやっとやれるようになったんだと思います。そのバランス感覚が掴めなかったから、「シグネイチャー」がなかなかできなかったし。前作を踏襲したものを作りたいって思いもありつつ、僕は「人間讃歌」と「スーパーノヴァ」が一番良い曲だと思ってて。それはバランスを掴めて、本当にやりたいことができたからだと思うんです。「シグネイチャー」Cメロで《誰も知らなくていい僕の心の裏側のこと》と歌っていて、それは自分が安心して生きていくために書いた曲と歌詞だったんですけど。その歌詞と曲が一致した時、ずっと探していたものがそこにあったと思えたんです。

――思考の向こう側にたどり着けた時、100%の力が出せたんですね。

中野:私も「シグネイチャー」は歌詞に共感する部分がたくさんあったし、バンドのレベルをひとつ上げてくれる曲になったと思います。以前は“大爆音で音が大きければ勝ち”みたいな感じだったんですけど。いまは歌も大事にしながら、自分たちのやりたいことをやって、というバランスが取れてきて。それぞれが曲に対して考えられるようになってるし、それを言いやすい環境になってる。お互いの信頼やグルーヴ感がぐっと増して良い方向に向けていて、それぞれのやりたいことが100%できるようになっていると思います。

――神門くんから「スーパーノヴァ」と「人間讃歌」という曲名が出ましたが。今作で思い入れの強い曲をそれぞれ聞かせて下さい。

中野:今回は細かい感情をすごく考えて歌っていて、その中でも神門の怒りの感情も歌詞に入った「コアビリーフ」はすごく人間らしいなと思ったし。細かい感情の表現もすごく考えながら、歌に臨むことができました。

久米:僕は個人的な話なんですけど、「スーパーノヴァ」のデモが送られてきた日に彼女と別れて。すごいメンタルで聴いた時、“めちゃいいな!”と思って。翌日、神門に別れたことを話してできていった曲なので、想い入れはすごく強いです(笑)。この曲は俯瞰で見ると恋愛の歌詞に聴こえるんですけど、実は宇宙を書いていたり、想像を越えてきて。今回、全曲そうなんですけど、曲の意味を知れば知るほどに好きになる感覚がありました。

松本:僕は「ノンフィクション」。僕らがお世話になっている磐田FMステージっていうライブハウスの店長さんがドラマーで、アレンジしていく中でアプローチを一緒に考えてもらったり、この曲でライブハウスとの結束もできたんです。

松本和希(Dr)

松本和希(Dr)

今が一番楽しくライブができてるので、ツアーを回って帰って来た時に自分たちがどれだけ成長できているかも楽しみです。(松本)

――では、最後にツアーに向けての意気込みをそれぞれ聞かせて下さい。

中野:今回もガッツリ回らせてもらうんですけど、いままでの青い部分も大事にしながら、新しい部分を見せることができるアルバムを持ってツアーを回れるので。それをライブで表現して、成長した姿を見せられたらいいなと思ってます。

久米:僕はシンプルにライブができることが楽しみですね。アルバム制作の期間が濃かったので、それをライブで表現できるのが楽しみだし、セトリを考えるのも楽しみです。

松本:僕は今が一番楽しくライブができてるので、ライブやお客さんの反応が楽しみだし、ツアーを回って帰って来た時に自分たちがどれだけ成長できているかも楽しみです。

神門:僕は、各地のライブハウスの店長さんやお客さんに会えるのが楽しみですね。まだまだ力が足りないと思うけど、このアルバムを持ってライブを見せて、“こいつらは本物のバンドになろうとしてるんだな”って思って貰えればいいなと思うし。全国のライブハウスやお客さんたちに可愛がって貰いたいので、贔屓にして下さい(笑)。

取材・文=フジジュン

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